加工現場の手仕上げ作業の勘どころ

ものづくりの現場において機械を頼らず手作業で行なう、「手仕上げ加工」。本連載では、各工程に沿って、加工現場における手仕上げ加工のコツをお教えします。
第3章 やすり作業

3-3 やすりかけ作業

1. 平面の加工のやすりのかけ方

平面のやすりのかけ方には、やすりを長手方向に進ませる方法、やすりを右方向に斜めに進ませる方法、工作物に対しやすりを横に動かす方法などがあります。

1) やすりを長手方向に進ませる方法(直進法)

図3-15のように、やすりの運動方向をやすりの長手方向にまっすぐに進ませる方法で、加工面を滑らかに仕上ることができます。しかし、加工面が大きい場合には、平面が中高になりやすくなります。

図3-15:やすりを長手方向に進ませる方法

図3-15:やすりを長手方向に進ませる方法

2) やすりを斜めに進ませる方法(斜進法)

図3-16のように、やすりの運動方向を前に進めながら右横方向にずらして行なう方法で、比較的広い平面の荒仕上げに適しています。左方向にずらして行なうと加工面に深いスジがつきやすくなります。

図3-16:やすりを斜めに進ませる方法

図3-16:やすりを斜めに進ませる方法

2. 取りしろの多い平面

取りしろの多い場合にはやすりかけの面積を小さくすると効率がよいため、両方の角を図3-18のように削り取りながら平面に加工します。 また、荒取り仕上げは、角やすりを用いて図3-19に示すような対角線の二方向にあやめかけをして行うと能率よく作業ができますし、平面の状態も確認しやすくなります。 仕上げは細目か油目のやすりを用いて行います。

図3-18:取りしろの多い場合の方法

図3-18:取りしろの多い場合の方法

図3-19:あやめかけの方法

図3-19:あやめかけの方法

3. 外側の曲面加工

やすり作業で寸法や形状精度の高い曲面を作るのは容易ではありませんが、角に滑らかな曲面を作る場合には、図3-20のように角を45°に取り、 順次角々を取除いた後、柄の方を下にしてやすりを前へ進めながらほ先を下に向かって動かしながら曲面を作っていきます。

図3-20:外側の曲面の作業

図3-20:外側の曲面の作業

4. 内側の曲面加工

半円近くの曲面のやすりかけは機械加工で下加工が行われることが多く、その後にやすりかけが行われます。 大きな曲面は、半丸やすりを使用し、図3-21に示すように、やすりを左回しで押しながら、ほ先から柄の近いところまでやすり全体を使って斜めに動かして加工します。 曲面が小さい場合には丸やすりを使用し、左に回しながら作業します。

図3-21:内側の曲面の作業

図3-21:内側の曲面の作業

5. やすり作業の注意点
  1. やすりをかけた時に加工面が動いたり、振動しないように工作物を万力にくわえた時に口金の上方に工作物が出る部分を短くなるように締めます。 また、工作物はやすりかけをする部分を口金の範囲内に入れて締め付けます。
  2. やすりは、ほ先からこみまで全体を使わずに同じところで作業をすると1箇所だけ摩耗し作業に支障をきたすので避けるべきです。
  3. 凸部を確認するために光明丹を塗った面をそのまま加工するとやすりのかかりが悪くなります。そのため、やすりの目から光明丹を拭きとり作業をします。
  4. やすりかけをすると、加工した切りくずがやすりの目に詰まって切れ味が悪くなります。この時は、目の方向に沿ってワイヤーブラシで詰まった切りくずを取り除く必要があります。目づまりを防止するために、あらかじめやすりに木炭やチョークを塗る方法もあります。
  5. 作業が終了した時は、ウエスでよく拭き湿気のあるところを避けて保管します。保管に当たっては、やすりとやすりを重ねて置くことは刃を傷めるのでやめるべきです。
執筆: APTES技術研究所 代表 愛恭輔

『加工現場の手仕上げ作業の勘どころ』の目次

第1章 切断作業

第2章 きさげ作業

第3章 やすり作業

第4章 磨き作業

第5章 けがき作業

第6章 穴あけ作業

第7章 リーマ作業

第8章 ねじ立て作業

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