溶接の基礎講座
本連載では「溶接」について、金属が接合するメカニズムから溶接の種類、また溶接の仕方まで、現場で使える知識をご紹介していきます。
2-7 半自動アーク溶接とその溶接
半自動アーク溶接は、0.4~1.6mmといった細い径のワイヤをモーターで自動的に送り出す溶接法の総称です。 したがって、半自動ティグ溶接のようにワイヤを溶接棒の代わりに自動的に送り出すためのものもありますが、一般的には炭酸ガスアーク溶接のようにワイヤ先端でアークを発生させるものを指します(この場合は半自動アーク溶接と呼びます)。
半自動アーク溶接装置は、図7-1に示すように溶接機及びワイヤ送給装置、溶接トーチで構成されます。一般的なワイヤ送給装置は、図のように送給装置として独立したものですが、0.6~0.9mmのような細径ワイヤを用いる場合はワイヤをトーチ内に搭載しプル方式で送給するトーチが送給装置をかねる方式のものが使用されます。
なお、ワイヤを送りローラで押し出すプッシュ式の一般的な送給装置を使用する場合は、装置に接続された長い溶接トーチ内を送り出された細いワイヤがスムーズに通っていけるよう、送給装置を吊るすなどしてトーチケーブルを真っ直ぐにする工夫が必要です。

図7-1 半自動アーク溶接装置の構成
ワイヤの先端がアーク発生点となる半自動アーク溶接では、針金状のワイヤを使用することから、アーク発生点に近い溶接トーチ先端のコンタクトチップで通電が行われます。 したがって、細い径のワイヤに大電流が流せることから、ワイヤの溶ける量が多く溶着金属量も多くなります。そのため、良好な溶接結果を得るには、「他の溶接法に比べ速い速度で溶接する」必要が生じます。
図7-2が、炭酸ガス半自動アーク溶接を種々の速度で溶接した結果で、図の(d)の遅い速度の溶接では、多量の溶融金属がアークによる母材の直接的な加熱を妨げ、十分な溶け込みの得られない溶接となっています。 ただ、速度の速すぎる溶接では、図の(a)や(b)のように作業者が速度に対応しきれず不連続のビード状態でピットなどの欠陥を発生しています。 したがって、この溶接では、適度に速度の速い溶接で、(c)のようにやや富士山的なビード形状に溶接できることが必要となります。

図7-2 各種溶接速度での溶接結果
半自動アーク溶接による溶接作業では、この溶接法の特徴を活かす溶接を心がける必要があり、次のポイントに注意して作業します。
(1)使用するワイヤ、シールドガスを適正に設定します(2-8参照)。
(2)作業に合った適正な電流、電圧条件を設定します(2-9章項参照)。
(3)ワイヤ突き出し長さ、トーチ保持角を一定に保持して作業します(2-10章参照)。
(4)溶接姿勢に合わせた溶接条件やトーチ操作で溶接します(2-11章参照)。
『溶接の基礎講座』の目次
第1章 溶接の基礎
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1-1接合方法の種類についてものづくりにおける組み立て手段としての接合方法には、締結部品であるボルトやリベットなどを利用して接合される機械的接合法、溶接やろう付けなどの金属材料の持つ特性を利用して接合する冶金的接合法、そして各種接着剤を利用する接着剤接合法があります。
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1-2金属材料の成り立ちと特性溶接は、2つの金属を加熱して溶かし、その後冷却して固めることで2つの材料を接合、一つの部材にします。
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1-3溶接の接合メカニズム金属を加熱すると、材料は熱膨張で長くなります。
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1-4ひずみが発生する原因とひずみ取り溶接組み立て品の寸法精度不良は、溶接によって発生する変形(溶接ひずみ)や溶接時のセッティング不良などが原因となります。
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1-5ひずみ対策と製品の高精度化溶接によるひずみの発生は、材料や製品形状、部材としての加工状態などによって個々に違います。
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1-6溶接作業における安全対策ガスやアークなど高温の熱源を使用し、金属が溶ける温度状態で切断や溶接の作業を行う場合の共通的な安全上の問題として、①高温の熱源から放出される赤外線や紫外線による目や皮膚の障害
第2章 溶接方法と溶接材料
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2-1ガス溶接とガス切断ボンベに充てんされたプロパンやアセチレンなどの可燃性ガスと酸素を混合して燃焼させ、得られる高温のガス炎は、金属を溶かして接合、溶断(金属を溶かして切断することから溶断と呼びます)するのに利用されます。
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2-2溶接用熱源としてのアークについて一般に最も広く利用されている溶接の熱源が、「アーク」です。アークは、その形状や電流、電圧条件を変化させることで、目的の溶接に見合った熱源に容易に制御できます。こうしたことから、アークは、幅広い材料や製品の溶接に利用されるのです。
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2-3TIG溶接と溶接装置の設定作業ティグ(TIG)溶接は、融点の高いタングステン電極と母材との間にアークを発生させ、このアークで溶かした金属をアルゴンなどの不活性ガスで保護しながら溶接します。
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2-4TIG溶接トーチ、タングステン電極の設定TIG溶接における溶接トーチ、タングステン電極は、その取り扱いにより作業性や溶接品質が強く影響されます。したがって、その取り扱いや設定には、十分な注意と確認が必要です。
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2-5TIGパルス溶接についてTIG溶接は、溶接部の冶金的な特性や溶け込み特性の両面で高品質の溶接結果が得られやすく、近年、各種材料の溶接に広く利用されています。
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2-6TIG溶接における溶接棒の添加作業TIG溶接による開先内肉盛り溶接などでは、作業者は、熱源と切り離された溶接棒をプールに挿入して棒の先端部を溶融させ溶着金属を形成させます。
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2-7半自動アーク溶接とその溶接半自動アーク溶接は、0.4~1.6mmといった細い径のワイヤをモーターで自動的に送り出す溶接法の総称です。
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2-8半自動溶接でのシールドガス及び溶接ワイヤの選択ミグ(MIG)、マグ(MAG)溶接など細径ワイヤを自動的に送給しアークやプールをシールドガスで保護する半自動アーク溶接では、使用するワイヤとシールドガス、 溶接条件によってワイヤ先端に形成されるワイヤ溶融金属が母材プールに移行していく現象(以後、移行現象と呼びます)などが変化し、使用できる作業も変化します。
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2-9半自動アーク溶接の設定条件半自動アーク溶接における溶接条件の設定は、一般的な溶接条件表を頼るような方法は余り推奨できません。
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2-10半自動アーク溶接でのトーチ保持角の設定半自動アーク溶接では、設定した電圧(アーク長さ)条件はほぼ一定に保たれます。
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2-11各種姿勢での半自動アーク溶接作業電極材料であるワイヤの溶ける量が多い半自動アーク溶接では、溶接姿勢によりプールの溶融金属の挙動が変化するため、姿勢に合わせ溶接条件の設定やトーチ操作を適正に行う必要があります。
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2-12ステンレス鋼のミグ、マグ溶接についてステンレス鋼の半自動溶接では、ソリッドワイヤ使用のミグ溶接とフラックスワイヤ使用のマグ溶接が利用できます。
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2-13アルミニウムのミグ溶接についてアルミニウム材料の高能率溶接は、ミグ半自動アーク溶接で可能となります。この溶接で比較的利用範囲の広い、小~中電流条件の溶接作業では、パルス電流制御の利用が推奨されます。
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2-14ろう材の選択とトーチろう付け作業のポイントろう付け(ろう接)は、ハンダ付け作業で行うように母材となる銅線は溶かさず、この固体の銅線の間の隙間に低い温度で溶融するろう材(ハンダ)を液体状態にして流し込み接合する方法です。
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2-15トーチろう付け作業とアークろう付け作業人の作業状態がろう付け結果を左右する手動トーチろう付け作業では、(1)接合部の清浄及びフラックスの塗布、(2)接合部と周辺の均一加熱、(3)フラックスが溶融して活性状態となる適正ろう接温度で、ろう材添加、(4)接合面全体にろう材が均一に行きわたるための加熱操作、(5)適正ろう付け状態の確認と加熱の停止、ろう付け部の冷却、(6)残留フラックスの除去と接合部の清浄、の手順で作業を行います。
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2-16被覆アーク溶接の特徴と作業上の安全対策被覆アーク溶接は、母材材質に合わせた溶接棒を使用すれば、各種材料を手軽な装置で比較的高品質に溶接できることから、これまでの溶接作業の主力として広く利用されてきました。
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2-17被覆アーク溶接棒の選び方被覆アーク溶接では、電極となる溶接棒が溶けて母材に移行し、母材の溶融した金属とともに溶接金属を形成することから基本的には母材の成分に近い成分の溶接棒を選びます(例えば、母材が軟鋼であれば軟鋼用棒、ステンレス鋼の場合はステンレス鋼用棒、銅の場合は銅用棒を選びます)。
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2-18アークの発生と安定維持作業被覆アーク溶接では、遮光用ヘルメットなどで顔を覆った真っ暗やみの中での作業となり、しかも溶接開始時のアークを発生させるための溶接棒と母材面との接触で発する「バチィ」の音、 まぶしいアーク光で驚き、次の動作に移れなくなります
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2-19各姿勢での被覆アーク溶接作業被覆アーク溶接による各姿勢での溶接作業においては、プール溶融金属の挙動に加え溶融スラグの挙動を考慮した条件設定、熱源操作が必要となります。
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2-20直流被覆アーク溶接について最近の小型・軽量化が進められた被覆アーク溶接機では、従来機に比べ低電流条件での使用が難しく、適用できる作業範囲がせばまる、などの問題点が指摘