工具の通販モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 塗料をより深く理解するために 5-2樹脂の成り立ち(1)

塗料・塗装の何でも質問講座

建築物や自動車など、私たちの周りにある多くのものは「塗装」されています。本連載では、主に塗装・塗料の欠陥と対策についてご紹介していきます。
第5章 塗料をより深く理解するために

5-2 樹脂の成り立ち(1)

公開日:2023年7月25日 | 最終更新日:2024年4月17日

2.樹脂の成り立ちについて

  塗料用樹脂の特徴は、主鎖を形成する分子鎖の化学結合に依存する。例えば、図5-6に示すように、フタル酸樹脂(長油性アルキド樹脂)は主鎖がエステル結合からなるため、アルカリ性水溶液に浸漬すると、加水分解され、塗膜が溶解する。一方、エポキシ樹脂の主鎖はエーテル結合とベンゼン環からなるため塗膜が溶出せず、耐薬品性は良好である。

  以上の様に書かれていても、どうして?と言う疑問が特別に沸くわけではないが、ちょっとした好奇心で樹脂の成り立ちを理解すると、これまでに見えなかったものが、ああそうなのかとガッテンできることがある。そのような下心から話を進める。

図5-6 塗膜の耐アルカリ性
図5-6 塗膜の耐アルカリ性

  原子が共有結合して分子ができるが、我々が日常知り得る分子は図5-7に示す周期表の第2周期の原子番号6-9の青く塗った原子からできている。周期表の2s,2p軌道は図5-8に示され、s軌道は球状の1部屋で、p軌道はみたらし団子状の3部屋から成る。各原子の外郭電子が分子形成に関係するから、原子軌道に電子がどのように存在しているかを理解したい。原子軌道は図5-9に示すように、原子核に最も近い電子の部屋1sがまずあり、次に第2周期の2s,2p軌道へと続く。軌道をorbitalと呼ぶ。これは太陽のまわりを回る惑星の軌道から来ている。原子核に近い軌道ほど陽子の有する静電気引力が強く作用するから自由に動ける範囲は小さくなる。エネルギーレベルとは電子が自由に動ける範囲を意味し、軌道が大きくなるほどエネルギーレベルは大きくなる。部屋割りの規則として、次に示すフントの法則がある。

  • (1)電子は安い(自由度の小さい)部屋から順に入る
  • (2)1部屋の定員は電子2ヶである
図5-7 樹脂を構成する主な元素の電子配置
図5-7 樹脂を構成する主な元素の電子配置

  原子番号の数だけいる電子は図5-7に示すように整然と入場し、原子番号10のNeで第2周期の4部屋は満杯になる。次は、第3周期に入り、3s、3pと続くが、3d軌道には行かないで、図5-9に示すように、4s軌道を満たしてから3d軌(5部屋)に入って行く。電子の入り方には一種のロマンがある。次に示す「・・・」は、“暗記しないで化学入門”4)の引用箇所である。

図5-8 原子軌道-電子部屋の形態
図5-8 原子軌道-電子部屋の形態
図5-9 電子部屋の規則
図5-9 電子部屋の規則

  「電子は2つが対になっていると機嫌良くしている。ところが、1つだけ孤立していると、この電子は躍起になってペアを組む相手を探す。電子は冒険好きで、寂しがり屋なのである。」

  この様子は図5-7に示す第2周期のp軌道の電子の挙動に現れている。電子は空いている部屋にどんどん1つずつ入って行き、なるべく広い範囲に分布する。ここでは示していないが、3d軌道の電子の入り方にもロマンを感じる。次に、原子が結合して分子になる過程において、電子がどのように活躍するかを説明する。

2.1 混成軌道について

  これまで述べてきたように、図5-7に示すように、原子軌道はエネルギーレベルで軌道が整備されており、有機化合物の典型原子であるC原子がメタン、エタン、プロパンになる過程を見てもらいたい。原子軌道のままではエネルギー差があり分子になれないから、エネルギー差をなくす所からスタートする。その様子を図5-10、5-11に示す。

図5-10 sp3混成軌道(Hybrid orbital)を作る電子の動き
図5-10 sp3混成軌道(Hybrid orbital)を作る電子の動き
図5-11 2s, 2p軌道からできる混成軌道(Hybrid orbital)の構造と名称
図5-11 2s, 2p軌道からできる混成軌道(Hybrid orbital)の構造と名称

●Step1

  図5-10に示すように、s軌道の電子を励起し、p軌道に飛ばす。同時にエネルギーレベルの等しい4つの混成軌道が形成される。Cから結合する手が4本出ていると言われるのは、sp3混成軌道を意味する。混成軌道の1ユニットの形態は、図5-11に示すようにs、p軌道が合体した形態で、混成軌道同士がσ結合したり、水素原子とσ結合する時にはユニットの+位相を使い、-位相は尾っぽの役目で混成軌道の連結点になる。分子になるためには-C-C、-C-O、-C-N、-CHのように原子同士がσ結合(分子の骨格となる共有結合)をして行かねばならない。メタン分子CH4の形成で説明すると、Cは4ヶのHとσ結合をするからCには4つの混成軌道ユニットが必要である。s軌道から原子部屋を1つと、 p軌道から3つの部屋を提供するとsp3混成軌道と呼ばれる4つの混成軌道ユニットが準備できる。(図5-10、5-11)次に、これら4つの混成軌道ユニットをどのように連結させるかを考える。軌道が重ならず、混成軌道間の電子の反発を最小限にするためには、正4面体の構造が良い。それゆえメタン分子の形態は図5-12に示すように正4面体になる。

図5-12 sp3の基本形態を表すメタン分子
図5-12 sp3の基本形態を表すメタン分子

●Step2

  メタン、エタン、プロパンは炭素数がそれぞれ1,2,3のアルカンである。これらを混成軌道で表すと、エタンは図5-13(a)に示すように、メタンが2分子、C-C間でσ結合し、さらにプロパンはエタンにメタンがσ結合した分子形態を示す。エタンでは図5-13(a)のように直線的に結合するが、プロパンではメタンの結合角の影響で分子鎖は108°傾斜する。さらに、炭素数が増すと分子鎖は図5-13(b)に示すように、108°傾斜して結合してゆく。

図5-13 炭素数が増えた化合物のsp3混成軌道の表示と分子形態
図5-13 炭素数が増えた化合物のsp3混成軌道の表示と分子形態
執筆: 元川上塗料株式会社 社外取締役 坪田 実

〔参考文献〕
1)J. Glazer :J. Polymer Sci., 13, 355 (1954)
2)中道敏彦、坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.117 (2008)
3)中道敏彦:“塗料の流動と塗膜形成”, 技報堂出版, p.241, p.267 (1995)
4)平山令明:“暗記しないで化学入門”, 講談社, p.29 (2004)

『塗料・塗装の何でも質問講座』の目次

第1章 塗料・塗膜の白化現象

第2章 塗料と塗装のことはじめ

第3章 いろいろな塗り方

第4章 塗料のルーツと変遷

第5章 塗料をより深く理解するために

第6章 こんな疑問あれこれ-塗装作業に役立つ知識

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