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溶接の基礎講座
ものづくりにおける接合方法の1つに、「溶接」があります。
本連載では「溶接」について、金属が接合するメカニズムから溶接の種類、また溶接の仕方まで、現場で使える知識をご紹介していきます。
第2章 溶接方法と溶接材

2-10 半自動アーク溶接でのトーチ保持角の設定

半自動アーク溶接では、設定した電圧(アーク長さ)条件はほぼ一定に保たれます。ただ、電流条件は作業中の手の動きによるワイヤ突き出し長さの変化によって変化します。また、溶接中のトーチ保持角が変化することでもワイヤ突き出し長さが変わり、電流も変化します。 したがって、半自動アーク溶接でのこうした変化により、溶け込みなどの溶接結果が変わるメカニズムを良く把握して溶接する必要があります。

1)ワイヤ突き出し長さの変化による電流変化

半自動アーク溶接では、溶接中の作業者の手ぶれなどによりワイヤ突き出し長さ(コンタクトチップ先端からのワイヤの出ている長さ)が変化します。この時、例えば、ワイヤ突き出し長さ15mm、120A、20Vで溶接していた場合、ワイヤ突き出し長さが5mm長くなり20mmに変化すると、

1. 溶接中、通電後のワイヤ突き出し長さが長くなると、突き出たワイヤ部での電気抵抗が増し、その分ワイヤが予熱され、設定した120Aが変わらないとワイヤの溶けが速くなりアーク長さが長くなろうとします。

2. アーク長さが長く電圧が上昇しようとすると、溶接機の持つ設定電圧を保持しようとする作用で電流を下げ、ワイヤの溶ける速度を遅くして設定電圧を維持させます(ワイヤ突き出し長さが長くなると、電流が下がります)。

3. 全く逆のメカニズムで、ワイヤ突き出し長さが短くなると、電流が高くなります。

図10-1が、ワイヤ突き出し長さの変化が電流、溶け込みの変化に及ぼす影響を示したもので、「5mm程度のワイヤ突き出し長さの変化で電流が約15A変化し、それによって溶け込みも変化」しています(こうした現象は、特に低電流の溶接作業で、特に注意が必要となります)。

図10-1 ワイヤ突き出し長さの変化が電流、溶け込みの変化に及ぼす影響

図10-1 ワイヤ突き出し長さの変化が電流、溶け込みの変化に及ぼす影響

2)トーチ保持角の変化が溶接結果に及ぼす影響

半自動アーク溶接でのトーチ保持角は90°の垂直が理想で、この状態付近で最大の溶け込みが得られます。ただ、人が行う半自動の作業では、プールの状態や溶接線を確認するためトーチを傾けて保持します。

図10-2が、トーチを傾けて溶接した場合のトーチ保持角が溶け込み形成に及ぼす影響を図示したものです。 (a)の前進角の溶接では、熱源のアークが傾くことで母材を加熱する効率が悪くなるとともに、溶融金属がアーク直下に押し出されアークによる母材の直接的な加熱が妨げられることで溶け込み深さが浅くなります。 一方、(b)の後退角の溶接では、アークは溶融金属をプール後方の凝固金属側に追いやり、アークによる母材の直接的な加熱で本来なら溶け込みを深くするはずですが、アークが傾くことで熱源の母材を加熱する効率が悪くなり、後退角の保持角が大きくなってもわずかずつ溶け込み深さは浅くなります。

図10-2 トーチ保持角が溶接状態に与える影響

図10-2 トーチ保持角が溶接状態に与える影響

図10-3が溶接中のトーチの保持角と得られる溶け込み深さの関係を示したもので、同じ電流条件でも90°近くのトーチ保持角で最大溶け込み深さが得られています。 これに対し、トーチ保持角を付けた溶接では、得られる溶け込み深さは減少しています(特に、前進角の溶接で溶け込みの減少の大きいことがわかります)。なお、図では、トーチ保持角の変化でワイヤ突き出し長さが変化し電流も変化することの影響をも含めた検討結果を示しています。 図のように、トーチ保持角を大きくするとワイヤ突き出し長さが長くなり電流低下を招き、溶け込み深さの減少が顕著となっていることがわかります(溶接作業では。こうした作業中に起こる変化を考慮した条件設定が求められるのです)。

図10-3 溶け込み深さに与えるトーチ保持角の影響

図10-3 溶け込み深さに与えるトーチ保持角の影響

執筆: 溶接道場 安田 克彦

『溶接の基礎講座』の目次

第1章 溶接の基礎

第2章 溶接方法と溶接材料

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