溶接の基礎講座
本連載では「溶接」について、金属が接合するメカニズムから溶接の種類、また溶接の仕方まで、現場で使える知識をご紹介していきます。
1-5 ひずみ対策と製品の高精度化
溶接によるひずみの発生は、材料や製品形状、部材としての加工状態などによって個々に違います。したがって、その防止策もそれぞれの製品によって異なってきます。そこで、溶接に当たっては、製品に発生するひずみの量をできるだけ正確に把握し、その上で製品として許容される量までひずみの発生を抑えるため図5-1~図5-4に示すように、
(1)ひずみ発生の少ない継手を工夫する。
(2)適切な拘束用治具を使用するとともに逆ひずみを付ける(発生するひずみと反対の方向にひずませておく)。
(3)材料の加熱状態をできるだけ均一にできる溶接順序を工夫し、ひずみ発生を均一化し少なくする、などの方法を適用します。
なお、個々の製品のひずみの発生防止策やひずみ取りの基本は、「常に、製品あるいは試作品の製作段階などで発生するひずみの量をできるだけ正確に把握して記録します(できれば、分類などしてデータベース化しておきます)」。 そうした記録集を、次に溶接しようとする製品のひずみ対策やひずみ取りの要領書に反映させることが、ひずみ対策の手間の少ない効率の良い製品づくりにつながります。
- (1)板厚差のない継手に改善する
- (2)剛性のある継手に改善する
- (3)変形量の少ない継手に改善する
図5-1 継手の工夫によるひずみ対策
- (1)深溶込み溶接法の利用
- (2)溶着金属量の少なくなる溶接法の使用
- (3)細間隙溶接法の利用
図5-2 継手の工夫によるひずみ対策
- (1)角変形に対する逆ひずみ法
- (2)縦曲がり変形に対する逆ひずみ法
図5-3 逆ひずみによるひずみ対策
- (1)直線の連続溶接の場合
- (2)溶接継手が合う場合
- (3)全周溶接(例:パイプ)のような場合
図5-4 溶接順序の工夫によるひずみ対策
溶接を利用する「ものづくり加工品」の高精度化は、これまで述べてきたひずみ対策だけでなく最近の技術や加工機械を利用することで、さらなる高精度化が可能となります。その一例が、「3D・CAD」と「高精度加工機」を組み合わせて利用する板金加工で、図5-5がこうしたものづくり手法で製作しようとする製品例です。
従来、こうした製品は、個々に加工された部材を溶接で仮組みし、本溶接されることで製品化されてきました。こうした手法では、仮組み時の誤差や多くの溶接箇所によるひずみの発生で製品精度を保つことがむつかしくなります。これに対し、図に示す板金加工的ものづくりによる方法では、溶接箇所をできる限り曲げ加工に置き換え、溶接部の組み付けも図中に示すようなホゾ継手を利用することで、高精度で剛性に富む組み付けができ、高精度溶接組み立て製品の製作が容易に可能となります。

図5-5 板金加工における高精度ものづくり製品例 (株)アマダ提供
こうした板金加工の手法を、溶接を利用する中・厚板のものづくりに利用とするのが「板金的ものづくり」として提案している手法です。図5-6が、板金加工的ものづくり法を中板溶接製品に適用した例で、従来的な手法ものと比較して示しています。(a)の板金的ものづくりによる製品では、(b)の従来法のものに比べ部材点数が少なく構造が簡素化されたことで製品のデザイン性が高められています。さらに、溶接箇所が少なくなったことで、(1)製品の製作時間が大幅に短縮できる、(2)製品寸法精度が確保しやすい、(3)製品強度が溶接部の品質に左右されず、溶接部の検査の必要性が少なくなる、などの効果が明瞭に期待できます
また、図5-7は、組み立て品の精度出しのむつかしい形材の「板金的ものづくり手法」による組み付け継手の工夫例です。写真のように、はめ込みや組み合わせにより、高精度の組み付けが可能となります。
- (a) 従来法の場合
- (b)板金的加工法の場合
図5-6 中板溶接品の仕上がり状態に対する加工方法の影響 (株)アマダ提供
- (a)角パイプの垂直組み付けの場合
- (b)チャンネル材組み付けの場合
図5-7 板金加工的ものづくり例 (株)アマダ提供
『溶接の基礎講座』の目次
第1章 溶接の基礎
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1-1接合方法の種類についてものづくりにおける組み立て手段としての接合方法には、締結部品であるボルトやリベットなどを利用して接合される機械的接合法、溶接やろう付けなどの金属材料の持つ特性を利用して接合する冶金的接合法、そして各種接着剤を利用する接着剤接合法があります。
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1-2金属材料の成り立ちと特性溶接は、2つの金属を加熱して溶かし、その後冷却して固めることで2つの材料を接合、一つの部材にします。
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1-3溶接の接合メカニズム金属を加熱すると、材料は熱膨張で長くなります。
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1-4ひずみが発生する原因とひずみ取り溶接組み立て品の寸法精度不良は、溶接によって発生する変形(溶接ひずみ)や溶接時のセッティング不良などが原因となります。
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1-5ひずみ対策と製品の高精度化溶接によるひずみの発生は、材料や製品形状、部材としての加工状態などによって個々に違います。
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1-6溶接作業における安全対策ガスやアークなど高温の熱源を使用し、金属が溶ける温度状態で切断や溶接の作業を行う場合の共通的な安全上の問題として、①高温の熱源から放出される赤外線や紫外線による目や皮膚の障害
第2章 溶接方法と溶接材料
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2-1ガス溶接とガス切断ボンベに充てんされたプロパンやアセチレンなどの可燃性ガスと酸素を混合して燃焼させ、得られる高温のガス炎は、金属を溶かして接合、溶断(金属を溶かして切断することから溶断と呼びます)するのに利用されます。
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2-2溶接用熱源としてのアークについて一般に最も広く利用されている溶接の熱源が、「アーク」です。アークは、その形状や電流、電圧条件を変化させることで、目的の溶接に見合った熱源に容易に制御できます。こうしたことから、アークは、幅広い材料や製品の溶接に利用されるのです。
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2-3TIG溶接と溶接装置の設定作業ティグ(TIG)溶接は、融点の高いタングステン電極と母材との間にアークを発生させ、このアークで溶かした金属をアルゴンなどの不活性ガスで保護しながら溶接します。
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2-4TIG溶接トーチ、タングステン電極の設定TIG溶接における溶接トーチ、タングステン電極は、その取り扱いにより作業性や溶接品質が強く影響されます。したがって、その取り扱いや設定には、十分な注意と確認が必要です。
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2-5TIGパルス溶接についてTIG溶接は、溶接部の冶金的な特性や溶け込み特性の両面で高品質の溶接結果が得られやすく、近年、各種材料の溶接に広く利用されています。
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2-6TIG溶接における溶接棒の添加作業TIG溶接による開先内肉盛り溶接などでは、作業者は、熱源と切り離された溶接棒をプールに挿入して棒の先端部を溶融させ溶着金属を形成させます。
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2-7半自動アーク溶接とその溶接半自動アーク溶接は、0.4~1.6mmといった細い径のワイヤをモーターで自動的に送り出す溶接法の総称です。
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2-8半自動溶接でのシールドガス及び溶接ワイヤの選択ミグ(MIG)、マグ(MAG)溶接など細径ワイヤを自動的に送給しアークやプールをシールドガスで保護する半自動アーク溶接では、使用するワイヤとシールドガス、 溶接条件によってワイヤ先端に形成されるワイヤ溶融金属が母材プールに移行していく現象(以後、移行現象と呼びます)などが変化し、使用できる作業も変化します。
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2-9半自動アーク溶接の設定条件半自動アーク溶接における溶接条件の設定は、一般的な溶接条件表を頼るような方法は余り推奨できません。
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2-10半自動アーク溶接でのトーチ保持角の設定半自動アーク溶接では、設定した電圧(アーク長さ)条件はほぼ一定に保たれます。
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2-11各種姿勢での半自動アーク溶接作業電極材料であるワイヤの溶ける量が多い半自動アーク溶接では、溶接姿勢によりプールの溶融金属の挙動が変化するため、姿勢に合わせ溶接条件の設定やトーチ操作を適正に行う必要があります。
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2-12ステンレス鋼のミグ、マグ溶接についてステンレス鋼の半自動溶接では、ソリッドワイヤ使用のミグ溶接とフラックスワイヤ使用のマグ溶接が利用できます。
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2-13アルミニウムのミグ溶接についてアルミニウム材料の高能率溶接は、ミグ半自動アーク溶接で可能となります。この溶接で比較的利用範囲の広い、小~中電流条件の溶接作業では、パルス電流制御の利用が推奨されます。
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2-14ろう材の選択とトーチろう付け作業のポイントろう付け(ろう接)は、ハンダ付け作業で行うように母材となる銅線は溶かさず、この固体の銅線の間の隙間に低い温度で溶融するろう材(ハンダ)を液体状態にして流し込み接合する方法です。
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2-15トーチろう付け作業とアークろう付け作業人の作業状態がろう付け結果を左右する手動トーチろう付け作業では、(1)接合部の清浄及びフラックスの塗布、(2)接合部と周辺の均一加熱、(3)フラックスが溶融して活性状態となる適正ろう接温度で、ろう材添加、(4)接合面全体にろう材が均一に行きわたるための加熱操作、(5)適正ろう付け状態の確認と加熱の停止、ろう付け部の冷却、(6)残留フラックスの除去と接合部の清浄、の手順で作業を行います。
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2-16被覆アーク溶接の特徴と作業上の安全対策被覆アーク溶接は、母材材質に合わせた溶接棒を使用すれば、各種材料を手軽な装置で比較的高品質に溶接できることから、これまでの溶接作業の主力として広く利用されてきました。
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2-17被覆アーク溶接棒の選び方被覆アーク溶接では、電極となる溶接棒が溶けて母材に移行し、母材の溶融した金属とともに溶接金属を形成することから基本的には母材の成分に近い成分の溶接棒を選びます(例えば、母材が軟鋼であれば軟鋼用棒、ステンレス鋼の場合はステンレス鋼用棒、銅の場合は銅用棒を選びます)。
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2-18アークの発生と安定維持作業被覆アーク溶接では、遮光用ヘルメットなどで顔を覆った真っ暗やみの中での作業となり、しかも溶接開始時のアークを発生させるための溶接棒と母材面との接触で発する「バチィ」の音、 まぶしいアーク光で驚き、次の動作に移れなくなります
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2-19各姿勢での被覆アーク溶接作業被覆アーク溶接による各姿勢での溶接作業においては、プール溶融金属の挙動に加え溶融スラグの挙動を考慮した条件設定、熱源操作が必要となります。
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2-20直流被覆アーク溶接について最近の小型・軽量化が進められた被覆アーク溶接機では、従来機に比べ低電流条件での使用が難しく、適用できる作業範囲がせばまる、などの問題点が指摘