機械部品の熱処理・表面処理基礎講座
機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

3-7 質量効果と合金元素の関係

前回紹介した焼入性とは、鋼材そのものの特性ですから、JISによって試験片の寸法・形状、焼入加熱温度が規定されていますし、焼入冷却は試験片の一端からの噴射冷却で、そのときの冷却速度は無限大が前提になっています。それに対して、質量効果とは、断面寸法の大小で焼入硬化層深さの異なる度合いのことをいい、鋼材の特性だけでなく、焼入時の加熱や冷却条件まで影響を及ぼします。

(1) 臨界直径

焼入性が悪い鋼種は、断面寸法が大きくなると、内部硬さだけでなく表面硬さまで低くなってしまいます。このように、処理物の大きさによって焼入硬化程度に差が生じるのは冷却速度の差によるものであり、その程度は鋼種によって大きく異なります。

内部への焼入硬化程度は、一般には臨界直径によって推定しています。臨界直径とは、中心部まで50%以上のマルテンサイトを得ることのできる最大直径のことをいいます。臨界直径に及ぼす要素としては、表1に示すように、材料に関するものと焼入条件に関するものがあります。

表1 臨界直径におよぼす要素とその効果

要素 効果
材料 結晶粒度 大きいほど臨界直径は大きくなる
合金元素 Mn、Mo、Cr、Niの添加は臨界直径を大きくする
焼入条件 焼入温度 高いほど臨界直径は大きくなる
加熱時間 長いほど臨界直径は大きくなる
冷却剤 冷却能が大きいほど臨界直径は大きくなる
(2) 合金元素の影響

図1は、直径25mm、長さ55mmの各種機械構造用鋼について、850℃から焼入れしたときの中央部横断面の硬さ分布を示したものです。S45Cは、表面から中心に向かって急激に硬さは低下しており、明確なU字形を呈しています。しかし、SCM435およびSNC631は、中心に向かって若干の硬さ低下は見られますが、その程度は非常に小さいことが明らかです。このように、直径25mm程度であっても鋼種間の明確な差異が認められており、質量効果に対する合金元素の重要な役割が明らかです。

図1 850℃から焼入れした各種機械構造用鋼の横断面硬さ分布

図1 850℃から焼入れした各種機械構造用鋼の横断面硬さ分布

(3) 焼入冷却剤の影響

焼入作業に用いられている冷却剤は、水、油またはソルト(塩浴)であり、その中でも冷却能が最も大きいのは水です。また、強く撹拌するほど冷却能は大きくなりますから、焼入冷却時には冷却剤を撹拌するのが普通です。

図1の中で、炭素鋼であるS45Cについては三種類の冷却剤に対する硬さ分布を示しています。この図からも明らかなように、水冷したものは油冷やソルト冷却したものよりも、全体的に高い硬さが得られており、水の冷却能が最も大きいことが立証されています。合金鋼の場合は、油冷の曲線のみを示していますが、これは他の冷却剤でもほぼ同等の硬さ推移曲線が得られるためです。

(4) 焼入温度の影響

機械構造用鋼の標準的な焼入温度は、A3変態点よりも50℃位高めの温度が目安になりますが、大形の処理品の場合は高めの温度で加熱することによって焼入性が向上するため、質量効果の点で有利になります。一例として、図2にS45Cについて、800~900℃から水焼入れした横断面の硬さ分布を示します。表面硬さは、焼入温度に関係なく同一の値が得られていますが、焼入温度が高いほど内部硬さは上昇していることが分かります。

図2 S45Cの横断面硬さ分布に及ぼす焼入温度の影響

図2 S45Cの横断面硬さ分布に及ぼす焼入温度の影響

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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