測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
1-1 ノギスの使い方と寸法の読み取り方
ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。1mm~100mm程度の長さを±0.2mmで測ることができる工具なので、ものづくりの現場作業だけでなく、日曜大工や趣味の工作に、ぜひ一本「マイ・ノギス」を用意しておきたいものです。
「ノギスの使い方」を紹介する前に、ノギスの各部分の名前を覚えましょう。
写真1:ノギスの各部の名称
写真1を見てください。目盛りが刻んである長い部分を「メインスケール」、この左に付いているL字の部分は「ジョー」、左の上に出ているところが「クチバシ」です。こちら側はメインスケールに固定されているので「固定側のジョー」「固定側のクチバシ」として区別することもあります。 中央にある左右に動く部分を「スライダ」といい、スライダにはバーニアスケール(副尺)が刻んであり、「(移動側の)ジョー」「(移動側の)クチバシ」が付いています。スライダには「ストッパー」と「デプスバー」も付いています。
写真2:ノギスで測定したいものを測る
写真2のように、ノギスはメインスケール(主尺)とバーニアスケール(副尺)を正面に見えるように持ち、親指をスライダー(ノギスの動く部分)の指掛け部分に押しあて、ジョーで測定したいものを軽く挟みます。 この部分を強く押すと誤差が出ます。このとき、丸棒に対してノギスは直角です。この状態でメインスケールとバーニアスケールの位置関係から寸法を読み取ります。この時に目盛りが見にくい時は、左手でストッパーのネジを軽く締めてスライダを固定し、測定したい物からそっとノギスのジョーを引き抜いて、読みやすい位置にノギスを持ち替えます。
それではいよいよ寸法の読み取りです。ノギスの最大の特徴はバーニアスケールです。バーニアスケールを使った寸法読み取りはコツが必要です。慣れるまで何度も繰り返して覚えてください。
写真3-1:バーニアスケールの読み方(20mmピッタリ)
写真3-1を見てください。20mmピッタリのときの写真です。メインスケールの20の位置にバーニアスケールの0(ゼロ)がピタリと合っています。この状態で、20.0mmと読みます。
写真3-2:バーニアスケールの読み方(20mmよりちょっと大きい)
写真3-2は20mmよりちょっと大きい場合です。バーニアスケールの0がメインスケールの20の右側に僅かにずれています。そして、メインスケールとバーニアスケールの目盛り線がちょうど一直線になっているところは、バーニアスケールが「2」を示しています。ここがミソ、バーニアスケールは0.2mmを示しているのです。従ってこの寸法は、メインスケールの20mm+0.2mm=20.2mmです。
写真3-3:バーニアスケールの読み方(20mmよりちょっと小さい)
写真3-3は、メインスケールの20mmの位置の僅かに左側にバーニアスケールの0があります。この時のバーニアスケールは「8」ですね。つまり、バーニアスケールは0.8mmを示しています。この時のメインスケールの値は18mm。従って、18mm+0.8mm=18.8mmとなります。
それでは読み取りの練習をしましょう。例題1から順に寸法を読んでみてください。
答:27.2mm
バーニアスケールの0はメインスケールの27mmを少し超えたところにあります。バーニアスケールの読みは0.2mmなので、27mm+0.2mm=27.2mm となります。
答:18.3mm
バーニアスケールの0はメインスケールの18mmを少し超えたところにあります。バーニアスケールの読みは0.3mmなので、18mm+0.3mm=18.3mm となります。
答:150.25mm
このノギス、150mmまでしか測れないのですが、メーカーによっては最長寸法より少し長めにメモリが刻んであります。これを上手に使うとちょっと長い物でも測れてしまう、そんな例です。
バーニアスケールの0はメインスケールの150mmの少し右側にあり、バーニアスケールは2と3の中間です。これは0.25mmと読みます。従って、150mm+0.25mm=150.25mmとなります。
写真のノギスはバーニアスケールが20等分されているので、0.05mmまで読み取れるのですが、ノギスメーカーは±0.2mmの精度しか保証していません。この理由は中級編で解説します。
写真5:バーニアスケールを正面から見ると視差が少ない
バーニアスケールを読み取るときに、斜めから見ると値が違って見えます。これを「視差」と言います。バーニアスケールから寸法を読み取る場合は写真5のように、スケールの正面に自分の眼の位置を合わせて読み取ります。
写真6:色々なノギス
バーニア式ノギスは寸法の読み取りが難しいと感じる方もいます。バーニアスケールは勘違いも起きやすいので、読み取りミスを防ぐために、写真6のように、ダイヤル式ノギスやデジタル式ノギスが開発されています。 これらのノギスは標準ノギスより細かい寸法を読み取ることができるのですが、メーカー保証精度は標準ノギスと同じ±0.2mmです。なぜか?この理由は上級編で解説します。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。