機械部品の熱処理・表面処理基礎講座
機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第1章 機械部品に用いられる材料

1-3 鉄鋼とは

鉄鋼材料の主成分は鉄(Fe)であり、そのほかに必ず含まれる元素があります。これらは鉄鋼中の5元素と呼ばれており、図1に示すように、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、りん(P)およびイオウ(S)がこれに該当します。

図1 鉄鋼の基本構成元素

5元素の中でも炭素はとくに重要な元素であり、鉄鋼材料の硬さやじん性に大きな影響を及ぼします。そのため、炭素の含有量が鉄鋼材料を大分類する場合の考え方の基本になります。 すなわち、炭素が0.02%以下のものは純鉄(α-Fe)、0.02%を超えるものを鋼(はがね)と呼ぶのが一般的です。ただし、鋼に含有する炭素量は最大でも2%程度で、それよりも多い場合は鋳鉄として用いられています。

鋼におけるこれら5元素の含有量は、特殊な場合を除いてほぼ決まっており、その範囲は、図1中に示すように、Cは0.04~1.5%、Siは0.1~0.4%、Mnは0.4~1.0%、Pは0.04%以下、Sは0.04%以下です。

SiやMnは、鋼中の有害物質の除去を目的として製鋼時に添加されるものであり、有益元素として前述の範囲以上に添加されることもあります。

Pは、鉄鋼材料の遅れ破壊の誘発や、低温で使用する際に脆くする性質(低温ぜい性)があり、鉄鋼材料にとっては有害元素です。

Sは、鉄鋼材料を高温で使用する際に脆くする性質(赤熱ぜい性)があり、Pと同様に鉄鋼材料にとっては有害元素です。ただし、Sは鉄鋼材料の被削性(切削加工の容易さ)を向上させる働きがありますから、0.3%位まで添加した快削鋼が精密部品に利用されています。快削鋼中におけるSは図2に示すように、Mnとの化合物(MnS)として存在して、切削加工する際の工具との潤滑と切粉の断裂に有効に作用します。

図2 快削鋼(SUM23)の顕微鏡組織

鉄鋼材料は、製鋼時の脱酸方法によってリムド鋼とキルド鋼に分けられます。それらの中間的なものとしてセミキルド鋼もあります。

リムド鋼とは、Mnを若干添加して鋳型に流し込んで製造されるもので、あまり高強度を必要としない圧延鋼材、鋼板、軟鋼線材、配管用炭素鋼鋼管などに用いられています。すなわち、JISにおいて化学成分としてSi量の規定がないものはリムド鋼です。

リムド鋼は、溶鋼が鋳型に流し込まれると、溶鋼中の炭素と酸素が強烈に反応して一酸化炭素(CO)ガスが発生し、一種の沸騰状態(リミングアクションと呼ばれている)になり、その影響で不純物は鋼塊の上部および内部に集約されます。そのため、鋼塊の外側には不純物の少ない健全な部分(リム層と呼ばれている)が形成されます。

このような鋼塊を圧延した製品の表面付近には不純物がほとんど存在しません。しかし、内部には不純物の偏析が多いため、機械加工を施すと表面に線状傷が現れますから、機械加工が必須の部品には極力使用すべきではありません。

キルド鋼は、Siまたはアルミニウム(Al)によって十分に脱酸して製造されるもので、機械構造用鋼、工具鋼、特殊用途鋼など高強度・高品質を要求されるものに用いられています。 キルド鋼の特徴は、高炭素のものが容易に得られること、合金元素を添加して目標の成分のものが容易に得られることですから、高炭素鋼や合金鋼には必ずキルド鋼が使用されています。しかも、偏析が著しく少ないため、品質の安定性の点でも絶対的に有利です。

脱酸剤としてのSiやAlの選定は、用途によっては考慮する必要があります。通常のキルド鋼に用いられている脱酸剤はSiであり、フェロシリコン(FeSi)やシリコンマンガン(SiMn)として溶鋼中に添加されます。Alは結晶粒の微細化効果が大きいため、深絞りなど強加工用途には有利ですから、最近はアルミキルド鋼を使用する例が増加しています。

冷間圧造用炭素鋼線材のJISでは、リムド鋼6種類、アルミキルド鋼10種類、キルド鋼21種類を規定しています。その一例を表1に示します。リムド鋼は低炭素・低マンガン鋼であり、Si量の規定はありません。 アルミキルド鋼は低炭素・低シリコン鋼であり、Alは0.2%以上添加されていることが分かります。 また、一般のSiによるキルド鋼は化学成分の調整が容易ですから、広範囲のC量やMn量のものが21種類も規定されています。

表1 冷間圧造用炭素鋼線材の種類

種類 化学成分(%)
C Si Mn P S Al
リムド鋼
(6種類)
SWRCH10R 0.08~0.13 0.30~0.60 0.040以下 0.040以下
SWRCH17R 0.15~0.20
アルミキルド鋼
(11種類)
SWRCH10A 0.08~0.13 0.10以下 0.30~0.60 0.030以下 0.035以下 0.02以上
SWRCH20A 0.18~0.23
キルド鋼
(21種類)
SWRCH10K 0.08~0.13 0.10~0.35 0.30~0.60
SWRCH20K 0.18~0.23
SWRCH41K 0.36~0.44 1.35~1.65
SWRCH50K 0.47~0.53 0.60~0.90
執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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