機械部品の熱処理・表面処理基礎講座
機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第1章 機械部品に用いられる材料

1-2 鉄鋼材料の種類と分類

鉄鋼材料は、合金元素の添加や熱処理によって物理的性質や機械的性質を容易にコントロールすることができます。しかも、他の材料よりも安価なため、身近な小物部品から大物部品にいたるまでその構成材料として広く利用されています。 表1に、JISで規定している鉄鋼材料の中から、比較的使用量の多いものについて、規格番号、代表的な材料記号および主な用途を示します。

表1 JISで規定されている主な鉄鋼材料の分類と用途

分類 J I S 主な用途
規格番号 代表的な記号
圧延鋼材 一般構造用圧延鋼材 G 3101(2010) SS400 橋,船舶,車両,その他構造物
溶接構造用圧延鋼材 G 3106(2008) SM400B SSと同様で溶接性重視のもの
圧延鋼板・鋼帯 熱間圧延軟鋼板・鋼帯 G 3131(2011) SPHC 建築物,各種構造物
冷間圧延鋼板・鋼帯 G 3141(2011) SPCC 各種機械部品,自動車車体
鋼管 一般構造用炭素鋼鋼管 G 3444(2010) STK540 土木、建築用構造物
建築構造用炭素鋼鋼管 G 3475(2014) STKN400B 建築用構造物
線材 ピアノ線材 G 3502(2013) SWRS80A より線,ワイヤーロープ
軟鋼線材 G 3505(2004) SWRM12 鉄線,亜鉛めっきより線
硬鋼線材 G 3506(2004) SWRH47B 亜鉛めっきより線,ワイヤーロープ
冷間圧造用炭素鋼線材 G 3507-1(2010) SWRCH20A ボルトや機械部品など冷間圧造品
機械構造用鋼 機械構造用炭素鋼鋼材 G 4051(2009) S45C 一般的な機械構造用部品
焼入性を保証した構造用鋼鋼材 G 4052(2008) SCM440H 肉厚の大型機械構造用部品
機械構造用合金鋼鋼材 G 4053(2008) SCM440 高強度・高靭性を重視した機械構造用部品
工具鋼鋼材 炭素工具鋼鋼材 G 4401(2009) SK85 プレス型,刃物,刻印
高速度工具鋼鋼材 G 4403(2006) SKH51 切削工具,刃物,冷間鍛造型
合金工具鋼鋼材 G 4404(2006) SKS3,SKD11 冷間鍛造型,プレス型など各種金型
特殊用途鋼鋼材 ステンレス鋼棒 G 4303(2005) SUS304 耐食性を重視した各種部品,刃物
ばね鋼鋼材 G 4801(2011) SUP10 各種コイルばね,重ね板ばね
高炭素クロム軸受鋼鋼材 G 4805(2008) SUJ2 転がり軸受
快削鋼鋼材 G 4804(2008) SUM24L 加工精度を重視した各種部品
鋳鋼品 炭素鋼鋳鋼品 G 5101(1991) SC450 一般構造品、電動機部品
ステンレス鋼鋳鋼品 G5121(2003) SCS13 産業機械のケーシング、化学プラント部材
鋳鉄品 ねずみ鋳鉄品 G 5501(2010) FC300 機械のカバー、エンジン部品、機械部品
球状黒鉛鋳鉄品 G 5502(2006) FCD600 水道用鋳鉄管、自動車用部品、構造用部品

圧延鋼材は切削加工、塑性加工、溶接などで成形して使用されるもので、焼入れ焼戻しのような熱処理によって機械的性質を調整する例はほとんどありません。 一般構造用圧延鋼材は通常SS材と呼ばれているもので、最も一般的なものはSS400です。SSの最初のSはSteel(鋼)、次のSはStructure(構造)を、その後に続く三桁の数字は引張強さの下限を示しています。

熱間圧延軟鋼板は絞り加工など塑性加工用の鋼板で、熱間圧延によって製造されており、JISの記号はSPH(Steel Plate Hot)です。この鋼板にはSPHC、SPHD、SPHEおよびSPHFの4種類があり、表2に示すように、すべての引張強さは変わりませんが、後者ほど伸びが大きく、絞り性に富んでいます。

表2 熱間圧延軟鋼板及び鋼帯の種類

記号 化学成分(%) 機械的性質(引張試験片:5号、圧延方向) 備考
C Mn P S 引張強さ
(Mpa)
伸び(%)
厚さ(mm)
1.2以上1.6未満 2.5以上3.2未満 4.0以上
SPHC 0.12以下 0.60以下 0.045以下 0.035以下 270以上 27以上 29以上 31以上 一般用
SPHD 0.10以下 0.45以下 0.035以下 0.035以下 30以上 35以上 39以上 絞り用
SPHE 0.08以下 0.40以下 0.030以下 0.030以下 32以上 37以上 41以上 深絞り用
SPHF 0.08以下 0.35以下 0.025以下 0.025以下 37以上 39以上 42以上

冷間圧延鋼板も絞り加工など塑性加工用の鋼板で、冷間加工によって製造されており、JISの記号はSPC(Steel Plate Cold)です。表3に示すように、SPCC(一般用)、SPCD(絞り用)、SPCE(深絞り用)など6種類があり、用途によって使い分けられています。 非常に汎用的な材料で、自動車車体、電気部品、機械部品など広範囲の製品によく利用されています。両鋼板とも、焼入れ焼戻しによって機械的性質を調整することはありませんが、浸炭焼入れによって表面硬化して耐摩耗部品にはよく使用されています。

表3 冷間圧延鋼板及び鋼帯の種類

記号 化学成分(%) 引張試験値(引張試験片:5号、圧延方向) 備考
C Mn P S 引張強さ
(Mpa)
伸び(%)
厚さ(mm)
0.60以上1.0未満 1.0以上1.6未満 1.6以上2.5未満
SPCC 0.15以下 0.60以下 0.100以下 0.050以下 一般用
SPCCT 270以上 36以上 37 38
SPCD 0.12以下 0.50以下 0.040以下 0.040以下 38以上 39以上 40以上 絞り用
SPCHE 0.10以下 0.45以下 0.030以下 0.030以下 40以上 41以上 42以上 深絞り用
SPCF 0.08以下 0.45以下 0.030以下 0.030以下 42以上 43以上 44以上
SPCG 0.02以下 0.25以下 0.020以下 0.020以下 44以上 45以上 46以上 超深絞り用
  • 1)SPCCT:SPCCのうち引張試験値を保証するもの
  • 2)SPCF及びSPCGは製造工場出荷後6か月間、非時効性を保証する。非時効性とは、加工の時にストレッチャストレイン(筋状の模様)を発生しない性質をいう。
  • 3)表2の規定は幅30mm以上の鋼板及び鋼帯だけに適用する。
  • 4)表2の規定は標準調質及び焼なましのままの鋼板及び鋼帯によるものである。

線材は、6種類がJISで規定されており、これらの共通の記号はSWR(Steel Wire Rod)で、個々の線材はこの後にさらに記号を付けて区別しています。 例えば、ピアノ線材はS(Spring:ばね)、軟鋼線材はM(Mild:軟らかい)、硬鋼線材はH(Hard:硬い)、冷間圧造用炭素鋼線材はCH(Cold:冷間 Heading:圧造)がSWRの後に続きます。線材のうち、主にボルトに使用されている冷間圧造用線材であるSWRCHやSWRCHBは、JISでも標準径32mmまで規定しており、製品の多くは焼入れ焼戻しを実施します。

鋼管は、土木・建築の構造物に使用されている一般構造用炭素鋼鋼管(5種類)をはじめ、機械構造用合金鋼鋼管(7種類)、建築構造用炭素鋼鋼管(3種類)などがJISで規定されています。 これらのJISでの共通の記号はSTK(Steel Tube Kozo)で、一般構造用炭素鋼鋼管の場合は、その後にSS材と同様に引張強さの下限を示す三桁の数字が続きます。

機械構造用鋼鋼材は一般機械、産業用機械、輸送用機械などの構造用材料として、工具鋼鋼材は主に切削工具や各種金型に使用されるものです。 これらは重要な熱処理対象材料ですから、機械構造用鋼材については本講座の第3章で、工具鋼鋼材については後日掲載予定の「工具の熱処理・表面処理基礎講座」で詳細に解説します。

用途が名称に付いた鋼材として、ステンレス鋼、ばね鋼、軸受鋼および快削鋼があり、これらは総称して特殊用途鋼と呼ばれています。それぞれの用途に即した合金元素が添加されており、共通の鋼種記号はSU(Steel Used:使用)です。この後に付記されたアルファベットが各用途を示しています。 例えば、ばね鋼であるSUPのPは、ばね(sPring)を示しています。なお、耐食性を重視する機械部品をはじめ広く使用されているステンレス鋼については、本講座の第4章で詳細に説明します。

鋳鋼品は基本的には炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼であり、鋳造によって製品にするものですから、機械的性質や熱処理は同成分の鋼材と同様です。炭素鋼鋳鋼品の鋼種記号はSC(Steel Casting)で、その後に引張強さの下限を示す三桁の数字が続きます。 また、合金鋼鋳鋼の場合はSCの後に合金元素を、ステンレス鋼鋳鋼の場合にはSCの後にS(Stainless)を付記します。

鋳鉄は、鋼よりも多量に炭素(C)およびシリコン(Si)を含有しており、溶湯の流動性が優れているため、薄物まで容易に成形できるのが特徴です。鋳鉄の種類は、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、オーステンパ球状黒鉛鋳鉄品などがJISに規定されています。ねずみ鋳鉄は、その破壊した破面が灰黒色(ねずみ色)を呈していることが、この名称の由来です。

ねずみ鋳鉄の特徴は他の鋳鉄に比べて溶湯の流動性がもっとも優れていることであり、鋳鉄を代表するものです。JISではFC(Casting:鋳造)の記号で表示しており、そのFCの後に引張強さの最低値を示す三桁の数字を付記したものを6種類規定しています。各種小物部品をはじめ機械部品、エンジン部品、工作機械のベッド類などにも利用されています。

球状黒鉛鋳鉄は、溶湯中にマグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)を接種して、黒鉛を球状化したもので、じん性の点ではねずみ鋳鉄よりもはるかに優れています。JISの記号は、FCの後にD(Ductile)を付記したFCDで表されています。 水道用鋳鉄管、鋳鉄異形管、自動車部品(シリンダライナなど)、機械部品(クランクシャフトやロールなど)、構造用部品(油圧機器のボディーなど)、その他に広く利用されています。

図1 黒鉛形状の異なる鋳鉄

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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