機械要素の基礎講座

多くの産業を支える機械の基礎として重要な「機械要素」。 歯車やベルト・チェーン、ばねなど多岐にわたります。本連載では、 それらの機械要素について、知っておくべき基本的な事項をご紹介していきます。
第3章 

3-2 ばねの歴史

ばねの歴史は何をばねと見なすかによって異なりますが、古代人が動物を捕獲するために木の復元力を利用して作った罠や、狩猟・採集に用いられた木で作られた弓矢などがばねの起源と言えるでしょう。現在、工業用として幅広く用いられているコイル状のばねは、鉄鋼材料が普及して、かつ精密な加工技術が普及してから登場しました。

イタリアのルネサンス期を代表する「万能の天才」のレオナルド・ダ・ヴィンチは、芸術、医学、工学などの分野で15世紀後半に活躍した偉人です。彼が残したノートにはこれらの分野に関係する大量のスケッチがあり、機械要素に関しても、歯車装置やねじ切り盤など、それら作るための工作機械を含めてたくさんのものがあります。 ばねに関しても現在のコイルばねやぜんまいばねのような形状のスケッチが残されています。これのスケッチはすべて実現されたわけではありませんが、その創造性には驚かされます。

日本国内でも同じく弓矢などは古くから用いられていましたが、金属製のばねは16世紀、種子島に火縄銃が伝来して、その引金に使われていたのがはじまりとされています。同じく火縄銃の銃底をふさぐための尾栓に用いられたねじが日本でのねじのはじまりとされています。 すなわち、種子島に伝来した火縄銃は、火縄銃を伝えただけでなく、「ばね」と「ねじ」を伝えるという大きな役割を果たしていたのです。

次に「ばね」の語源を考えてみましょう。何となくその性質から、「跳ねる」という言葉に似ているような感じがしますが、この推測の通り、不朽の名辞典として知られる『大言海』や日本で最大規模の国語辞典である『日本国語大辞典』の解釈でも「跳ねる」が訛り濁ったものとされています。 また、日本における古典的な機構学の原典とも言える書物『機巧図彙(からくりずい)』では、ばねのことを「弾金(はじきがね)」と記しているように、「はじく」が「ばね」に訛ったとする説などもあります。

なお、英語では「ばね」のことを「spring」といいますが、この単語には他にも「春」や「温泉」、「元気」、「活力」などの意味もあります。「ばね」と「春」と「温泉」は一見、結びつかないように思えますが、「春」は厳しい冬から弾ける、「温泉」は地中から湧き出る、「元気」や「活力」も身体からやる気がみなぎるというような意味があります。 すなわち、これらの言葉には「突然跳ねる」や「急に弾ける」というような共通の意味があるのです。

執筆:神奈川工科大学 門田和雄 教授

『機械要素の基礎講座』の目次

第1章 歯車

第2章 ベルトとチェーン

第3章 ばね

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