溶接の基礎講座
本連載では「溶接」について、金属が接合するメカニズムから溶接の種類、また溶接の仕方まで、現場で使える知識をご紹介していきます。
1-3 溶接の接合メカニズム
金属を加熱すると、材料は熱膨張で長くなります。こうした現象は、
(1)常温の金属では原子間の結合力が強く、しっかりと結びついています。
(2)加熱により金属に熱を与えると、原子間の引き合う力が徐々に弱まり、その弱まった分だけ原子間の距離が広がります(これが金属の熱膨張で、加熱することで結合力が弱まることは、常温では曲がらない金属棒も加熱すると容易に曲がるようになることからもわかります)。
(3)さらに加熱を続けある温度以上になると、原子間の引き合う力が弱まり、原子は自由に動き回る液体の状態になります。
では、溶接によって金属が接合されるメカニズムは、どうなっているのでしょう。それは、
(1)接合しようとする2つの材料の接合部を加熱し液体状態にします(このことで、それぞれの材料の原子が自由に動き回り、混じり合います)。
(2)(1)の状態から冷却し凝固温度になると、原子間の引き合う力が戻り始めます。この温度状態なると、母材の溶け止まったボンド面の原子は(この原子は内側の母材の原子とは結合状態が得られています)、近づいてきた動き回る原子との間で結合状態が得られるようになります。
(3)さらに、この結合した原子が核になり、混じり合った互いの原子が引き合う新たな結晶がつくられ接合状態が得られるようになります。
銅線をハンダ付けしようとする場合、接合しようとする銅線は溶かさず、銅線の間に低い温度で溶けるハンダを溶かし液体状態にして流し込むことで接合できます。こうした接合法を、ろう付けと呼びます(ろう付けによる接合メカニズムは、固体金属側の接合面を溶接におけるボンド面、溶融しているろう材をプール内の溶融金属と考えれば、溶接と同じです)。
圧接は、図3-1に示すように接合しようとする材料の面を重ねた状態で加熱し、それぞれの材料が変形しやすい温度状態まで加熱した時点で強い力を加えます。これにより、酸化されるなどして結合力を失っている接合面材料は接合部周囲に押し出され、内部の活性な原子が接合面に現れます。この互いの材料表面に出てきた活性な原子は、動きやすい高温の状態にあることから結合力の発揮できる距離まで近づき、接合できるようになるのです。こうした接合法が圧接法で、鉄筋などをガス炎で加熱するガス圧接や機械部品などを接触させて回転させ摩擦熱で接合する摩擦圧接などの方法があります。
図3-1 圧接における接合メカニズム
電気抵抗を利用したスポット溶接は、重ねた2枚の金属板の接合部を加圧して通電し、接合部を抵抗発熱で溶融させることで通常の溶接と同じメカニズムで接合します(接合面の金属が溶け合うような抵抗発熱が得られる接触状態となる加圧力、電流、通電時間の設定が必要となります)。図3-2がアルミニウム合金板の電気抵抗スポット溶接部の溶接状態で、外観や溶融ナゲットは良好に形成されているものの、接合部には割れやブローホールなどの欠陥を発生しています(特に、アルミニウム合金板の電気抵抗スポット溶接では、接合面の処理や電極先端の清浄、溶接条件の適正設定が必要となります)。
図3-2 アルミニウム合金の電気抵抗スポット溶接結果例
図3-3が、溶接を利用するものづくり分野で、近年特に注目されている摩擦攪拌溶接(FSW)の概要とその溶接結果です。この方法は、その接合のメカニズムからして従来の発想を全く変えるもので、その概要は、
(1)図3-3(a)のツール先端ピンを溶接線に強く押し付けて回転、発生する摩擦熱で母材溶接部を加熱します。
(2)加熱されたことで母材内の原子間の結合力が弱まりピンの回転力で結晶格子が攪拌されて交じり合い、接合部の結合力が得られるようになります。このように突合せや重ね、すみ肉、スポットなど各種継手で、「母材を溶融させることなく接合できる本溶接法は、割れやブローホールのなど欠陥発生の少ない溶接が可能となります(図3-3 (b)がFSWによる溶接状態で、組織が攪拌により渦状になるとともに回転方向に偏るなど、その特徴が良く現れています)。
図3-3 摩擦攪拌溶接(FSW)による溶接状態
『溶接の基礎講座』の目次
第1章 溶接の基礎
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1-1接合方法の種類についてものづくりにおける組み立て手段としての接合方法には、締結部品であるボルトやリベットなどを利用して接合される機械的接合法、溶接やろう付けなどの金属材料の持つ特性を利用して接合する冶金的接合法、そして各種接着剤を利用する接着剤接合法があります。
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1-2金属材料の成り立ちと特性溶接は、2つの金属を加熱して溶かし、その後冷却して固めることで2つの材料を接合、一つの部材にします。
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1-3溶接の接合メカニズム金属を加熱すると、材料は熱膨張で長くなります。
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1-4ひずみが発生する原因とひずみ取り溶接組み立て品の寸法精度不良は、溶接によって発生する変形(溶接ひずみ)や溶接時のセッティング不良などが原因となります。
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1-5ひずみ対策と製品の高精度化溶接によるひずみの発生は、材料や製品形状、部材としての加工状態などによって個々に違います。
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1-6溶接作業における安全対策ガスやアークなど高温の熱源を使用し、金属が溶ける温度状態で切断や溶接の作業を行う場合の共通的な安全上の問題として、①高温の熱源から放出される赤外線や紫外線による目や皮膚の障害
第2章 溶接方法と溶接材料
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2-1ガス溶接とガス切断ボンベに充てんされたプロパンやアセチレンなどの可燃性ガスと酸素を混合して燃焼させ、得られる高温のガス炎は、金属を溶かして接合、溶断(金属を溶かして切断することから溶断と呼びます)するのに利用されます。
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2-2溶接用熱源としてのアークについて一般に最も広く利用されている溶接の熱源が、「アーク」です。アークは、その形状や電流、電圧条件を変化させることで、目的の溶接に見合った熱源に容易に制御できます。こうしたことから、アークは、幅広い材料や製品の溶接に利用されるのです。
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2-3TIG溶接と溶接装置の設定作業ティグ(TIG)溶接は、融点の高いタングステン電極と母材との間にアークを発生させ、このアークで溶かした金属をアルゴンなどの不活性ガスで保護しながら溶接します。
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2-4TIG溶接トーチ、タングステン電極の設定TIG溶接における溶接トーチ、タングステン電極は、その取り扱いにより作業性や溶接品質が強く影響されます。したがって、その取り扱いや設定には、十分な注意と確認が必要です。
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2-5TIGパルス溶接についてTIG溶接は、溶接部の冶金的な特性や溶け込み特性の両面で高品質の溶接結果が得られやすく、近年、各種材料の溶接に広く利用されています。
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2-6TIG溶接における溶接棒の添加作業TIG溶接による開先内肉盛り溶接などでは、作業者は、熱源と切り離された溶接棒をプールに挿入して棒の先端部を溶融させ溶着金属を形成させます。
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2-7半自動アーク溶接とその溶接半自動アーク溶接は、0.4~1.6mmといった細い径のワイヤをモーターで自動的に送り出す溶接法の総称です。
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2-8半自動溶接でのシールドガス及び溶接ワイヤの選択ミグ(MIG)、マグ(MAG)溶接など細径ワイヤを自動的に送給しアークやプールをシールドガスで保護する半自動アーク溶接では、使用するワイヤとシールドガス、 溶接条件によってワイヤ先端に形成されるワイヤ溶融金属が母材プールに移行していく現象(以後、移行現象と呼びます)などが変化し、使用できる作業も変化します。
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2-9半自動アーク溶接の設定条件半自動アーク溶接における溶接条件の設定は、一般的な溶接条件表を頼るような方法は余り推奨できません。
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2-10半自動アーク溶接でのトーチ保持角の設定半自動アーク溶接では、設定した電圧(アーク長さ)条件はほぼ一定に保たれます。
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2-11各種姿勢での半自動アーク溶接作業電極材料であるワイヤの溶ける量が多い半自動アーク溶接では、溶接姿勢によりプールの溶融金属の挙動が変化するため、姿勢に合わせ溶接条件の設定やトーチ操作を適正に行う必要があります。
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2-12ステンレス鋼のミグ、マグ溶接についてステンレス鋼の半自動溶接では、ソリッドワイヤ使用のミグ溶接とフラックスワイヤ使用のマグ溶接が利用できます。
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2-13アルミニウムのミグ溶接についてアルミニウム材料の高能率溶接は、ミグ半自動アーク溶接で可能となります。この溶接で比較的利用範囲の広い、小~中電流条件の溶接作業では、パルス電流制御の利用が推奨されます。
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2-14ろう材の選択とトーチろう付け作業のポイントろう付け(ろう接)は、ハンダ付け作業で行うように母材となる銅線は溶かさず、この固体の銅線の間の隙間に低い温度で溶融するろう材(ハンダ)を液体状態にして流し込み接合する方法です。
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2-15トーチろう付け作業とアークろう付け作業人の作業状態がろう付け結果を左右する手動トーチろう付け作業では、(1)接合部の清浄及びフラックスの塗布、(2)接合部と周辺の均一加熱、(3)フラックスが溶融して活性状態となる適正ろう接温度で、ろう材添加、(4)接合面全体にろう材が均一に行きわたるための加熱操作、(5)適正ろう付け状態の確認と加熱の停止、ろう付け部の冷却、(6)残留フラックスの除去と接合部の清浄、の手順で作業を行います。
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2-16被覆アーク溶接の特徴と作業上の安全対策被覆アーク溶接は、母材材質に合わせた溶接棒を使用すれば、各種材料を手軽な装置で比較的高品質に溶接できることから、これまでの溶接作業の主力として広く利用されてきました。
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2-17被覆アーク溶接棒の選び方被覆アーク溶接では、電極となる溶接棒が溶けて母材に移行し、母材の溶融した金属とともに溶接金属を形成することから基本的には母材の成分に近い成分の溶接棒を選びます(例えば、母材が軟鋼であれば軟鋼用棒、ステンレス鋼の場合はステンレス鋼用棒、銅の場合は銅用棒を選びます)。
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2-18アークの発生と安定維持作業被覆アーク溶接では、遮光用ヘルメットなどで顔を覆った真っ暗やみの中での作業となり、しかも溶接開始時のアークを発生させるための溶接棒と母材面との接触で発する「バチィ」の音、 まぶしいアーク光で驚き、次の動作に移れなくなります
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2-19各姿勢での被覆アーク溶接作業被覆アーク溶接による各姿勢での溶接作業においては、プール溶融金属の挙動に加え溶融スラグの挙動を考慮した条件設定、熱源操作が必要となります。
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2-20直流被覆アーク溶接について最近の小型・軽量化が進められた被覆アーク溶接機では、従来機に比べ低電流条件での使用が難しく、適用できる作業範囲がせばまる、などの問題点が指摘