測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
3-2 ダイヤルゲージを上手に使うために
ズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
特に、工作機械を使った金属加工の時に、ダイヤルゲージの出番がよくあります。以下に、代表的な事例を紹介します。
旋盤のチャックに丸棒を固定した時、正しく回転中心に丸棒が取り付けられているかどうかを見たい場合がよくあります。 旋盤のスクロールチャックはつかみかえた時の精度を±0.2mm程度しか保証していないので、軸関係の加工ではもう一声高い精度が必要になります。 このような時、10μmの精度を誇るマイクロメータでいくら外径を測定しても、芯振れ量を測ったことにはなりません。
こんな時、ダイヤルゲージなら一目でわかります。図1を見てください。このように、丸棒が正しく旋盤の主軸の中心に取り付けられているかを見るためには、ダイヤルゲージが欠かせません。

図1 丸棒が正しく取り付けられているかを確認
フライス盤のテーブルにマシンバイスを取り付けるときや大きな加工物を載せるときなど、バイスの口金や加工物がフライス盤のX軸と平行になっていなければ正しい加工ができません。
このとき、図2のようにダイヤルゲージを使って平行を見ます。ダイヤルゲージを主軸側に取り付けて、テーブルのX軸(あるいはY軸)を動かし、確認したい面に測定子を当てて傾きを見るのです。

図2 ダイヤルゲージで平行を確認
最初に解説した通り、ダイヤルゲージは内部の構造が非常に繊細にできておりますが、実際は意外と頑丈にできています。それでも、落としたりすると壊れることがありますので要注意です。
ダイヤルゲージ単体では1m程度の高さから落としても壊れることは少ないのですが、重たいマグネットスタンドと一緒に使うので、 当然マグネットスタンドと一緒に落ちることになり、ダイヤルゲージが犠牲になります。 動きの悪くなったダイヤルゲージでは肝心なときに役に立たないので、一種の消耗品を考えて、動きがぎこちなくなったら買い替えることをお勧めします。
ダイヤルゲージ用マグネットスタンドは、ダイヤルゲージを使いやすくするための微調整機構が付属しています。 テコ式ダイヤルゲージは測定範囲が狭いので微動機構は必需品です。 ダイヤルゲージをどのように付けたら微動機構を有効に使えるかを考えてダイヤルゲージを固定するところがミソです。
スピンドル式ダイヤルゲージはスピンドル部分を用いる方法と、裏蓋のピンを用いる方法がありますが、写真3のようにどのような変化を読み取るかで、固定方法も変える必要があります。
- スピンドル部分を用いる方法
- 裏蓋のピン(耳金)を用いる方法
写真3 ダイヤルゲージの固定方法
テコ式ダイヤルゲージはアリ溝を用いるのが一般的です。最近は3か所に取付用のアリ溝が切ってあるので、測りたい対象をよく見て、写真4のように最も良い位置にダイヤルゲージが取り付けられるようにします。

写真4:アリ溝
マグネットスタンドの腕は、関節式と、油圧のジャーマン式があり、それぞれ一長一短があります。
腕の長さは短い方が剛性も高く扱いやすいのですが、長い腕が必要なこともあって、長短複数取りそろえておくと便利です。
しかし、ここで注意してほしいのは、「大は小を兼ねない」ということです。 一見すると、長い物で全て測定条件は満たされるように思いますが、分解能の高いダイヤルゲージでは長い腕が災いして、 ちょっと触れてもダイヤルゲージの目盛りが動いてしまい、何を測っているのかわからなくなります。
ではどうするか。
丁度よい長さの腕をもつマグネットスタンドを使うことが重要です。特に分解能の高いテコ式ダイヤルゲージでは、余分な長い腕は百害あって一利なしです。
このようなことから、至近距離にダイヤルゲージを設置できるなら、小型の油圧式マグネットスタンドが最も有効です。
マグネットスタンドの他にも便利な小道具があります。図5はダイヤルゲージを用いた製品検査です。基準の長さはブロックゲージで作ります。 このゲージを基準高さとして、加工した部品と設定寸法の差を見ます。ダイヤルゲージの良いところは、一目で部品の寸法を判定できることです。大量の部品検査には実需品なのです。
定盤の上で比較測定を行う場合は、ハイトゲージのスクレーバーを外して、ダイヤルゲージを取り付けるだけで、非常に高精度な比較測定が可能となりますので覚えておくと良いでしょう。

図5 ダイヤルゲージを用いた製品検査
写真6のように、ブロックゲージなどの基準器を寸法基準とすると、大量の部品を短時間に手際よく検査することができます。 このような目的に特化したものとして、定盤とマグネットスタンドの腕を組み合わせたような「ダイヤルゲージスタンド」もあります。

写真6 ブロックゲージを寸法基準とする
ダイヤルゲージで測る面が必ずしもきれいな面ばかりだとは限りません。荒削りの面であったり、ローレットのようなギザギザ面の場合はどうしたらよいでしょうか?
このような時に、面に対応できる測定子があると便利ですね。それが測定子セットです。
写真7を見てください。スピンドル型ダイヤルゲージの先端は測定物や測定方法によって様々な先端形状や材質の物が用意されています。 先端はM2.5のネジになっており、簡単に交換できるので、測定の目的に合った測定子を選んで使います。

写真7 いろいろなダイヤルゲージ
ザラザラした面を測りたい時は、大きな半径の球面をもった測定子、細かい溝が規則的にあるような面の場合は平らな測定子が良いでしょう。 溝の奥の狭い面を見たい場合は先端が細長い測定子が必要となります。このように、測定したい面の状態に合わせて測定子を 交換できるのがスピンドル式ダイヤルゲージの特徴です。
スピンドル式ダイヤルゲージはマイクロメータヘッドと同じように、測定工具の表示部分として活用できることから、 ダイヤルゲージを使った便利な測定工具が色々考えだされました。その代表がシリンダーゲージ、写真8です。

写真8 シリンダーゲージ
穴の奥深い部分を精密に測定する工具はこのシリンダーゲージしかありません。 シリンダーゲージは先端の測定子の動きをダイヤルゲージに伝える機構を経由することから、 どうしても誤差が増えてしまいますが、それでも20μm程度の分解能を持っており、100mm以上の深い穴の内径を測定できる優れものです。
シリンダーゲージは内側マイクロメータとは異なり、穴の奥深くまで入れることができることや、 測定子が3点支持になっていて誤差が出にくい構造になっているため、いまでも深穴加工には欠かせない測定工具です。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。