電気のおはなし
2-1 電気回路測定の心得
電気回路の測定に入る前に測定する周囲の電場環境や磁場環境など周囲環境が電気回路や電子回路にどのような影響を与えているのかを調べておきたいと思います。 先般、外部から侵入してくる誘導雷によるサージの影響と対策について紹介しました。今回は、電気回路や電子回路に誤動作を発生させたり、 回路に使われている半導体素子や電子部品を破壊したりし、測定に影響を与える静電気について紹介していきましょう。
◎静電気の発生
絶縁物体ではプラスの電荷とマイナスの電荷のバランスがとれています。ところが絶縁体物質の表面を摩擦したり、密着している絶縁物質同志を剥離したりすると絶縁物体の表面で電子の移動が発生します、 その結果、プラスに帯電した物質とマイナスに帯電した物体にわかれます。この現象を摩擦帯電、剥離帯電とよんでいます。
絶縁物体を摩擦した時にプラスに帯電しやすい物体とマイナスに帯電しやすい物体にわかれます。また、帯電しやすさにも差が生じます。この現象を整理して多くの種類の物体ならべたのが帯電列とよんでいます。
静電気の発生にはこのほかにも多くのメカニズムがあります。また、条件によっては絶縁状態に置かれた導電物体にも静電気は帯電します。
図1 摩擦帯電が発生する仕組み
図2 帯電列の例
◎ 静電気による影響
空中に浮遊しているごみや物体の表面に動かずに帯電している電荷は静電気と呼ばれています。
電気回路や電子回路の基板表面に静電気が帯電すると空気中を浮遊しているプラス、マイナスの帯電極性が自分とは反対に帯電している微細なごみを吸着しやすくなります。 ごみが密着、堆積すると回路パターンを腐食させて断線や絶縁不良へ至らせてしまったり、部品の特性を劣化させて誤動作の原因になることもあります。
また、測定等のために先端がとがっている金属の測定プローブやクリップを電荷が集中して帯電している回路に近づけると静電気の電荷の移動が一瞬にして始まり、放電電流となって動電気にて変化することがあります。
◎静電気放電(ESD)
静電気が空中を移動して動電気になる時に発生するのが静電気放電(ESD)です。このESDにより強力な電磁波が発生し、電流も流れます。 このESDによる電磁波により、電子回路が誤動作したり、半導体素子が破壊されたり、特性が劣化することがあります。ESDは、放電が終了すると原因となった帯電は消滅しており、 単発的に発生のことが多く、再現実験も難しいので、誤動作の原因を特定するに至ない場合が多いのです。
絨毯が床に敷かれた乾燥した湿度の低い室内を歩いて金属製のドアノブに触った瞬間にビッと感じることがあります。 これは、人体が絨毯と摩擦し、100pF前後の容量をもつ人体に静電気の電荷が帯電して高い電位となり、電位の低いドアノブに触った瞬間に一気に電荷が移動して放電するからです。
図3 静電気放電の仕組み
◎静電気の帯電電位と極性の測定
静電気の帯電極性と帯電電位を針の動きで測定できる商品としてスタティックロケーターがあります。
図4 スタティックロケーター
◎静電気放電の対策
人体の除電
・セルフスタンドの例
ガソリンスタンドの数は減少傾向にある中でセルフのガソリンスタンドの比率は年々高まっています。セルフスタンドに立ち寄って給油される方は、まず静電気除電シートに手をタッチすることが求められています。 これは人体に帯電している電荷を大地へ流して除電をしてしまいESDによる火災事故を未然に防ぐためです。
図5 セルフスタンドでの静電気除去シート
静電気放電は、半導体の製造現場、集積回路や半導体部品を実装、組み立てする現場、部品を保管する現場、回路の測定検査等をする現場では大敵ですので各種の静電気発生防止対策と除電機器の設置がされています。
・作業現場の例 除電リストバンド
電子機器の組み立てや修理をする作業員は、手首に導電性のカールコードと接続できる導電性のリストバンドを巻き付けて除電しながら作業することがまとめられる場合があります。 これは、人体に帯電している電荷を大地に流すと共に人体の電位を大地と同じに保ち、静電気の帯電を防ぎます。
図6 リストバンドによる除電
図7 電気回路基板作業現場の除電([出典]白光株式会社HP)
・大気中の除電例
大気中のごみなどが帯電している極性と反対のイオンを大気中に送風ファンで吹き出し、電荷を中和して除電してしまうのが送風式除電器です。 送風式除電器は、ごみを室内に循環してしまいますのでごみの付着をきらう現場用には送風機のない照射式除電器などいろいろな除電器があり、イオナイザーともよばれています。 イオンを発生する電極にはごみが付着しやすく、除電効果を減らしてしまうので日頃の清掃も重要になります。
- 図8 送風式除電器
- 図9 イオン照射式除電器
われわれ現代人は、ラジオやテレビのような放送波、GPSやレーダーのような位置情報波、電波時計に使われている標準時波、スマートフォンやデータ通信に使われている通信波など、目的をもって送信されている多くの異なる種類の電波が飛び交う空間の中で生活しています。
また、自然界には雷や太陽の黒点による磁気嵐のように強力な電波を放出して、目的をもって送信されている電波や測定対象の電気回路や電子回路に影響を与えてしまうような自然現象がたびたび発生しています。
また、電気回路や電子回路からは意図しない不要輻射波とよばれる電波が外部へとびだして他の電気回路や電子回路の動作に影響を与えたり、回路素子を破壊していることがあります。
このような電波の種類と電気回路測定との関係について今回は解説していきます。
◎電波と電磁波
電磁波には波長が数千kmもあり、周波数が数十Hzの商用電源から波長がナノmと短く、周波数がペタHz、ヘクサHzのX線、ガンマ線、宇宙線といった領域まで多くの種類があります。 電磁波の中で赤外線より波長が長い電磁波を電波とよんでいます。日常生活になじみのある赤外線、可視光線、紫外線といった光線は、電波より波長の短い電磁波です。
図10 電磁波の種類
◎電波の波長と周波数
電波の波長と周波数と対応する名称と略称をつぎの表にしめします。
図11 電波の波長・周波数と対応する名称・略称
◎電磁波ノイズの伝搬ルート
電気回路や電子回路の中に電力系の接点回路や発振回路、電源回路などのノイズ源回路に共振周波数成分があると回路中の配線がアンテナとなって電波として外部へ不要輻射していきます。 被害回路となる電気回路や電子回路中のアンテナ成分が不要輻射の電波を受信してしまいます。また電磁波ノイズは、誘導結合や容量結合を通しても被害回路へと伝導していきます。
図12 電磁波ノイズの伝搬
◎伝搬ノイズ源の簡易測定器
つぎに20~200Hzの磁界強度と電界強度を切り替えてメータの針の振れで強度をチェックできる簡易電磁波チェッカーと30~300Hzの低周波磁界強度を測定する低周波磁界測定器、50MHzから3.5GHzの高周波電磁界を測定する高周波電磁界測定器の例を示します。 これらの測定器は、測定環境に強い電磁波が飛び交っていないかとか測定対象回路からどの程度の電磁波がでているかを測定に取り掛かる前にチェックしておくのが目的となります。ノイズ低減対策をしたときの簡易チェッカーとしても使えます。
製品として出荷する電気製品や電気設備からの不要輻射電波の強度を測定するときには校正された測定サイトや電波暗室で出荷先の国の規格に沿った測定器やアンテナを使って測定し、データを書類にして残しておくことが必要になります。
- 図13 簡易電磁波チェッカー
- 図14 低周波磁界測定器
- 図15 高周波電磁界測定器
『電気のおはなし』の目次
第1章 電気回路
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1-1回路とは漢字が示す通り、回って戻って来る路が回路です。回路を循環しているものが電気なら電気回路、電子なら電子回路になります。
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1-2回路の種類電気回路には大電流、大電力の発電系、送電系からの大工場、大型ショッピングモールなどの受電系、一般家庭の受電系、パソコン、スマホなどのプリント基板のパターンを流れる小電流回路、ICやLSI内部の微小電流まで扱う電流の大小により多くの種類があります。
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1-3交流回路とは交流波形をした電圧や電流が電源から負荷に流れているのが交流回路です。
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1-4直流回路とは直流電源を使用している回路や部品、機器、設備の内部には直流回路が形成されています。直流電源には直流発電機、電池、交流から直流に変換する電源アダプターなど多くの種類があります。
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1-5並列回路とは工場の電動機や照明等の負荷への配線、オフィスの複写機、パソコン等の負荷への配線、住宅内のエアコン、家電品等の負荷への配線など電力会社から受電した電気を負荷へ供給している配線回路のほとんどが並列回路を形成しています。
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1-6直列回路とはスマホ、ノートパソコンなどの携帯電子機器ケースの内部には充電できる二次電池のホルダーが収納されています。 中
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1-7分岐回路とは退避線のある駅に各駅停車の電車が近づくと本線から分岐された線路を通って目的のプラットホームへと向かい停車します。
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1-8遮断回路とは地震や火災、風水害が発生した時や保守点検、工事安全確保が必要な場合や目的に達した時に電路と切り離し動作を行う回路に遮断回路があります。
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1-9プリント配線板とは電子回路や電気回路の配線の一部を印刷して展開した板をプリント配線板とよんでいます。
第2章 電気の測定
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2-1電気回路測定の心得電気回路の測定に入る前に測定する周囲の電場環境や磁場環境など周囲環境が電気回路や電子回路にどのような影響を与えているのかを調べておきたいと思います。
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2-2電圧の測定電圧の測定器はメーターの針で測定値を示す指針型のアナログ計器とLEDや液晶の表示器に測定値を数字で示すデジタル計器とにわけられます。
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2-3電流の測定電圧の測定で紹介した回路計(マルチメータ)の電流測定機能と測定範囲は機種によって異なっています。
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2-4抵抗の測定抵抗測定というと、Ωレンジへ切り替えて測定するテスタ、マルチメータをイメージしてしまいがちです。
第3章 回路計
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3-1テスター(回路計)とはテスターは、機種により装備している機能が異なりますが電気回路、電子回路の電圧や電流、電子部品の抵抗、容量などが手軽に測定できる便利な測定器です。
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3-2アナログテスターの使い方アナログテスターの電圧や電流の測定では測定部位にテストリードのテストピンをあてがいます。テストピンで取り出された電圧や電流は、切り替えつまみ
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3-3デジタルテスターの使い方デジタルテスターでも電圧や電流の測定ではアナログテスターと同じく測定部位にテストリードのテストピンをあてがいます。テストピンで取り出された電圧や電流は、切り替えつまみで切り替えられたスイッチ回路を通してAD変換器を中心とするLSIと周辺回路へ送られます。
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3-4自動車用テスターとスキャンツール現在の自動車は電気回路や電子回路やマイコン、センサーにより電子制御されています。今後、自動運転化が進むにつれてこの電子制御化傾向はさらに加速していくものと思われます。
第4章 電気用品
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4-1電気回路と関係のある法律とマーク電気回路と関係がある国内と海外の安全に関する法律や安全マークに数回にわたって解説していきます。
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4-2JIS日本工業規格とは今回は、電気回路に関係している電気設備、電気用品、電気部品、電気材料や機械部品などの標準化を定めている日本工業規格(JIS:Japan Industrial Standards)(以下JIS)について調べていきましょう。
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4-3電波法と技適マークについて電波を公平かつ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進することを目的として定められたのが電波法です。多くの政令や省令に詳細が定められています。
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4-4人工知能(AI)とは準備中
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4-5CEマーク準備中
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4-6ULマーク準備中
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4-7CSAマーク準備中
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4-8FCCマーク準備中
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4-9VCCIマーク準備中
第5章 発電
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5-1発電の種類準備中
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5-2水力発電準備中
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5-3風力発電準備中
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5-4火力発電準備中
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5-5地熱発電準備中
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5-6バイオマス発電準備中
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5-7原子力発電準備中
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5-8内燃機関発電準備中