治具・取付具の正しい使い方

ものづくりのあらゆる場面ででてくる道具の一つである「治具(JIG)」についての基礎知識と、実際に使われている治具やそれに類する道具の基礎知識から、実際の加工場面における治具の使い方まで、図や写真を通してご紹介していきます。
第3章 穴加工における治工具

3-1 穴加工のポイント

一般的に、本格的な穴加工はドリルという刃物を使います。ドリルは写真1に示すように、2本のねじれ溝があり、先端角118°の切れ刃が対称に付いています。太さ13.0mmまでのドリルの「つかみ部分」は写真2のように棒状となっているため「ストレートシャンクドリル」が正式名称です。

写真1
写真1

写真2
写真2

13.0mmより大きいドリルはテーパシャンクドリルといい、写真3のようにつかみ部分が円錐(モールステーパ)となっています。

写真3
写真3

この他にも穴加工に用いる刃物工具は、ホールソウ、段付きドリルなど多々あります。使い方の基本はドリルによる穴加工と同じです。

ドリルを使った穴加工は一見簡単なようですが、なかなか思うようにいきません。

  1. 狙った位置からずれる(写真4)
  2. 穴が斜めになる(写真5)
  3. 真円度の悪い見苦しい形になる(写真6)
  4. 穴が貫通する直前ドリルが食い込み、裏側が欠けたり割れたりする(写真7)

写真4
写真4

写真5
写真5


写真6
写真6

写真7
写真7

こんな経験は誰でも一度はしているはずです。それどころか、穴加工はこんなものだと思っている方が多いのではないでしょうか?実は私もその一人でした。

この章では、私の反省も込めて、きちんとした穴加工を行うためには何が大切かをよく確かめたうえで、治具の果たす役割を紹介したいと思います。

 

穴加工のポイント

それでは、ドリルを使った穴加工で大切なこととは何でしょう?

先に上げた4つの失敗例をみて、何が足らなかったかを考えることで、穴加工で大切なポイントが見えてきます。

(1)狙った位置からずれてしまう(写真4)

手持ちの電気ドリルを使った穴加工では度々このような失敗があります。写真4は十字ケガキ線から僅かに上にずれてしまいました。これぐらいなら修正できますが、使い物にならないこともあるので大変ですね。

穴位置がずれてしまうのは、ドリル刃先が狙った位置から外れてしまうためです。刃先を中心にガイドするためにセンターポンチを打ち込んで中心に凹みを付けます。手持ちの電気ドリルでは垂直に保つことが難しいため、センターポンチを打ってあってもドリルの刃先がずれてしまうことがあります。

狙った位置に正確に穴をあけるために重要な項目を整理しましょう。

1.穴をあけたい物(ワーク)の固定

ワークがしっかり固定されていなければドリルの先端がワークに触れた瞬間にワークが動いてずれてしまう恐れがあります。しっかり固定することが大切です。どのように固定するか・・・ここが今回の「治具」の役割でもあります。

 

2.ドリル刃先をワークの狙った位置に正しくガイドする

ドリル先端を狙った位置に落ち着かせるには「センターポンチ」を打ちます。先端角60°の円錐のこれができなければドリル先端がワークに当たった時の振動でドリルの位置がずれてしまいます。ドリルの先端が逃げないようにするには写真8のようにセンターポンチで円錐型の刻印を打ち込んでおきます。手持ちの電気ドリルのようにドリルの刃先を正確に遅れない場合には特に深めにセンターポンチの刻印を打って、60°の円錐の穴にドリル先端を合わせるとドリル刃先が逃げずに正確な位置に穴加工をすることができます。

写真8
写真8

 

3.ドリルの刃を垂直に保つ

ドリルの刃とワークの角度を90°に保つことができないと、穴が斜めになってしまいます。深い穴の場合は裏側の穴位置がずれてしまいます。センターポンチの刻印があっても穴位置がずれてしまうなどのトラブルはドリルの刃が傾いているためなのです。

後の項で解説する「卓上ボール盤」などの穴あけ専用の機械はテーブルとドリルが垂直なので安心ですが、手持ちの電気ドリルはどうしても傾いてしまいます。手持ちの電気ドリルには写真9のようなドリルスタンドを使うとかなり改善できますが、加工したい穴の直径が大きい時は強度不足でうまくいきません。

写真9
写真9

卓上ボール盤を使っていても安心はできません。バイスでワークを固定するときに傾いたまま取り付ける恐れがあります。締め付け力が弱い時はドリルを押す力でワークが動いて傾いてしまうこともあります。こうしたことも「治具」の役割を理解していれば失敗を防ぐことができます。

 

(2)真円度の悪い見苦しい穴の形になる

この現象は薄板の穴加工でよくみます。ドリル先端は118°の円錐形状になっており、ドリルの中心が板の裏側に出てしまって救心力が弱くなるとドリルの肩が滑って振動し、穴のエッジが写真6のようにいびつに変形します。

これはドリル先端が貫通しても求心力を失わせないよう、ワークの裏側に当て板を入れてしっかり固定することで防ぐことができます。

冶具の話からは離れますが、薄板の穴加工では「ろうそくドリル」という特殊な刃先形状のもの(写真10)を使うと真円度の良好な穴加工が可能です。写真11のは厚さ1mmのアルミニウム板にローソクドリルでφ6.5mmの穴をあけたものです。このように真円度の良い穴をあけることができます。

写真10
写真10

写真11
写真11

 

(3)貫通穴の裏側が欠ける

穴あけ加工ではこれが一番危険です。最悪ワークが割れたりドリルが折れるなどの事故につながります。写真7は厚さ3mmのアクリル板にφ8.0mmの穴をあけようとしたものですが、穴が貫通する直前に板が割れて飛んで行ってしまいました。

これは穴が貫通する直前、切削抵抗が急激に少なくなってドリルが食い込んだことで起きる現象です。少し欠けが出る程度なら許容範囲ですが、写真7のように大きく割れたのでは台無しです。真鍮や鉄鋳物の加工ではドリルが折れることもあります。ワークを引き込んで振り回すと事故につながるので要注意です。

食い込み現象を抑え込むには、ボール盤など穴加工専用の工作機械を用いてワークをしっかり固定し、ワークの裏側にダミー板をあてがって固定し、抜け際で切削抵抗の変化がすくなくなるよう、隙間無く固定します。特にアクリル板やポリカーボネイト板は欠けが生じやすいので薄板加工と同じように裏側に当て板を入れて、ワーク貫通時にもドリル先端の切削抵抗が保たれるようにします。

以上四つの事例をみると、「ドリルの案内」は使う工作機械の基本性能で決まってしまいますが、ワークの固定方法については素材や形状の違いによって工夫する必要があります。この部分がこのページの大きなテーマである「治具」のノウハウとなっています。

 

執筆: 株式会社日本中性子光学 河合 利秀

『治具・取付具の正しい使い方』の目次

第1章 治具の基礎知識

第2章 タップ加工における治工具

第3章 穴加工における治工具

第4章 旋盤加工における治工具

第5章 フライス盤加工における治工具

第6章 マシン(ミーリング)バイス

第7章 クランプシステムとは

第8章 フライス加工を助ける補助的な治工具

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