加工現場の手仕上げ作業の勘どころ

ものづくりの現場において機械を頼らず手作業で行なう、「手仕上げ加工」。本連載では、各工程に沿って、加工現場における手仕上げ加工のコツをお教えします。
第4章 磨き作業

4-1 磨き用研磨剤

磨き作業には、工作物の表面を磨く、滑らかにする、光沢を出すなどの技術や定められた形状を高精度、高品質に作りあげる技術など目的によりいろいろな技術があります。 磨くためには、研磨剤(ラップ剤ともいわれる)を使用します。研磨剤は硬い粒子の砥粒で構成されています。 作業にあたっては砥粒を拘束しない遊離砥粒で行う方法と、砥粒を結合剤で固定した固定砥粒で行う方法があります。また、手仕上げで行なう磨き作業には、手作業のみで行なう方法と手磨き用研磨機を使用する方法、研磨盤を使用する方法などがあります。

4-1磨き用研磨剤

1.砥粒の種類

磨きを行う研磨剤の砥粒には、天然の砥粒と人造の砥粒とがあります。古くは天然砥粒が使用されていましたが、19世紀末に炭化ケイ素やアルミナ砥粒が開発され、現在ではダイヤモンド砥粒を含め多くの砥粒は人造砥粒です。表4-1に各種の砥粒を示します。

表4-1 磨きに使用される砥粒

天然砥粒 人造砥粒
エメリ、ガーネット(ザクロ石)、コランダム、けい砂、ダイヤモンド アルミナ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ダイヤモンド、酸化セリウム、酸化クロム

砥粒の性質として一部を除き硬いことと化学的に純度が高いことが求められています。 広く使用されているアルミナ砥粒はポーキサイトを原料とし炭化ケイ素砥粒はコークスと炭素を原料にして作られています。 いずれの砥粒も硬く、化学的にも安定しています。ダイヤモンド砥粒は砥粒の中で最も硬く超硬や脆性材料の研磨に使用されます。 これらの砥粒の選択は工作物の材種や加工能率、要求される仕上げ面の品質によって選定されます。

2. 砥粒の大きさ

砥粒の大きさは加工能率や仕上げ面粗さに大きく影響します。大きさを数値で示したものを粒度と呼びます。 粒度は1インチ当たりのふるい目の数で分級(一定の粒度を得るための操作)され粒度46番とか#46で記されます。 たとえば粒度46番の砥粒は1インチ当たり46目のふるいを通過した大きさで、細かい54目のふるいに残った砥粒ですが、実際には46番前後にある砥石が含まれています。 ふるいで行なわれるのは325番までで、この粒度までをメッシュサイズの砥粒と呼ばれます。 これより細かい砥粒はふるい分けが難しいため、一定流速の空気や水の流れを活用する方法や水槽の中の沈降速度を活用するなど製造メーカにより分級は異なります。 なお、400番より細かい砥粒はミクロンサイズと呼ばれます。粒度の表示法についてはJISによって定められています。

粒度の大まかな粒径を知りたい場合には、経験式の(1)式で求めることができます。

15000/粒度≒粒径(µm) (1)

例えば、#1000番は、15000/1000≒15µです。

3. ラップ液(工作液)

ラップ液を選ぶためには、砥粒となじみやすく変質しにくい、ラップ工具面に分散性がよい、潤滑性がよい、錆が発生しない、臭いなど無く人体に無害などの特性を持つことが必要とされます。 ラップ液は鉱物油や植物油が一般的に使用されますが、加工能率や良好な加工面を得るために2種類以上のラップ液を混ぜたりすることもあります。 なお、化学的に図4-1のような調整されたラップ液や図4-2に示すダイヤモンドペーストなどが市販されています。

図4-1調整されたラップ液

図4-1調整されたラップ液

図4-2ダイヤモンドペースト

図4-2ダイヤモンドペースト

執筆: APTES技術研究所 代表 愛恭輔

『加工現場の手仕上げ作業の勘どころ』の目次

第1章 切断作業

第2章 きさげ作業

第3章 やすり作業

第4章 磨き作業

第5章 けがき作業

第6章 穴あけ作業

第7章 リーマ作業

第8章 ねじ立て作業

目次をもっと見る