測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
8-3 トルク測定器の種類
それでは、どのようにしてトルクを管理するか。これこそがトルクレンチの役割です。
トルクレンチには様々な種類があります。直接トルクを測るものと、トルクを設定しそれ以上かからないようにリミッター機能が付いたものに大別できます。
(1)直接トルクを測るもの
直接トルクを測るものは、写真1のようなアナログ式と写真2のようなデジタル式があります。使い方は簡単ですね。トルクの目盛り板を見ながらネジを締め付けるだけです。これらは勢いよく締めると設定値を超えることがあるので表示を見ながら慎重に作業をすすめます。
写真1
写真2
直接トルクを測る方法は素材の弾性を使っていますので、自作も簡単です。写真3をご覧ください。板バネを利用して、取っ手の部分に針を付け、目盛坂に目印を付けただけのものですが、これで誰がネジを締めても同じトルクで締め付けができるのですから大変便利です。
写真3
(2)クリック式トルクレンチ
クリック式のトルクレンチ(写真4)は使い方が少々異なります。設定されたトルクに達すると首の部分からカチャという音が出ますので、そこで締め付けを止めます。この音を聞き逃すと締めすぎてしまうので要注意です。写真4の右端の部分を手で掴んで締め付けます。持つ位置によってクリックのトルクが違ってしまうと報告もあるので正しい位置、握りやすくローレット仕上げになっている部分を握りましょう。
写真4
(3)ラチェット式トルクドライバー
写真5
写真6
写真7のトルクドライバーはトルク表示がin・Ibsとなっています。換算表を見てSI単位系に読み替えます。
写真7
最後 に一つ注意事項があります。たとえトルクドライバーを使ったとしても、締め付けトルクがばらつくことがあります。ネジの回転軸とドライバーの回転軸が一致するように注意しながら締め付け作業を行うことや、ラチェットが機能するときの速さを一定にするなど、丁寧にネジ締めを行います。
ロードセルは写真8に示すように円筒形の小さな金属片で、両端面の圧縮応力を測定するものです。原理は簡単です。円柱に力が加わると応力に応じて弾性変形するのでその量を測って圧縮応力に換算しているだけですから、後で述べる歪ゲージを使って自分で作ることもできます。ロードセルの良いところは、内部に組み込まれた歪ゲージが厳密に圧縮応力を反映できる位置にあり、精密に応力を測定できることです。
写真8
写真9は歪ゲージです。小さなフイルムの表面に金属のパターンが刻まれています。これを金属製の棒の表面に張り付けることによって応力による撓みによって変形することで電気抵抗が微妙に変化します。この電気抵抗を読み取り機で測定し、変形を引き起こした圧縮応力に換算するのです。写真10の左から読み取り機、中央がゲージ切替器、右はゲージシート(10枚入り)です。歪ゲージ自体は数百円と安価なので、市販ロードセルによって歪ゲージを張り付けた自作ロードセルを校正することもできます。ロードセルは一か所の応力を精密に測定できるのですが、機械の開発現場では複数位置の状況把握が必要となるため、多数の歪ゲージを読み取れると便利です。多数の歪ゲージを一括して読み込めるようにしたのが切替器です。歪ゲージは温度も測れるので、歪ゲージと読み取り機のセットで多くの情報が得られます。
写真9
写真10
ばね秤は、単に重さを測るだけでなく、トルクを測ることもできます。トルクは回転中心からの距離と底の加えた力の積です。従って、回転中心からある距離のところを引っ張る(あるいは押す)とトルクが発生します。例えば回転中心から100mm離れた場所に接線方向に1kgの力を加えると、10kgf・cmとなります。この時に、10cmのところを接線方向にバネ秤で引っ張ると、バネ秤の表示*10cmでトルクを求めることができます。
南米チリの電波望遠鏡組立作業では市販のトルクレンチのヘッドがトルク管理をしたいネジに合わなかったため自作のトルクレンチを作りました。写真11のように、スパナの柄に1mのパイプを溶接し、スパナから1mの距離にアイボルトを溶接したものです。M20の高張力鋼モルトを適正トルク(1.8系列)で締め付けるため、この締め付け具と100kgのバネ秤を用いました。1.8系列のM20は370N・m、これをkgf・mに換算すると約36kgf・mとなります。アイボルトの部分にばね秤をつけ36kgまで引けばいいのです。結果は上々。作業がしやすくトルク管理もほぼ思想的にできた結果、この望遠鏡の水平回転軸精度は十分満足いく精度で組みあがりました。
写真11
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。