機械部品の熱処理・表面処理基礎講座
機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

3-6 焼入性と合金元素の関係

焼入後の硬さの値は表面からの測定値で表しますが、鋼種によっては内部硬さが全く異なることも多々あります。これは使用している鋼材の焼入性の違いによるもので、表面硬さだけで機械的性質を判断するのは危険です。焼入性とは、焼入れによって得られる表面硬さの大小ではなく、一端焼入法によって焼入れした試験片の焼入端からつば側に向かって硬さ分布を測定して、その硬さ推移曲線から良し悪しを判定します。

1.鋼の焼入性試験方法

鋼の焼入性を測定する方法として、JIS G 0561に「鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)」が規定されています。この方法はジョミニー式一端焼入法ともいい、円柱形の試験片を規定された温度で加熱した後、その一端面のみを水にて噴射冷却し、焼入端からの硬さの推移を測定するものです。

図1に示すように、直径25mmでつば付きの全長100mmの円柱形試験片を用い、鋼材の焼入性を測定します。焼入温度はNi量とC量によって規定されており、焼入加熱は昇温と保持時間を合わせて約60分行います。所定の加熱を行った後、つばとは反対側の端部を30℃以下の水で噴射冷却します。この水の噴射冷却は焼入れ端の冷却速度を無限大と想定したものです。さらに、検体の化学成分に応じて焼入温度も規定されていますから、焼入性は熱処理条件には無関係の鋼材本来の特性なのです。

図1 鋼の焼入性試験方法(JIS G 0561)における試験片の寸法および焼ならし・焼入温度

図1 鋼の焼入性試験方法(JIS G 0561)における試験片の寸法および焼ならし・焼入温度

2.焼入性バンド

焼入性を保証した構造用鋼鋼材、冷間圧造用ボロン鋼線材、冷間圧造用合金鋼線材のうちの末尾にHRCHを付したものは、個々のJISにて焼入性バンドが付表として付記されています。すなわち、これらの鋼材のJISでは、焼入性試験によって測定された焼入性曲線が、この2本(上限および下限)の間にあることを保証しています。

一例として、図2にSCM435Hの焼入性バンドおよび焼入性の指定方法を示します。焼入性を指定する場合には、指定する距離における最低および最高の硬さによって行います。例えば、この図において、焼入端からの指定距離が9mmの場合は、最低硬さが45HRC、最高硬さが55HRCですから、J9mm=45/55とします。

図2 JISによるSCM435Hの焼入性バンドおよび焼入性の指定方法

図2 JISによるSCM435Hの焼入性バンドおよび焼入性の指定方法

3.合金元素の影響

図3に、5種類の焼入性を保証した構造用鋼鋼材について、JIS G 4052における上限と下限の中間値による焼入性曲線を示します。焼入端付近の硬さは、炭素含有量の多い鋼種ほど高くなっており、最高焼入硬さは炭素含有量に依存することが明らかです。

焼入端からの硬さ推移曲線において、急激に硬さが低下するものは焼入性が悪いといい、緩やかに低下するものほど焼入性が良いといいます。この焼入性に関しては、炭素以外の合金元素が有効に作用します。例えば、炭素量が同程度の3種類の鋼材(SCM445H、SMnC443H、SMn443H)を比較すると、SCM445Hが最も良好であり、SMn443Hが最も悪いことが分かります。また、炭素量の少ないSCM822HとSNC815Hを比較すると、焼入性は前者のほうが良好です。以上のことから、合金元素のなかでも、とくにCrとMoは焼入性の向上に有効な元素であることが明らかです。

図3 各種H鋼の平均的な焼入性曲線

図3 各種H鋼の平均的な焼入性曲線

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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