切削工具の基礎講座

ものづくりに欠かせない「切削工具」。切削工具にはどのような種類があるのか?購入する時に気を付けることは?使い方は? 本連載では、切削工具の正しい知識について、ご紹介していきます。
第1章 切削工具とは?

1-8 CBN

CBNはCubic Boron Nitride(キュービック・ボロン・ナイトライド)の頭文字を表しており、結晶構造が立方晶で、ホウ素(Boron)と窒素(Nitride)が共有結合した固体です。CBNは天然では存在せず、人工的につくられたものです。つくり方は人工ダイヤモンドと同じで、約5Gpa(5kN/mm2)、1400℃程度の高温高圧下で合成されます。CBNは1957年、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)社により開発され、ボラゾンの商品名で販売されました。このことから、加工現場ではボラゾンと呼ばれることもあります。

CBNは、ダイヤモンドの次に硬い物質で、ダイヤモンドに比べ耐熱性に優れ(約1000℃まで安定)、かつ鉄との親和性が低い(反応し難い)性質を持つため、主として、鉄鋼、鋳鉄、焼入鋼、高硬度材などの切削に使用されます。

通常、60HRCを超える焼入れ鋼は研削加工を行わなければいけませんが、CBNチップを使用することにより切削することが可能ですので、研削加工を切削加工に置換することができます。この一方、45HRC以下の比較的軟らかい鉄鋼材料を削る際にCBNチップを用いている例もありますが、CBNの価格は超硬合金やサーメットに比べて約10~20倍高価です。仮に、CBNの工具寿命が超硬合金やサーメットに比べて10~20倍伸びれば、費用対効果として実用の価値はありますが、45HRC以下の比較的軟らかい鉄鋼材料に対するCBNの工具寿命は超硬合金やサーメットと大差はないため、45HRC以下の比較的軟らかい鉄鋼材料にCBNを使用する利点はありません。また、CBNチップは欠けを防止するため切れ刃にホーニングが付けられていることから、45HRC以下の比較的軟らかい鉄鋼材料ではむしれが発生しやすくなります。

研削砥石の砥粒はCBNの粉末(粒子)がそのまま使用されますが、旋盤、フライス盤、マシニングセンタなどで使用される切削工具ではCBNの粉末を結合剤で固めた焼結体が使用されます。構造は「雷おこし」と同じです。このため、焼結体を表す polycrystalline(ポリクリスタリン)を頭につけてPCBN(polycrystalline cubic Boron Nitride)と表記される場合があります。

CBN焼結体をろう付けしたスローアウェイチップ

CBN焼結体をろう付けしたスローアウェイチップ



「CBN」と「ダイヤモンド」の特性の違い

条件 材質
CBN ダイヤモンド
熱的安定性 大気中 1300℃まで安定 800℃より炭化
真空または不活性雰囲気 1500℃まで安定 1400℃まで安定
金属との反応性 Fe、Ni、Coとは1350℃まで反応しない Fe、Ni、Coと共存する600℃で黒鉛化開始


各種切削工具材料の曲げ強さと硬さの関係

各種切削工具材料の曲げ強さと硬さの関係
執筆: 芝浦工業大学 デザイン工学部 デザイン工学科 澤 武一 准教授

『切削工具の基礎講座』の目次

第1章 切削工具とは?

第2章 穴あけ加工と穴仕上げ加工

第3章 旋盤用の切削工具

第4章 フライス加工用の切削工具

第5章 研削砥石

第6章 特徴的な切削工具

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