溶接の基礎講座
本連載では「溶接」について、金属が接合するメカニズムから溶接の種類、また溶接の仕方まで、現場で使える知識をご紹介していきます。
2-16 被覆アーク溶接の特徴と作業上の安全対策
被覆アーク溶接は、母材材質に合わせた溶接棒を使用すれば、各種材料を手軽な装置で比較的高品質に溶接できることから、これまでの溶接作業の主力として広く利用されてきました。 ただ、最近は、高能率溶接の要求の高まりで、その利用範囲は少なくなってきています。しかし、現場溶接などではまだまだ多く使用されており、最後に示してある直流被覆アーク溶接を利用することで従来からの利用範囲を超えた活用なども期待されます。
被覆アーク溶接は、図16-1のように母材と同材質の金属棒(心線)を電極とし、この心線と母材との間に形成されるアークを熱源とする溶接法で、心線の周囲に塗布した被覆剤(フラックス)から生成されるガスやガラス状のスラグで溶けている金属を覆って溶接する方法です。 この溶接では、こうしたガスやスラグによるシールドに加え図に示す溶接棒先端の被覆筒の形成などにより現場溶接での風などの影響を受けにくく、比較的容易に高品質の現場溶接が可能となります。

図16-1 被覆アーク溶接による溶接の概要
一方、被覆アーク溶接では、上に示したような有用性がある反面、以下のような欠点も合わせ持ちます。
(1)心線には電気を通さない被覆剤が塗布されており、アークを発生している溶接棒の先端から最も離れた位置で通電する必要があります。 そのため、棒径(心線の径)に対し使用できる電流が制限され、電流密度の小さい広がったアークとなり、溶け込みは均一であるものの浅く、必要な溶け込みを得るには開先加工などの工夫が必要となります。
(2)使用できる電流が制限されることから、アークの発生やアークの安定維持がむつかしくなります。また、心線の溶ける量が少なく、遅い速度の溶接となります。
被覆アーク溶接では、溶接の作業過程で溶接棒が溶融し短くなることから、溶接の進行に伴う熱源の移動操作に加え図16-2のように溶接棒を下げて行く操作を同時に行う必要があり、さらにはアークとスラグの位置関係を適正に保つなど作業には十分な経験と熟練が必要となります。

図16-2 被覆アーク溶接における溶接作業
通常、この溶接は、交流溶接機と電気ケーブルの組み合わせの簡単な装置で溶接が可能です(電源の無い現場溶接や特殊な溶接では、エンジン駆動などの直流溶接機を使用することもあります)。 なお、使用する溶接機は、一般工業用のものでは交流200V単相で使用しますが、家庭用の交流100V電源で使える溶接機も低価格で市販されています(100V電源のものは、使い勝手がやや悪く、適用できる溶接にも限度があります)。
一般的な交流被覆アーク溶接作業では、作業者が電撃を受けやすい高電流の交流を使用することから、雨天などの作業環境では電撃事故を発生しやすく、作業者の安全教育は必修です。 さらに、日々の作業前の安全点検(一次入力の電磁開閉器の状態、各ケーブルに破損やその接続、絶縁状態の不良の無いことなどの点検)、図16-3に示す溶接機の電撃防止装置の動作確認などの点検作業も重要となります。

図16-3 被覆アーク溶接機の安全装置の確認状況
『溶接の基礎講座』の目次
第1章 溶接の基礎
第2章 溶接方法と溶接材料
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2-14ろう材の選択とトーチろう付け作業のポイントろう付け(ろう接)は、ハンダ付け作業で行うように母材となる銅線は溶かさず、この固体の銅線の間の隙間に低い温度で溶融するろう材(ハンダ)を液体状態にして流し込み接合する方法です。
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2-15トーチろう付け作業とアークろう付け作業人の作業状態がろう付け結果を左右する手動トーチろう付け作業では、(1)接合部の清浄及びフラックスの塗布、(2)接合部と周辺の均一加熱、(3)フラックスが溶融して活性状態となる適正ろう接温度で、ろう材添加、(4)接合面全体にろう材が均一に行きわたるための加熱操作、(5)適正ろう付け状態の確認と加熱の停止、ろう付け部の冷却、(6)残留フラックスの除去と接合部の清浄、の手順で作業を行います。
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2-16被覆アーク溶接の特徴と作業上の安全対策被覆アーク溶接は、母材材質に合わせた溶接棒を使用すれば、各種材料を手軽な装置で比較的高品質に溶接できることから、これまでの溶接作業の主力として広く利用されてきました。
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2-17被覆アーク溶接棒の選び方被覆アーク溶接では、電極となる溶接棒が溶けて母材に移行し、母材の溶融した金属とともに溶接金属を形成することから基本的には母材の成分に近い成分の溶接棒を選びます(例えば、母材が軟鋼であれば軟鋼用棒、ステンレス鋼の場合はステンレス鋼用棒、銅の場合は銅用棒を選びます)。
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2-18アークの発生と安定維持作業被覆アーク溶接では、遮光用ヘルメットなどで顔を覆った真っ暗やみの中での作業となり、しかも溶接開始時のアークを発生させるための溶接棒と母材面との接触で発する「バチィ」の音、 まぶしいアーク光で驚き、次の動作に移れなくなります