テスターの基礎講座
1-4 アナログテスターの仕組みと構造
■アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。また、直流電流計の動作は、アナログテスターの基本原理ですので、仕組みと構造について少し詳しく解説します。さて、この直流電流計を使って、直流電圧・直流電流・抵抗・交流電圧を表示させます。しかし、電圧や抵抗などはそのまま直流電流計に接続することができません。そこで、アナログテスターでは、電圧や抵抗をオームの法則(電圧[V] = 電流[A]×抵抗[Ω])により、直流電流に変換しています。すなわち、直流電流を表示することにより、電圧や抵抗を表現していることになります。
■直流電圧計は、直流電流計のパネルを書き替えただけで、同じものだと知っていますか。それはさておき、100μAの電流計は、100μA流れたときに最大目盛値(フルスケール)になります。このとき、電流計のプラスとマイナスの端子間に、電圧が発生します。これは、電流計を構成しているコイルなどが持つ内部抵抗のためです。たとえば、1Vの電圧が発生したとします。オームの法則により、内部抵抗[Ω] = 電圧[V] / 電流[A] = 1.00[V] / 100[μA] = 10.0[kΩ]となります。すなわち、この電流計は最大目盛値100μA、内部抵抗10kΩの直流電流計です。このことは逆に、電流計のプラスとマイナスの端子間に、1Vを加えると100μAが流れフルスケールになるとも言えます。さらに、0.5Vでは、電流[A] = 電圧[V] / 抵抗[Ω] = 0.500[V] / 10.0[kΩ] = 50.0[μA]となり、調度半分です。これは、「100μA→1V」、「50μA→0.5V」などとパネルを書き替えれば、間違いなく1Vの直流電圧計になります。すなわち、直流電圧計の正体は、仮面を被った直流電流計だったのです。
■次に、10Vをかけるとどうでしょうか。電流[A] = 電圧[V] / 抵抗[Ω] = 10.0[V] / 10.0[kΩ] = 1.00[mA]となり、フルスケールは100μA(0.1mA)ですので、完全に電流計が振り切れてしまいます。計算することもなく、1Vの電圧計に10倍の10Vを印加すれば、もちろん振り切れ壊れます。それでは、10Vでフルスケールにするためには、どうしたらいいのでしょうか。そのためには、10Vを印加したときに、電流計に流れる電流を100μAにする必要があります。抵抗[Ω] = 電圧[V] / 電流[A] = 10.0[V] / 100[μA] = 100[kΩ]となり、内部抵抗が10kΩですので、差である90kΩを直列に接続すればいいことが解ります。この抵抗器のことを、倍率器(multiplier resistor)と呼び、次の公式で求めることができます。
R = (m - 1)×r、m = Vm / V
R:倍率器の抵抗、r:内部抵抗、Vm:拡大後の電圧、V:拡大前の電圧
この公式でも、1Vのレンジを10倍に拡大するには、m = Vm / V = 10.0[V] / 1.00[V] = 10.0、R = (m - 1)×r = (10.0 - 1)×10.0[kΩ] = 90.0[kΩ]です。
■また、電圧の測定レンジは、ロータリースイッチ等で倍率器を切り替えて選択します。これは、抵抗器による分圧回路です。電圧計はフルスケールで1Vを受け持つわけです。倍率器は各々、10倍レンジは9V、50倍レンジは9V + 40V、100倍レンジでは9V + 40V + 50Vを担当します。このように分担して1Vの電圧計で100Vまでを測定することが可能となります。
■繰り返しとなりますが、100μAの直流電流計は、100μA流れたときにフルスケールになります。ところで、100μA以上はどうなるのでしょうか。たとえば、10倍の1mAを流したら、前述の電圧計同様、電流計は完全に振り切れ壊れてしまいます。それでは、1mAはどのようにして測ればいいのでしょうか。電圧計のときには電圧を分担しましたが、電流計も同じように電流を分担することを考えます。すなわち、電流計では1/10の100μAまでを、残り9/10の900μAまでを別な回路に流すことができれば、電流計も振り切れず壊れることはありません。そこで登場するのが分流回路です。この抵抗器のことを、分流器(shunt resistor)と呼び、次の公式で求めることができます。
R = r / (m - 1)、m = Im / I
R:分流器の抵抗、r:内部抵抗、Im:拡大後の電流、I:拡大前の電流
たとえば、100μA のレンジを10倍に拡大するには、m = Im / I = 1.00[mA] / 100[μA] = 10.0、R = r / (m - 1) = 10.0[kΩ] / (10.0 - 1) = 1.11[kΩ]です。電流計と並列に1.11kΩの抵抗器を接続します。
■また、電流の測定レンジも、ロータリースイッチ等で分流器を切り替えて選択します。これは、抵抗器による分流回路です。電流計はフルスケールで100μAを受け持つわけです。分流器は各々、10倍レンジは900μA、50倍レンジは4.9mA、100倍レンジでは9.9mAを担当します。このように分担して100μAの電流計で10mAまでを測定することが可能となります。
■抵抗の測定は、オームの法則により抵抗[Ω] = 電圧[V] / 電流[A]を活用します。電圧を固定すれば、抵抗は電流に反比例することが解ります。たとえば、電圧を1Vに固定し、先程の電流計と直列に10kΩの抵抗器を接続すると50μA流れることが解ります。電流[A] = 電圧[V] / 抵抗[Ω] = 1.00[V] / (10.0[kΩ] + 10.0[kΩ]) = 1.00[V] / 20.0[kΩ] = 50.0[μA]です。電流計の内部抵抗も10kΩでしたので、フルスケールの半分です。これは、「50μA→10kΩ」、「10μA→90kΩ」などとパネルを書き替えれば、間違いなく抵抗を読むことができます。また、パネル中央から右側は粗い目盛りで、左側が詰まった目盛りとなります。
■抵抗の測定レンジは、電流計と同じように分流器で切り替えて選択します。分流器を追加した電流計の内部抵抗は、見かけ上変化します。見かけの内部抵抗[Ω] = 1 / 内部抵抗[Ω] + 1 / 分流器抵抗[Ω] = 1 / 10.0[kΩ] + 1 / 1.11[kΩ] = (10.0[kΩ]×1.11[kΩ] ) / (10.0[kΩ] + 1.11[kΩ] ) = 11.1[kΩ・kΩ] / 11.1[kΩ] = 1.00[kΩ]となります。すなわち、分流器までを含めた電流計は、最大目盛値1mA、内部抵抗1kΩの直流電流計に見えるのです。電圧を1Vに固定し、直列に1kΩの抵抗器を接続すれば、500μA流れることが解ります。これは、先程のパネル中央「10kΩ」と同じ位置で「1kΩ」を示し、測定レンジは1/10になっています。
■交流電圧の測定では、「整流器」により交流を直流に変換してから直流電圧計を振らせます。そして、測定レンジの拡大も、直流電圧と同様に倍率器を利用します。詳細については、「3-4 家庭用電源の電圧測定」で解説いたします。
【参考文献】
内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)
『テスターの基礎講座』の目次
第1章 テスターの概要
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1-1テスターとは何をするもの?多くの人は、テスターと言われると、店頭などで化粧品の特長や使用性を体感するためのお試し用店頭見本や、コンピューターのソフトウェアなどを動作検証する人を思い浮かべるのではないでしょうか。
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1-2テスターで何がわかるの?テスターで測れる基本的な値は、抵抗(導通)、電圧と電流です。いったい、それらを測定して、電気・電子回路の何がわかるのでしょうか。
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1-3テスターの種類テスターには、どのようなものがあり、何が測れるのでしょうか。まず、表示方式の違いでは、アナログメーターで表示するアナログテスターと液晶画面(LCD)で表示するデジタルテスターがあります。
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1-4アナログテスターの仕組みと構造アナログテスターは、測定値を「アナログメーター」で表示します。じつは、このアナログメーターが「直流電流計」そのものなのです。
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1-5デジタルテスターの仕組みと構造デジタルテスターは、測定値を「液晶ディスプレイ(LCD)」などに表示します。アナログテスターは「直流電流計」でしたが、デジタルテスターは「デジタル直流電圧計」なのです。
第2章 テスターの使い方
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2-1テスター各部の名称と役割スマートフォンなどは、説明書を読まなくとも操作ができます。それは、スマートフォンで何をするのかが、解っているからできることです。
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2-2テスト棒の使い方アナログテスターもデジタルテスターも、赤と黒のテスト棒をテスター本体の測定端子に差し込み使用します。
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2-3テスターの測定値の読み方アナログテスターでは、測定の前に零位調整とゼロオーム調整が必要なことは理解いただけたかと思います。
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2-4抵抗(導通)の測り方アナログテスターで導通検査や抵抗測定を行う場合には、スポーツと同じようにウォーミングアップ(準備体操)が必要となります。
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2-5電圧の測り方アナログテスターで電圧測定を行う場合には、前節の導通検査や抵抗測定とは異なりウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-6電流の測り方アナログテスターで電流測定を行う場合には、前節の電圧測定と同様ウォーミングアップ(準備体操)は必要ありません。
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2-7アナログ向きの使い方デジタルテスターは、測定モードによりテスト棒を当てたときに数字が細かく変化します。そのため、安定した表示に定まるまで少し時間がかかります。
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2-8デジタル向きの使い方デジタルテスターで測定を行う場合に、アナログテスターようなウォーミングアップ(零位調整やゼロオーム調整)は必要ありません。
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2-9機種によって違う測定機能これまでは、テスターの基本機能である電圧・電流・抵抗の測定について、テスターの仕組みと構造を交えて解説してきました。
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2-10テスターでやってはいけないことアナログテスターとデジタルテスターに共通する最大の御法度は、ファンクションを電流測定モードにして電圧を測ることです。
第3章 テスターの測定方法
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3-1導通の測定デジタルテスターには、導通検査ファンクションを持っているものが多くあります。
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3-2人体の抵抗測定人体の抵抗を測ってみたことはありますか。
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3-3電池の電圧測定「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。
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3-4家庭用電源の電圧測定家庭用コンセントに供給されている電気は、交流電圧100Vの電源です。
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3-5カーバッテリーの電圧測定電気自動車やハイブリッドカーなど、車の進化とともにカーバッテリーも大きく進化を遂げています。バッテリーはエンジンの始動など、ランプ系(ヘッドライト、ブレーキランプなど)、電装系(パワーウインドウ、ワイパー、カーオーディオやカーナビなど)に電力供給をしています。
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3-6抵抗器の測定電子部品である抵抗器には色々な種類があります。
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3-7コンデンサーの測定日本ではコンデンサー、欧米ではキャパシターと呼ばれている電気を充放電する電子部品で、色々な種類があります。
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3-8コイル・トランスの測定コイルはインダクターとも呼ばれ、線材をらせん状にクルクルと巻いた構造をしています。
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3-9ダイオードの測定ダイオードを測定するためには、その特性を知っておく必要があります。
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3-10バイポーラトランジスターの測定最近の電子機器には、トランジスター等を内部に形成したICなどのモジュールが多く搭載され、3本足のトランジスターは見かけなくなりました。
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3-11電界効果トランジスターの測定「3-10 バイポーラトランジスターの測定」では、動作に関わるキャリアが2種類あるバイポーラトランジスターをご紹介しました。
第4章 テスターの活用法
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4-1ケーブルの断線チェックケーブルには、電源ケーブル、ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルなど多くの種類があります。
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4-2電池ボックスのチェック電子機器には電源が必要不可欠ですので、色々な電池が使われています。
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4-3ACアダプターのチェックACアダプターのチェックをする場合には、短絡することもあるため、ケーブルを前後左右に折り曲げることをお勧めしません。
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4-4USB機器のチェックUSBは、ユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus)の略称で、コンピューターに周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つです。
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4-5スピーカーとイヤホンのチェックスマートフォンやパソコン、テレビやオーディオ機器の音の出口として、スピーカーやヘッドフォン、イヤホンなどがあります。ラジオを聞くにも欠かせない、音の出口となる部品の一つです。
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4-6オーディオアンプのチェック電子工作には欠かせない、あると便利なのがオーディオアンプです。
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4-7一石低周波増幅回路のチェックラジオは方式にもよりますが、同調・高周波増幅・中間周波増幅・検波・低周波増幅・周波数変換・局部発振など、高周波から低周波までの多くの回路から構成されており、チェックするにはそれなりの知識と経験が必要です。
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4-8さらにテスターを活用する方法(LEDチェッカー)LEDは色々なところに利用されていて、もはや生活には無くてはならない電子部品のひとつです。
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4-9さらにテスターを活用する方法(磁気チェッカー)磁石は身近にあり多くの電子機器にも利用されています。
第5章 使用上の注意点、トラブル対応
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5-1初心者が扱うと危険な測定大切なテスターを壊す最大の原因は、直流電流測定モードで電圧を測ってしまうトラブルです。
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5-2テスターの故障確認方法テスターも電子機器ですので、使用していると「測定値がおかしい」、「指針が振れない」、「電源が入らない」などの故障をすることが当然あります。
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5-3テスターとオームの法則「オームの法則」とは、電圧(V)[V] = 電流(I)[A]×抵抗(R)[Ω]の関係式です。
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5-4テスターの保守方法テスターは測定器ですので、安全と確度の維持のために1年に1回以上は、保守と校正の点検を行うことをお勧めします。
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5-5テスターの管理方法テスターは、測定に使っているとパネルやケースがどうしても汚れてきます。その汚れを落とそうと、シンナーやアルコール等で拭くことはしないでください。