加工現場の手仕上げ作業の勘どころ

ものづくりの現場において機械を頼らず手作業で行なう、「手仕上げ加工」。本連載では、各工程に沿って、加工現場における手仕上げ加工のコツをお教えします。
第4章 磨き作業

4-2 遊離砥粒による磨き作業

遊離砥粒による磨き作業は、工具(ラップともいいます)と工作物の間に研磨剤を入れて擦り併せ、工作物表面の凸部を微量に取り除きながら順次細かい研磨剤に変えて寸法精度が高く、滑らかな表面を得る技術です。 この磨き作業をラッピングやポリシングもといいます。ラッピングの方法には、砥粒に工作液を加えて加工する湿式ラッピングと工作液をほとんど加えないで加工する乾式ラッピングがあります。

1.ラッピングの方法

1)湿式ラッピング

湿式ラッピングは砥粒とラップ液を混ぜた研磨剤を使用する方法です。湿式研磨は図4-3のようにラップ定盤と工作物の間で転動する砥粒と定盤の中に一部埋め込まれた砥粒とで工作物を削り取ります。 砥粒が転動することで破砕が生じにくく加工面は無光沢な鈍い反射面となります。また、切りくずが溜まることがないため、加工速度も速く荒仕上げに適しています。

図4-3 湿式ラッピング

図4-3 湿式ラッピング

2)乾式ラッピング

はじめに研磨剤を用いて定盤の中に砥粒を埋め込み、その後、研磨剤を拭き取ることで図4-4のように埋め込まれた砥粒が存在し、この引っかき作用で加工が行われます。 この砥粒は加工とともに微細に破砕し、この破砕した砥粒が埋め込まれたり、一部の砥粒が転がりながら加工に作用します。乾式ラッピングの研磨量は少ないのですが、加工面は光沢ある仕上げ面が得られます。

 図 4-4 乾式ラッピング

図 4-4 乾式ラッピング

2.ラッピング工具(ラップ)

ラッピング工具には素材が均一で砥粒を保持することや摩耗しにくいことなどが求められます。形状によって、ラップ定盤やラッププレート、ラップ棒などがあります。素材は金属や石、木、布、綿など用途に応じていろいろ使用されています

1)ラップ定盤

素材は鋳物が広く用いられています。鋳物は、砥粒が食い込んで保持しやすいことと耐摩耗性に優れているためです。ラップ定盤は、乾式ラッピングの場合には溝が付けられていませんが、湿式ラッピングの場合には図4-5に示すような溝が付けられています。 溝の幅および深さは1~2mm程度です。溝には研磨剤が溜まるため、研磨剤が消耗せずに長い時間加工が可能となります。なお、卓上ラッピング装置に取り付けてラップ定盤と同じ役割をする図4-6のようなラッププレートがあります。

 図4-5 ラップ定盤の溝

図4-5 ラップ定盤の溝

  • (a)金属製ラッププレート
  • (a)金属製ラッププレート
  • (b)樹脂製ラッププレート
  • (b)樹脂製ラッププレート

図4-6 ラッププレート

2)ハンドラッピング工具

手でラップを動かして工作物表面をラッピングする工具には木の板やラップ棒があります。この工具は研磨剤を工作面上に塗布して使用するか、綿や布を適当な大きさに切って貼り付け、研磨剤を塗布して工具を動かして使用します。

3. 手作業による磨き

1)平面の磨き

ラップ定盤の上にラップ剤を供給して手で工作物に加重をかけながら前後に移動させて研磨を行ないます。順次研磨剤を細かくして仕上げますが、前の研磨剤で行なった加工痕に直角に向きを変えて擦ります。 平面の磨きには図4-7のようにラップ定盤を固定して行なう方法と図4-8のようにラッププレートを回転させて行なう方法とがあります。

図 4-7 ラップ定盤による平面の磨き

図 4-7 ラップ定盤による平面の磨き

図 4-8 ラッププレートによる平面の磨き

図4-8 ラッププレートによる平面の磨き

2)円筒の磨き

工作物を旋盤またはボール盤で保持して回転させ、図4-9に示すように、ラップ工具を押し付けながら軸方向に往復運動を与えて磨きます。 また、図4-10のようにすり割りを入れた円形のラップ工具に工作物を通し、ラップ工具の外周を保持した治具を締め付けて加重を与え、軸方向に往復運動を与えながら加工します。湿式ラッピングでは研磨剤が飛散しない程度の工作物の速度とします。

図4-9 円筒の磨き

図4-9 円筒の磨き

図4-10円筒の磨き

図4-10円筒の磨き

3)内面の磨き

旋盤またはボール盤に工作物の内径に近いラップ工具を取り付け、図4-11のように工作物を軸方向に往復の送りを与えて加工を行ないます。加圧方法にはテーパをした治具をラップ工具の内面に入れ込む方法やすり割りを入れてくさびで広げる方法などがあります。

図4-11内面の磨き図4-11内面の磨き
4. 磨き作業の留意点
  1. 研磨剤の異物の混入や前加工時の残留砥粒、砥粒とラップ液の不適などにより傷が発生します。そのため、研磨剤の管理や作業手順には十分注意する必要があります。また、作業場に粉塵などが浮遊していると傷の発生の原因にもなるので作業環境の整備や作業前の整備が大切です。
  2. 圧力のかけ過ぎや同一場所で何度も研磨を行うと定盤の損耗が多くなり作業能率が低下します。また、ラップ工具と工作物の接触面の摩擦熱により焼けが発生することがありますので定盤全体を使用して作業をします。
  3. だれの発生を完全に抑制することは容易ではありませんが工作物にわずかな面取りを行うとか、あて金を使用して抑制する方法もあります。
  4. 薄い工作物のラップ作業では工作物が変形することが多いので、研磨速度や圧力を考慮することが大切です。
  5. ラッピングによる除去量が多いと工作物の形状精度や寸法精度が得るために能率が悪いことから取り代を少なくする前加工を見当することが必要です。
執筆: APTES技術研究所 代表 愛恭輔

『加工現場の手仕上げ作業の勘どころ』の目次

第1章 切断作業

第2章 きさげ作業

第3章 やすり作業

第4章 磨き作業

第5章 けがき作業

第6章 穴あけ作業

第7章 リーマ作業

第8章 ねじ立て作業

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