加工現場の手仕上げ作業の勘どころ

ものづくりの現場において機械を頼らず手作業で行なう、「手仕上げ加工」。本連載では、各工程に沿って、加工現場における手仕上げ加工のコツをお教えします。
第4章 磨き作業

4-3 固定砥粒による磨き作業

砥粒を固定した手作業の磨き工具には、スティック砥石や砥粒を布や紙、無機材料、樹脂フィルムなどの基材に接着剤で砥粒を保持した工具などがあります。

1.スティック砥石

1)スティック砥石の種類

スティック砥石は図4-12に示す棒状またはブロック状の砥石で、磨きや微小なバリ取りなどの作業に使用されます。砥粒には、アルミナ系ではWAかPAが、炭化けい素系ではCかGCが使用されています。超硬やセラミックスなどの硬い材料に対してはダイヤモンド砥粒のスティックがあります。砥粒を固めている結合材には、ビトリファイドボンドやレジノイドボンド、弾性特性をもつゴムボンド、ビトリファイドボンに樹脂を含浸させたボンドなどがあります。なお、ダイヤモンドスティックにはメタルボンドもあります

図4-12スティック砥石

図4-12 スティック砥石

2)スティック砥石の使い方

スティック砥石で大きな平面を磨くには不向きですが、小さい面に対し砥石面を図4-13のようにあてて前後、左右に動かしながら作業をします。丸棒の磨きは工作物を回転させる必要があるため、図4-14のように卓上ボール盤や旋盤などに取り付け、砥石面を押しあてながら軸方向に動かして作業をします。これらの磨きの場合には油性の加工油剤を使用すると擦り傷による傷が少なくなります。また、良い加工面を得るためには順次細かい粒度の砥石を使用しますが、砥石をかえるたびに、ウエスでよく拭き取ってから作業することが大切です。角の微小バリ取りは図4-15のように砥石面を部品の角に斜めにあてて前後に動かしながら作業をします。

図4-13スティック砥石による平面の磨き

図4-13 スティック砥石による平面の磨き

図4-14スティック砥石による丸棒の磨き

図4-14 スティック砥石による丸棒の磨き

図4-15スティック砥石によるバリの除去

図4-15 スティック砥石によるバリの除去

2.研磨布紙

1)研磨布紙の種類

研磨布紙は家庭用の磨き工具や自動車部品、精密機器部品など広い分野で利用されています。 研磨布紙は図4-16のように砥粒、接着剤、基材で構成されています。基材には紙や布が使用されます。基材の紙はクラフト法と呼ばれる手法で作られた強度のあるクラフト紙が多く使用されています。基材の布には平織りの布( 経糸 たていと 緯糸 よこいと を交互に編んだ布)や綾織りの布(糸の交差点が斜めになる織りで作られ布)などが用いられています。研磨布紙には研磨1面をそのまま使用する図4-17のようなシート状のものと、用途に応じて適当に切って使用する図4-18ロール状のものがあります。樹脂フィルムの基材の多くはポリエステルフィルムが用いられており、ダイヤモンド砥粒を接着したダイヤモンド研磨シートが超硬やセラミックス、ガラスなどの磨きに使用されています。一般のダイヤモンドシートはダイヤモンド砥粒が接着剤で保持されるため図4-19(a)のように一層ですが、図4-19(b)のように耐熱樹脂に埋め込まれ多層の砥粒で構成されたダイヤモンドシートもあります。

 図4-16研磨布紙の構成

図4-16 研磨布紙の構成

  • 図4-17シート状の研磨紙
  • 図4-17 シート状の研磨紙
  • 図4-18ロール状の研磨布紙
  • 図4-18 ロール状の研磨布紙

  • (a)一層構造のラッピングシート
  • (a)一層構造のラッピングシート
  • (b)多層構造のラッピングシート
  • (b)多層構造のラッピングシート

 

図4-19ダイヤモンドラッピングシート

2)研磨布紙による磨き作業

・平面磨き 研磨シートによる鋼の磨きは図4-20のように研磨シートを平坦な硬い板の上に置き、水を滴下しながら手で加圧して前後に動かします。工作物をつかむ位置を時々90°回転させ、砥粒の大きさを#120、#200、#400と順次変えて仕上げます。

図4-20研磨シートによる平面の磨き

図4-20 研磨シートによる平面の磨き

・円筒面の磨き 工作物を旋盤またはボール盤で加えて回転させ、研磨シートを図4-21のように円周方向に取り付けて両端を手で引きながら加重をかけて軸方向に移動しながら表面を磨きます。

図4-21円筒面の磨き

図4-21 円筒面の磨き

研磨シートの応用例として研磨布紙の裏側に両面テープを貼り、図4-22のように木片に取り付けて簡易なやすりとして使用することができます。この手工具は容易につくることが出来るため、粗い粒度のものから細かい粒度のものまで用意をしておくと作業を効率よく行うことが出来ます。なお、木片に粒度の表示をしておくとよいでしょう。

図4-22研磨シートの活用例

図4-22 研磨シートの活用例

執筆: APTES技術研究所 代表 愛恭輔

『加工現場の手仕上げ作業の勘どころ』の目次

第1章 切断作業

第2章 きさげ作業

第3章 やすり作業

第4章 磨き作業

第5章 けがき作業

第6章 穴あけ作業

第7章 リーマ作業

第8章 ねじ立て作業

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