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機械部品の熱処理・表面処理基礎講座
機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第4章 ステンレス鋼とその熱処理

4-3 マルテンサイト系ステンレス鋼の熱処理

図1 焼入れ焼戻ししたSUS410の顕微鏡組織

図1 焼入れ焼戻ししたSUS410の顕微鏡組織

マルテンサイト系ステンレス鋼は、図1に示すように焼入れによってマルテンサイト組織が得られ、低温焼戻しによって優れた耐摩耗性とじん性が付与されますから、耐食性も重視した機械構造用部品、医科用機械部品、刃物および金型などに多用されています。

(1) 焼入硬さ
図2 炭素量の異なる13Cr鋼の焼入硬さとサブゼロ処理の効果

図2 炭素量の異なる13Cr鋼の焼入硬さとサブゼロ処理の効果

マルテンサイト系ステンレス鋼には13Cr鋼と18Cr鋼があり、使用目的に応じて低炭素のものから高炭素のものまで広く用いられています。例えば、図2は炭素量の異なる13Cr鋼について、900~1200℃から焼入れしたときの、焼入硬さとサブゼロ処理(液体窒素に浸漬)後の硬さを示したものです。焼入硬さは焼入温度1050℃までは焼入温度の上昇にともなって高くなりますが、炭素量の多いものは、それよりも高温になると逆に低下します。この低下原因は、残留オーステナイト(γR)量の増加によるものですから、本図からも明らかなように、サブゼロ処理によって回復することができます。

残留オーステナイト(γR)
図3 炭素量の異なる13Crステンレス鋼の残留オーステナイト量と焼入温度の関係

図3 炭素量の異なる13Crステンレス鋼の残留オーステナイト量と焼入温度の関係

図3に、炭素量の異なる13Crステンレス鋼のγR量と焼入温度の関係を示します。ただし、この場合のγR量はX線回折(XRD)によって測定したもので、γFe(220)とγFe(311)のX線強度から算出しています。図中の縦軸であるX線強度の表示は、0.66%C鋼の1200℃から焼入れしたときに得られたγFeの強度を100としたときの相対強度です。なお、このときの試料からはαFeのピークは観察されませんから、γFe≒100%とみなすことができます。

0.35%C鋼においては、焼入温度が1100℃以上ではγFeのピークは見られますが、その強度は非常に小さいので、問題になることはありません。しかし、0.66%C鋼と1.15%C鋼においては、焼入温度の上昇にともなって炭化物の固溶量が増加しますから、同時にγR量も増加します。そのため、金型など耐摩耗性を重視する場合や、ゲージなど経年変化を嫌う場合には、サブゼロ処理の適用が有効です。

(3) 焼戻硬さ
図4 炭素量の異なる13Cr鋼の焼戻温度と硬さの関係

図4 炭素量の異なる13Cr鋼の焼戻温度と硬さの関係

図4に、950℃および1150℃から焼入れした各種13Crステンレス鋼の焼戻硬さの推移を示します。950℃から焼入れしたものは、すべての鋼種において、焼戻温度が500℃までは大きな硬さの変化は見られず、500℃を超えると焼戻温度の上昇にともなって急激に軟化していることが分かります。しかし、1150℃から焼入れしたものは、500~600℃の焼戻しによって二次硬化しています

炭素含有量の少ない鋼種の二次硬化温度は500℃であり、この硬化要因は二次炭化物の析出によるものです。炭素含有量が多い場合には、γR量が多いので、マルテンサイト化する際にも急激な硬さ上昇を生じます。0.66%C鋼は600℃、1.15%C鋼は550℃焼戻しのときに最高硬さが得られており、この最高硬さが得られる焼戻温度は、γRのマルテンサイト化温度に該当します。

また、サブゼロ処理後に焼戻した場合には、すべての鋼種において最高硬さの得られる焼戻温度は500℃ですから、このときの二次硬化の要因は、すべての鋼種において二次炭化物の析出によることを明らかにしています。

執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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