遠心ポンプの実践講座
1-5 ポンプの材料
ポンプは圧力容器の一つなので、圧力に耐える材料にする必要があります。また、ポンプは圧力容器であると同時に、回転機械でもあるので、動的な荷重やモーメントにも耐える必要があります。 ポンプの材料は、液に接する接液部と液に接しない非接液部とで選定が異なります。接液部は圧力に耐えるとともに、液の腐食や摩耗に対して問題のない材料を選定する必要があるからです。
ケーシングと羽根車は複雑な形状をしているので、材料としては鋳物が一般的ですが、汎用ポンプでは射出成形したプラスチックやステンレス板をプレスして溶接したものも使用されています。主軸は細長いので鋼材を機械加工したものを使用しています。
それでは、液に対してどのような材料を選定すればいいのでしょうか。材料の選定指針として、API 610に載っているものを参考として表1-5-1に示します。 同表には、液名と液温に対して材料クラスが記載されています。そして、材料クラス別に構成部品の材料がかなり詳細に規定されていますが、表1-5-2には、ケーシング、羽根車および主軸の材料だけを抽出して材料の一般名称で示します。
表1-5-1 材料の選定指針
液名 | 液温(℃) | 材料クラス |
---|---|---|
清水、復水、冷却塔循環水 | t<100 | I-1、I-2 |
沸騰水 | t<120 | I-1、I-2 |
120≦t≦175 | S-5 | |
175<t | S-6、C-6 | |
ボイラ給水-水平割り | 95<t | C-6 |
ボイラ給水-二重胴 | 95<t | S-6 |
ボイラ循環水 | 95<t | C-6 |
汚染水、炭化水素を含む水 | t<175 | S-3、S-6 |
175<t | C-6 | |
プロパン、ブタン、液化石油ガス、 アンモニア、エチレン、低温液 |
t<230 | S-1 |
-46<t | S-1(低温材) | |
-73<t | S-1(低温材) | |
-100<t | S-1(低温材) | |
-196<t | A-7、A-8 | |
ディーゼル油、ナフサ、灯油、潤滑油、 燃料油、原油、アスファルト |
t<230 | S-1 |
230≦t≦370 | S-6 | |
370<t | C-6 | |
腐食性のない炭化水素 | 230≦t≦370 | S-4 |
キシレン、トルエン、ベンゼン | t<230 | S-1 |
炭酸ナトリウム | t<175 | I-1 |
水酸化ナトリウム | t<100 | S-1 |
100<t | Ni-Cu合金 | |
海水 | t<95 | 協議による |
サワー水 | t<260 | D-1 |
電解水、地層水、塩水 | t<450 | D-1、D-2 |
スラー油 | t<370 | C-6 |
炭酸カリウム | t<175 | C-6 |
t<370 | A-8 | |
MEA、DEA、TEA-貯蔵液 | t<120 | S-1 |
DEA、TEA-吸収液 | t<120 | S-1、S-8 |
MEA-CO2吸収液 | 80≦t≦150 | S-9 |
MEA-CO2,H2S吸収液 | 80≦t≦150 | S-8 |
MEA、DEA、TEA-高濃度液 | t<80 | S-1、S-8 |
硫酸 濃度 85%以上 | t<38 | S-1 |
硫酸 濃度 85%未満 | t<230 | A-8 |
フッ化水素酸 濃度 96%以上 | t<38 | S-9 |
表1-5-2 主要部品の材料
材料クラス | ケーシング | 羽根車 | 主軸 |
---|---|---|---|
I-1 | ねずみ鋳鉄 | ねずみ鋳鉄 | 炭素鋼 |
I-2 | ねずみ鋳鉄 | 青銅鋳物 | 炭素鋼 |
S-1 | 炭素鋼鋳鋼 | ねずみ鋳鉄 | 炭素鋼 |
S-3 | 炭素鋼鋳鋼 | ニレジスト鋳鉄 | 炭素鋼 |
S-4 | 炭素鋼鋳鋼 | 炭素鋼鋳鋼 | 炭素鋼 |
S-5 | 炭素鋼鋳鋼 | 炭素鋼鋳鋼 | クロムモリブデン鋼 |
S-6 | 炭素鋼鋳鋼 | 13%クロム鋳鋼 | クロムモリブデン鋼 |
S-8 | 炭素鋼鋳鋼 | 316ステンレス鋳鋼 | 316ステンレス鋼 |
S-9 | 炭素鋼鋳鋼 | 銅ニッケル合金鋳物 | 銅ニッケル合金 |
C-6 | 13%クロム鋳鋼 | 13%クロム鋳鋼 | 13%クロム鋼 |
A-7 | オーステナイト系 ステンレス鋳鋼 |
オーステナイト系 ステンレス鋳鋼 |
オーステナイト系 ステンレス鋼 |
A-8 | 316ステンレス鋳鋼 | 316ステンレス鋳鋼 | 316ステンレス鋼 |
D-1 | 二相ステンレス鋳鋼 | 二相ステンレス鋳鋼 | 二相ステンレス鋼 |
D-2 | スーパー二相 ステンレス鋳鋼 |
スーパー二相 ステンレス鋳鋼 |
スーパー二相 ステンレス鋼 |
表1-5-1によると、水で高温でないときは、ねずみ鋳鉄などを適用できるのですが、数十年のように長期間使用するポンプでは、接液部の材料は表1-5-2に示す材料クラス「C-6」が最良です。 しかし、この材料は高価なので、ある程度寿命が短くなることを覚悟して、ねずみ鋳鉄、青銅鋳物、炭素鋼などを使用することもあります。
また、プラスチック製ポンプやプレス製ポンプも、水を扱う場合よく使用しています。プラスチック製ポンプは、水を含んで膨潤してもポンプ内部で異常な当たりが発生しないように、すき間を大きくしているために効率は低くなります。 プレス製ポンプは経年変化によってケーシングや羽根車が変形し分解がしにくくなります。
海水を扱うポンプの材料は、ねずみ鋳鉄、青銅鋳物、アルミニウム青銅鋳物、炭素鋼、18%Cr-8%Niステンレス鋼、二相ステンレス鋼、ハステロイ(商品名)、チタンなど多くの材料が使われています。 また、ねずみ鋳鉄など安価な材料にして、耐海水塗装をして使用する場合もあります。 このように、いろいろな材料を使用しているのは、海水の腐食性が国や地域によって異なることによるのですが、同じ地域であっても海水温度差や年とともに腐食性が変わってくるということにも起因するのです。
したがって、海水に対してはどの材料が適しているとは言い切れません。そのために、材料の選定は購入者の実績、つまり今までに使用した材料で問題のなかった材料を、購入者がポンプメーカに指定するのが一番よい方法になります。 購入者で実績がない場合、ポンプメーカが似たような地域で使用した実績の材料を推奨することになります。しかし、材料の価格は安いものから高いものまであるので、購入者とポンプメーカが協議して合意することは、そう簡単ではありません。
化学液の場合、海水とは違い比較的成分がはっきりしているので、購入者やポンプメーカの実績に基づいて材料が選定されます。また、使用実績がないときでも、市販されている耐食表などによって適正な材料を探し出すことができます。
これまで述べた材料は、ケーシング、羽根車、主軸など接液部の材料です。他に接液部の部品として、ケーシングカバー、軸スリーブ、メカニカルシールカバー、ライナリング、インペラリング、インペラナット、スロートブッシュなどがあります。 鋳造にするか棒材の加工にするかは別として、基本的には接液部の材料と同類の材料にします。
それでは、軸受ハウジングなど非接液部の材料はどうすればいいのでしょうか。これらの材料は液に対する腐食性を考慮する必要はないので、強度などが十分あれば、どのような材料でもいいのです。 一般的には、軸受ハウジングと軸受カバーはねずみ鋳鉄、軸受支柱や吊り金具は炭素鋼を使用します。ただし、大気中で腐食しないように塗装はしています。
『遠心ポンプの実践講座』の目次
第1章 ポンプの仕様
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1-1ポンプを発注するときに必要になる仕様ポンプを発注するに当たり、どのような仕様が必要になるのでしょうか。
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1-2ポンプ液の基本特性ここでは、ポンプ液の基本特性の主なものを取り上げて説明します。
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1-3スラリーが混入するポンプ液ここでいうスラリーとは、摩耗させる成分のことをいいます。スラリーが混入する液の場合、摩耗に対して強い構造のポンプを選定します。
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1-4高温のポンプ液ポンプの液が低温であれば、液が気化しないように注意します。
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1-5ポンプの材料ポンプは圧力容器の一つなので、圧力に耐える材料にする必要があります。
第2章 ポンプの構成部品と役割
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2-1ポンプを構成する部品遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及び軸封です。
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2-2ポンプのケーシングボリュート形状ケーシングには吸込口及び吐出し口があり、吸込口から液を取り込み、吐出し口から液を送り出す役割があります。
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2-3ポンプのケーシングによるラジアルスラストケーシングのボリュート形状によって、羽根車に作用するラジアルスラストが変わるのですが、それでは、どのようにしてラジアルスラストが分かるので
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2-4ポンプのケーシングガスケットポンプは言うまでもありませんが、圧力容器の1つです。
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2-5ポンプの羽根車形式羽根車は主軸に固定された回転体の1つで、主軸と一体で回転します。そして、その回転によってポンプの液にエネルギーを与えます。
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2-6ポンプの羽根車によるアキシャルスラストポンプの運転中には、羽根車に半径方向に作用するラジアルスラストの他に、軸方向にアキシャルスラストが作用します。
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2-7ポンプのライナリングとインペラリングライナリングはケーシングに取り付けられているリングで、インペラリングは羽根車に取り付けられているリングです。
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2-8ポンプに使うグランドパッキングランドパッキンは、グランドパッキンと主軸の冷却及び潤滑のために、図2-8-1に示すように、フラッシング液を漏らしながら使用されます。
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2-9ポンプに使うメカニカルシールメカニカルシールもグランドパッキンと同様に、摺動部の冷却及び潤滑のために、フラッシング液が必要になります。
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2-10ポンプの軸受ハウジングと付属部品軸受ハウジングは、羽根車などの回転体の静的荷重と振動による動的荷重、羽根車に作用するラジアルスラストとアキシャルスラストなどを間接的に支え
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2-11ポンプのラジアル軸受とアキシャル軸受軸受はポンプが発生する荷重を支えるために必要になり、主軸及び軸受ハウジングに取り付けられます。
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2-12ポンプの軸受潤滑方式軸受の潤滑方式には、表2-12-1に示すように、グリス密封、グリス、オイルバス、オイルミスト、強制給油があります。
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2-13ポンプのオリフィスポンプそのものに付く部品ではないのですが、流量を調整するためにオリフィスという部品があります。
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2-14ポンプに使うサイクロンセパレータ研磨後の廃液に溜まった研磨粉の回収、食品の製造過程における原材料の分級、微粒子の分級及び分離、排ガスから発生した汚染物質の除去などに使用さ
第3章 ポンプの据付けと試運転
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3-1ポンプによる基礎の荷重ポンプから基礎にどのぐらいの荷重がかかるのでしょうか。その前にまず、どのような荷重があるのか考えてみます。
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3-2ポンプに作用する配管荷重による基礎の荷重次は、「3-1 ポンプによる基礎の荷重、表3-1-1 ポンプの基礎荷重」にある配管荷重及び配管モーメントについて説明します。
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3-3ポンプの据付け超大形のポンプやモータでない限り、ポンプとモータは図3-3-1に示すように、共通ベースに取り付けられた状態で現地に到着します。
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3-4ポンプの始動ポンプの据付けが完了しても、ポンプは始動できるわけではありません。始動する前に、横軸ポンプはポンプ内及び吸込配管内にある空気をすべて抜く必要
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3-5ポンプの回転方向の確認ポンプ内及び吸込配管内の空気抜きが終わり、ポンプの運転に必要になる冷却水などのユーティリティの供給を開始すれば、ポンプは始動できる状態にあります
第4章 ポンプの運転
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4-1ポンプの減速運転省エネルギーのために、ポンプはインバータやベルトを使って減速運転されることがあります。
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4-2ポンプの増速運転ポンプの駆動機が三相交流モータの場合、モータのスリップがないときのモータの同期速度Ncyは、電源の周波数をf、モータの極数をPとすると、Ncy=120
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4-3密閉管路内のポンプ運転ポンプが密閉管路の装置内で運転されている場合、液の温度上昇はどうなるのでしょうか。
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4-4ポンプへの空気の侵入防止ポンプや配管の内圧が大気圧力より低い場合、ポンプや配管内に空気が外部から侵入することがあります。
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4-5空気を含んだポンプの運転ポンプや配管内に空気が外部から侵入しないとしても、パルプ液や復水などのように、液そのものに空気が混入している場合はどうしたらよいでしょう
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4-6ポンプ吸込側のレジューサポンプや配管内に空気が外部から侵入しない対策、及び液そのものに空気が混入している場合の対策は必要なのですが、これらに加え、吸込配管内の上部
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4-7ポンプ吸込渦と初生キャビテーションポンプと配管の設置スペースの関係で、ポンプの吸込口に曲管が付いていることがあります。ポンプの吸込口直前に曲管が付いていると、図4-7-1に示すよ
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4-8ポンプの並列運転ポンプを2台以上使って、並列に設置して同時に運転する場合を並列運転と呼びます。ここでは、同じ性能のポンプを2台使った並列運転について説明します
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4-9ポンプの直列運転ポンプを2台以上使って、並列に設置して同時に運転する場合を並列運転と呼びます。ここでは、同じ性能のポンプを2台使った並列運転について説明し
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4-10ポンプのウォーミングと冷却水少しの時間も送液を止められない重要なポンプでは、予備機を設けると安心です。2台のポンプを並列で設置して、どちらか一方のポンプを運転します。
第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー
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5-1ポンプの点検日常、ポンプの状態を点検することは重要なのですが、ポンプの台数が多いと大変です。
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5-2ポンプの修理、改造および取替え安価な汎用ポンプでない限り、ポンプは何度も修理して使用し続けます。
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5-3ポンプの省エネルギーの着眼点ポンプに限りませんが、省エネルギーと言うとインバータと言われるほどインバータが普及しています。
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5-4ポンプの省エネルギーの具体策「インペラカット」は、図5-4-1に示すように、羽根車の外周を旋盤で加工して、羽根車直径をD1からD2のように小さくすることを言います。
第6章 ポンプのトラブルと対策
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6-1ポンプトラブルの分類と原因分析ポンプでは予期しなくとも残念ながらトラブルが発生します。
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6-2ポンプトラブルの技術的原因ポンプを設計して製造するためには、設計技術、製造技術、購入技術、検査技術は必要ですが、顧客との窓口になる営業技術も大切です。
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6-3ポンプトラブルの人的原因技術的原因では、技術者が関与した技術を主体として原因を挙げています。
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6-4ポンプトラブルの経済的原因国内では昔、ポンプの売上げは経済成長率並みで、伸びは緩やかだが落ち込みはないと言われていました。
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6-5ポンプトラブルを減らすためのアプローチ家庭電化製品などでは、機器にトラブルが起こると、どのように対応したらよいか取扱説明書などに記載されています。
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6-6ポンプトラブルを減らすための日常の対応ポンプメーカの技術者は、日常煩雑な業務に当たっていると思います。そして、トラブルはある日突然に予告なく襲ってきます。