測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
4-2 定盤の材質による違い
ここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、 その手入れには神経を使います。定盤を使いこなす技術=定盤のメンテナンスと言っても過言ではありません。
すでに述べてきたように定盤の素材は鋳鉄、天然石、セラミックスの3種類があります。それぞれ一長一短があるので、特徴をよく理解して使う(購入する)することが大切です。
(1)鋳鉄製定盤
日本は古来から鋳物技術に秀でており、質の高い鋳物製品を作ってきました。南部鉄器などが有名ですね。このように伝統的な鋳物産業が背景にあるため、鋳鉄製定盤が多く作られてきました。
鋳鉄製定盤は主に「ねずみ鋳鉄」で作られており、均質で振動吸収性が良いことからよく使われています。最近の多様なマグネット工具が使えることも大きなメリットです。
しかし欠点もあります。
定盤の上に工具等を落とすと、当たった部分が凹むだけでなく、返りにあたる部分が基準面より盛り上がり、その部分が使えなくなります。手入れを怠ると錆が出る(写真1)のも大きな欠点です。 さらに、長い時間使っているうちに全体の形状が狂ってきて、結果として基準面の精度が悪くなってきます。使っていくうちに表面がすり減って、平面精度が低下するのも悩みの種です。
しかし、何といっても鋳鉄製の箱型定盤は大きさや形の種類が多く、軽いので扱いが簡単であること、ほどほどの精度であるため取り扱いも気楽であることから、積極的に利用したいものです。

写真1 定盤に出た錆
(2)石定盤・セラミックス定盤
最近石製の精密定盤をよく見かけるようになりました。さらにはセラミックス定盤(写真2)も開発されています。 鋳鉄製定盤が多く使われているなかで、どうして石定盤が使われるようになったかを考えると、その答えもよくわかります。

写真2 セラミックス定盤
定盤の上では絶えず何かを滑らせる・・・摺動させる・・・ことで、検査や組み立て作業を進めます。 鋳物定盤を使っているとどうしても細かい「金属屑」や「錆」のようなゴミが発生して、周囲を汚す結果となります。 半導体や光学機器はクリーンルームで組立・検査を行うため、ゴミの出る鋳鉄製定盤は困った存在です。 これに対し、石やセラミックスを使った精密定盤は表面が硬く緻密な為、頻繁な摺動を伴う作業でも削りくずは出ません。 最先端技術を駆使する半導体製造や光学部品の超精密加工では細かな塵やゴミは厳禁。クリーンルームの中で使うなら石定盤となるのです。
もう一つの問題は経年変化です。鋳鉄製定盤は応力除去熱処理をして経年変化を抑えていますが、それでも狂うため時々基準面を仕上げ直す必要があります。 ところが人件費が高くなって仕上げ直す費用が高騰し、新品購入と等しくなってしまったのです。 それに対し石定盤はその必要がありません。石定盤の素材である御影石(グラナイト)は地下のマグマが長い時間をかけて圧縮凝固し、 地球の地殻変動によって何百万年という長い年月かけて地表にでたものなので、何年たっても狂わないのです。 セラミックス定盤は特殊な熱処理で石定盤とそん色ない性能をもっているため、天然素材である石の欠点(均質性と資源の枯渇)を解決できる存在になりつつあります。
このようなことを見ていくと、石製精密定盤の性質を見ると、鋳鉄製精密定盤より高価ですが、長期的に見れば有利という判断も成り立ちます。
しかし、石定盤やセラミックス定盤にも欠点があります。それは「割れる」ということです。 重い物を落としたり、重い部品やVブロックなどを不用意に落とすと表面が割れて窪みができたり、運が悪ければ割れてしまいます。 角に大きな物がぶつかると角が欠けてしまいます。割れたり欠けたりしては一大事ですね。
そして見落としてはならない大きな欠点、これは著者の私見ですが、「3枚合わせ」の技法(きさげ仕上げを含む)を体験する機会が少なくなってこの分野のスキルが町工場から消えるという事です。 ものづくりの最も基本的な「理想平面」を作る技術を身近に体験できないのは困りものですね。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。