接着剤の毒性とその対策
接着剤の毒性
接着剤の毒性に関しては、厚生労働省が定めた有機溶剤中毒予防規則があります。ベンゼンなどは特に毒性が強く、第1種有機溶剤として規制対象となっており、市販の接着剤には含まれていません。しかし、接着剤に使用されているトルエンなども、大量に吸入してしまうと毒性を発揮します。溶剤の許容濃度はppmで表し、このppmが大きいほど毒性が低くなります。
接着剤や塗料、ワックスなどの取扱いにおいて、MSDS(化学物質等安全データシート)による危険有害性などの情報提示が義務付けられています。MSDSとは、化学物質やそれらを含有する製品の危険有害性等の情報を記載したシートです。MSDSは、メーカーから問屋へ、問屋から小売店へ、そして最終ユーザーへ、といったルートで交付されることが義務づけられています。
基本的に、毒性が強く可燃性である、塩素化溶剤の二塩化エチレン、二塩化アセチレン、モノクロロベンゼンなどの塩素化溶剤は一部を除き、接着剤にはほとんど用いられることはありません。また、一部の塩素化溶剤はオゾン層の破壊につながるため、国際的な規制対象になっています。
接着剤のVOC対策
VOCとは揮発性有機化合物のことで、接着剤の容器を開けた際に臭気として感じるものです。典型的な例でいうと、溶剤系接着剤です。また、水性系接着剤でも、添加剤や可逆剤と記載されている、有機溶剤を含むものがあります。
このVOCは有害物質で、日本接着剤工業会では、2008年~トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンの4物質に厳しい基準を設けました。その基準をクリアした接着剤には4VOC基準適合表示と証明書の発行を行うことで安全を保証しています。VOCの測定にはケイ酸カルシウム板に接着剤を塗布し、20Lの小型チャンバーを用いて行なうチャンバー法が採用されています。
VOCの種類 | 厚生労働省が定めた濃度指数値 | 放散速度基準値 | 日本接着剤工芸社が定めた接着剤中のVOC含有量管理値 |
---|---|---|---|
トルエン | 260ug/m3 | 38ug/mh | 0.1%未満 ※EVAエマルジョンを含む接着材の場合は0.05%未満 |
キシレン | 700ug/m3 | 120ug/mh | 0.1%未満 |
エチルベンゼン | 3800ug/m3 | 550ug/mh | 0.1%未満 |
スチレン | 220ug/m3 | 32ug/mh | 0.015%未満 |
接着剤のホルムアルデヒド対策
合板などの木材用接着剤の樹脂はホルマリンを含まず、硬化剤としてホルマリンを用いるため、必然的に室内にホルムアルデヒドという毒性の強い物質が拡散されます。これがシックハウス症候群の原因として問題となっています。
対応策として、建材を作る時点で、アミン系やヒドラジン系化合物をホルムアルデヒド用のキャッチャー剤として使用することで、ホルムアルデヒドの拡散を抑制することが出来ます。
一方、ゴム溶剤系接着剤でもホルムアルデヒドを拡散するフェノール樹脂を使用しますが、近年では、樹脂の種類を変える対策を取っています。
日本接着剤工業会では、防腐剤や触媒としてホルマリンの使用を禁止したり、ホルムアルデヒドを拡散する可能性がある原料の使用もやめたりするなどの対策をとっています。
接着剤のシックハウス症候群対策
シックハウス症候群問題の対策として、TVOC(総揮発性有機化合物)を抑えることが重要です。これは接着剤がほとんどの原因であり、このTVOCを400ug/m3以下にしておくべきです。
近年では、塗料も接着剤もトルエンに代わり、高沸点のテキサノールやグリコール溶剤が配合されています。高沸点であることで、短期でホルムアルデヒドが放散するため、比較的安全性が保てます。
シックハウス症候群は一度起こると居住者に甚大な健康被害を及ぼします。そのため、2003年に建築基準法が改定され、ホルムアルデヒド放散量を示すFの表示がJISと大臣認可、日本接着剤工業会登録のいずれかで行う義務が設けられました。
ここまでVOC対策がされているにも関わらず、現在にまでシックハウスの事故が残るのは、TVOCが高いことや高沸点の溶剤あるいは添加剤・可逆剤が使用されていることが原因となっています。