テスターの基礎講座

テスターとは、電気・電子回路の状態や状況を知るために電気量を目に見える形に変換し間接的に測り、必要な電気量を判断をするために活用する機器です。本連載では、テスターの仕組み・構造から、測定方法まで、テスターを活用する上で知っておくべき基本的な事項を紹介していきます。
第3章 テスターの測定方法

3-3 電池の電圧測定

■「1-2 テスターで何がわかるの?」では、電池が消耗していると、豆電球が明るく点灯しないことを説明しました。ところで、電池が消耗しているとはどのような状態なのでしょうか。電池は消耗すると内部抵抗が大きくなり、電気を取り出しにくくなります。すなわち、電池の寿命なのです。テスターで電池の寿命である消耗具合を知るためには、電池に並列に負荷抵抗Rをつないで電圧を測ります。負荷抵抗により、実際に電池が使われている状態にして、電流が流れているときの電池の端子電圧Vを測定するわけです。たとえば、負荷抵抗R = 10Ωで、端子電圧V = 1.20Vであれば、電流Iを120mA流したときの状態で測定していることになります。

■電池の内部に存在する電池自身の抵抗を、内部抵抗rと呼びます。内部抵抗は、電池を使えば使うほど大きくなります。電池を実際に使っているときには、この内部抵抗による電圧降下分低下した電圧になっているわけです。たとえば、起電力E = 1.50Vで内部抵抗r = 2.5Ωの電池に、負荷抵抗R = 10Ωを付けて測定した場合、電流I = E / (r + R) = 1.50[V] / (2.5[Ω] + 10[Ω]) = 120[mA]となり、電池の端子電圧V = E - rI = 1.50[V] - 2.5[Ω]×120[mA] = 1.20[V]です。しかし、電池が消耗し内部抵抗が大きくても、負荷をかけずに電流が流れていない状態では、内部抵抗による電圧降下が無いので、テスターで電圧を測定しても電池の消耗具合はわかりません。

■ところで、「2-7 アナログ向きの使い方」と「2-8 デジタル向きの使い方」で解説したテスターの内部抵抗を覚えていますか。テスターは測定に影響を受けないように、内部抵抗を大きくしています。sanwaのアナログテスターCX506aの仕様では、交流電圧3/12/30/120/300/750Vレンジで内部抵抗は8kΩ/V、デジタルテスターPC710の仕様では、入力抵抗は10MΩです。たとえば、無負荷でCX506aの交流電圧3Vレンジを使って測定した場合、電流I = E / (r + R) = 1.50[V] / (2.5[Ω] + 24[kΩ]) = 624[μA]となり、電池の端子電圧V = E - rI = 1.50[V] - 2.5[Ω]×624[μA] = 1.50[V]です。

電池の電圧測定

■各種電池の公称電圧です。電池を直列接続したときには、電圧が接続数n倍になります。また、並列接続したときには、電圧は変わりません。テスターの測定レンジを設定する目安にしてください。

●一次電池

マンガン乾電池 1.5V
ふっ化黒鉛リチウム一次電池 3.0V
二酸化マンガンリチウム一次電池 3.0V
塩化チオニルリチウム一次電池 3.6V
二硫化鉄リチウム一次電池 1.5V
アルカリマンガン電池 1.5V
空気亜鉛電池 1.4V
酸化銀電池 1.55V


●二次電池

ニッケル水素電池 1.2V
ニッケルカドミウム電池 1.2V
リチウムイオン二次電池 3.7V
鉛蓄電池 2.0V


■電池の使用時間と電圧の時間変化は電池の消耗特性であり、そのグラフは「放電カーブ」と呼ばれています。一次電池の代表でもあるマンガン電池やアルカリ電池は、時間の経過とともに電圧降下が始まります。すなわち、内部抵抗は、時間とともに大きくなります。一方、二次電池のニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池の放電カーブは、長時間電圧が一定ですが、突然電圧降下が始まる特徴があります。すなわち、内部抵抗がほとんど変わらず小さい値を持続するので、大きい電流が得られます。しかし、突然使えなくなるのです。

【参考文献】

内田 裕之、小暮 裕明 共著『みんなのテスターマスターブック』オーム社、2015年11月20日(第1版第2刷)

三和電気計器『CX506a MULTITESTER 取扱説明書』(13-1405 2040 2040)

三和電気計器『PC710 DIGITAL MULTIMETER 取扱説明書』(04-1405 5008 6010)

執筆: 横浜みどりクラブ(JH1YMC)広報 内田 裕之(JG1CCL/W3CCL)

『テスターの基礎講座』の目次

第1章 テスターの概要

第2章 テスターの使い方

第3章 テスターの測定方法

第4章 テスターの活用法

第5章 使用上の注意点、トラブル対応

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