第3章 穴加工における治工具

3-2 卓上ボール盤の特徴と座標系

電気ドリルはドリルをチャックで掴んで回転させる部分を作業者が手で持って行うため、ワークに対してドリルを常に直角に保つことができません。そのため、前項(2)で述べた「穴がななめになる」ことは避けられません。卓上ボール盤はワークをしっかり固定し、ドリルの刃を直角に保つことで精度のよい穴加工ができるようにした工作機械なのです。

卓上ボール盤の主要な構造を写真1に示します。基本的な構造物は、〈1〉ベース、〈2〉ポスト、〈3〉テーブル、〈4〉スピンドルヘッドが配置されています。テーブルはスピンドルと直角の平面となっており、写真2のように旋回・上下することができるので、ワークの大きさや形状によってテーブルの位置や高さを変えます。スピンドルヘッドはドリルチャックが付いたスピンドルとモータが付いており、モータの回転をVベルトと段付きプーリーによってスピンドルに伝えます。スピンドルは右のハンドルによって上下に送ることができるため、ドリルチャックで掴むことができる直径13mmまでのストレートドリルを使って、確実に穴加工を実施することができます。

写真1
写真1 卓上ボール盤の主な機構

写真2
写真2

 

(1)スピンドルヘッドの機能

写真3はスピンドルヘッドです。スピンドルとは英語で軸のこと。軸を回転させる機構をもつユニットをスピンドルヘッドと呼んでいます。スピンドルは二重構造になっています。モータから回転を伝える外側の軸(固定側)と、上下にスライドできる内側の軸があり、キーで回転を伝えています。内側の軸の下にはドリルチャックを取り付ける軸端(ジャコブステーパ)があり、ハンドルによって上下に送ることができます。

写真3
写真3

写真4のように上下送り寸法を表示するようになっています。ボール盤によって表示方法や位置が異なります。上下の動きを制限する機構があると穴の深さを決められるので、深さの決まった多数の穴加工を行う時には便利です。このような機構は機械に治具の要素が加わっていると考えることもあります。ドリルによる穴加工のこの動きはZ軸の座標値となります。

写真4
写真4

 

(2)テーブルの機能

卓上ボール盤のテーブルは、写真5のロックハンドルを緩めることで旋回や上下移動が可能となります。テーブルの右奥にある送りハンドルによってテーブルを上下に動かすことができます。この旋回やテーブルの上下送りによってテーブルの位置を決めた後は、ロックハンドルによってテーブルをコラムに固定します。テーブル面はXY座標となりますが、ボール盤にはテーブルを送る機構が無いので、一回一回ドリル先端を穴位置に合わせる作業が必要となります。

写真5-1
写真5-1

写真5-2
写真5-2

テーブル中央の穴はドリル先端の逃げ、左右の長孔はボルトを通してバイスやワークを固定するためのものです。

テーブルの下の様子を写真6に示します。矢印Aのピンを引き抜き、矢印Bのネジを緩めるとテーブルを傾けることができます。ピンを戻せばテーブルを主軸と直角の元の位置に戻すことができます。

写真6
写真6

 

執筆: 株式会社日本中性子光学 河合 利秀

『治具・取付具の正しい使い方』の目次

第1章 治具の基礎知識

第2章 タップ加工における治工具

第3章 穴加工における治工具

第4章 旋盤加工における治工具

第5章 フライス盤加工における治工具

第6章 マシン(ミーリング)バイス

第7章 クランプシステムとは

第8章 フライス加工を助ける補助的な治工具

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