治具・取付具の正しい使い方

ものづくりのあらゆる場面ででてくる道具の一つである「治具(JIG)」についての基礎知識と、実際に使われている治具やそれに類する道具の基礎知識から、実際の加工場面における治具の使い方まで、図や写真を通してご紹介していきます。
第1章 治具の基礎知識

1-2 治具の使用ポイント

(1)治具の使用ポイント(締付力、熱膨張)

6個の自由度を拘束するには、動かないように固定する力が必要です。例えば写真1の穴加工用治具を使ってアルミニウム板に穴をあけようとすると、板が手前に動かないように穴加工する近くを上から押さえつける必要があります。このとき、必要以上に大きな力で押さえつける・・・例えば写真2のように鋼鉄製のクランピングツールで力いっぱい締め付けたらどうなるか?

写真1
写真1

写真2
写真2

みなさんお分かりですね。写真3を見てください。クランプの爪先が加工品の面に食い込んで酷い傷をつけてしまいました。いくらしっかり固定せよと言ってもこれでは失敗です。

写真3
写真3

反対に、締め付け力が弱いと、ドリルの回転力に負けてアルミニウム板が飛び出してしまいます。加工物が外れると大きな事故につながります。この例は加工品が小さいので作業者がケガをすることはないと思いますが、製品にはなりませんし、治具を傷める可能性もあります。

工作物を固定するときには、加工の方法や固定方法によって適正な締め付け力があるのです。

もう一つの問題は熱膨張です。

機械加工していると、加工熱で工作物の温度があがりますね。熱膨張で工作物は間違いなく大きくなります。この時、適正な力で締め付けていたとしても、膨張を逃がす工夫が無いと締め付け力を大きくしたことになり、加工物を凹ませることになります。工作物が冷えると今度は押さえているところが緩んでしまいます。加工熱が多く発生する場合はこの熱膨張による工作物の締め付けの状態変化に注意する必要があるのです。

表1に主な素材の熱膨張率を示します。値は20℃の時に温度が1℃上がったときに増える長さです。

金属材料の名前 線膨張率(x10-6 金属以外の素材の名前 線膨張率(x10-6
アルミニウム 23.1 ガラス 4~10
ジュラルミン 21.6 セメント(コンクリート) 7~14
14.2 磁気(絶縁碍子) 2~6
18.9 溶融石英 0.4~0.55
11.8 ポリエチレン 100~200
炭素鋼 10.7 ベークライト 21~33
ステンレス鋼(18-8) 14.7 アクリル樹脂 80
16.5 レンガ 3~10
真鍮 21.6 木材(繊維に平行) 3~6
リン青銅 17.0 木材(繊維に垂直) 35~60

表1、主な物質の熱膨張(線膨張整数)・・・・理科年表(国立天文台編)より引用

例えば、100mmのアルミニウムが60℃になったらどうなるか?60℃は手で触ってちょっと熱い程度です。100mmのアルミニウムブロックがどれだけ長くなっているかを計算します。

表から線膨張率は23.1x10-6、40℃の上昇なので、膨張寸法=100x40x23.1x10-6=0.924(mm)

約1mmでした。僅かだと思えるかもしれませんが、膨張した後に元の温度に戻ったらクランプは確実に緩んでしまいます。

 

執筆: 株式会社日本中性子光学 河合 利秀

『治具・取付具の正しい使い方』の目次

第1章 治具の基礎知識

第2章 タップ加工における治工具

第3章 穴加工における治工具

第4章 旋盤加工における治工具

第5章 フライス盤加工における治工具

第6章 マシン(ミーリング)バイス

第7章 クランプシステムとは

第8章 フライス加工を助ける補助的な治工具

目次をもっと見る

『機構部品』に関連するカテゴリ

『金型用部品、位置決め部品』に関連するカテゴリ