測定工具の基礎講座
測定工具にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
本連載では、各測定工具の使い方や寸法の読み取り方に関して、実際の写真や図を通してご紹介していきます。
8-2 トルク管理の必要性
不思議に思う方も多いはずです。実際ものづくりの現場にいると、トルク管理の事例を見る機会がほとんどありません。大きな製造ラインでの組立ロボットがネジを締める場合はトルクが一定になるような工具を使ってトルク管理しており外から見ただけではわかりません。普通の作業ではネジの締め付けトルクを気にすることはほとんどありません。しかし、以下の事例をみれば、その必要性を実感していただけるのではないでしょうか。
(1)失敗その1・・・締めすぎてネジを壊してしまった
大学の実験室で手分けをしてM4のステンレス製ボルト(六角穴付き)をロングタイプのキーレンチで締め付けていたところ、「あ・・」という声が出ました。何事かと見ると、真っ青になった学生が「ネジを締めていたらネジ頭が壊れてしまった!」とのこと。この学生は「ねじは力いっぱい締める」と思っていたようです。高張力鋼のボルトなら良かったかもしれませんがこれは大失敗、みなさんは経験がありませんか?
(2)失敗その2・・・締めすぎて変形させてしまった
治具を工作機械に取り付けるときに、しっかり固定しようと考えて焼きの入った硬いボルトを突っ込んで思いっきり締めたら治具の取り付け付近が変形・・・気が付いた時には手遅れです。治具が変形したのではとても使えませんね。締めすぎによる塑性変形は気が付かないことが多いので、ボルトの頭がねじ切れたという分かりやすい事故より深刻かもしれません。
このような失敗は、あってはならないことですが、意外に多く発生しているようです。こうした事故を防ぐには「トルク管理」が不可欠です。
(3)ねじの締めすぎによる弊害・・・ネジ締結力の余裕がなくなる?
このような失敗の他にも、深刻な問題が起きます。ねじを締めすぎた場合、ネジには大きな引張応力が掛かります。ここに外から他の力が加わったとき、そのネジの許容応力を超えれば破断します。もともとネジは2つの部品を締結する目的で使われます。当然二つの部品には様々な力が働きます。従って、ネジはそれらの力が働いたときに2つの部品をちゃんと締結するために使われているのですから、締めすぎで締結力のマージンが残っていないのでは全くその役割を果たしません。むしろ重大事故の原因にもなりかねないのです。
ネジ等の締め付けトルクの管理が極めて重要であることを実感していただけたのではないでしょうか。
ネジの締め付けトルクでWeb検索するとネジメーカーなどから適正締付けトルクが表示されていますので大いに活用してください。
(4)締め付けトルク表の見方
メーカーのねじ技術資料をWeb検索すると「標準締め付けトルク表」が表示されます。ネジの寸法に対して、基準T系列の他に3系列の4通りの締め付けトルクが表になっています。これはネジの材質や目的によって適正な締め付けトルクが違うことを意味しています。
どの系列を選んだらよいかを簡単に紹介します。
基準T系列
ネジの材質:鉄(SS、SC材、軸応力210N/mm2)を使った一般的の締め付けトルクです。締め付けトルクの指示がない場合はこの系列を用います。・0.5系列(0.5T):ネジの材質が真鍮、銅、アルミニウムの場合はこちらを選びます。ダイカスト部品、プラスチック部品の締め付け、あるいは、雄ネジが鉄であっても雌ネジ側がアルミニウムなどの場合、こちらを用います。
1.8系列(1.8T)
クロムモリブデン鋼(SCM)などの高強度鋼を用いた強力な締結、継手などでボルトに力が加わる場合にこの系列を用います。車両やエンジン回りは1.8T系列です。
2.4系列(2.4T)
特殊鋼を用いた強力なねじ継手で、特にボルトに大きな力が加わる場合はこちらの系列を用います。1.8T系列より過酷な条件が想定される建設関連はこちらを用います。
たとえば、(1)の失敗例で使ったM4のステンレス製キャップボルトの適正締付けトルクは、ステンレス鋼はSS材に近い軸応力でることから標準T系列を見て、1.5N・mとするのが正解です。しかし雌ネジ側が真鍮やアルミニウムだったら0.5T系列の0.75N・mとします。
太いボルトを使う場合、錆止めのためにボルトにグリスを塗ることがありますが、この場合締め付けトルク表の値より20~30%低く設定します。グリスによってネジの摩擦が緩和され、規定の締め付けトルクでは締めすぎになるためです。
『測定工具の基礎講座』の目次
第1章 ノギス
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1-1ノギスの使い方と寸法の読み取り方ノギスは手のひらサイズの「物の長さ」や「太さ」を手軽に精度よく測ることができる便利な工具です。
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1-2ノギスの4つの測定方法ノギスにはいろいろな種類がありますが最も一般的なものはM型ノギスです。M型ノギスはものを挟むジョーの外にも便利な測定部分があります。
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1-3デジタルノギスとダイヤルノギス第1章で述べたように、0.01mmまで読み取れるデジタルノギスも、メーカー保証は±0.2mmです。
第2章 マイクロメータ
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2-1マイクロメータの使い方マイクロメータは手軽に0.01mm(百分の1ミリメートル)の精度で長さを測ることができる便利な道具です。
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2-2マイクロメータのゼロ合わせ外測マイクロメータは、目盛のあるマイクロメータヘッドと測定物を一直線上に挟んでいるため、アッベの原理の見本のようになっています。
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2-3デジタル式マイクロメータの上手な使い方デジタル式マイクロメータもマイクロメータヘッドを使った一般のマイクロメータと同様25mm毎になっています。
第3章 ダイヤルゲージ
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3-1ダイヤルゲージの特徴と種類寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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3-2ダイヤルゲージを上手に使うためにズバリ寸法が測れるノギスやマイクロメータがあれば工作はこれで十分と思うかもしれません。しかし、町工場やちょっとした工作では、寸法が正しく測れるだけでは困ることがたくさんあります。
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3-3その他の測定工具前節までに、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、の特徴と使い方を解説してきました。しかし、世の中にはこのほかにも多くの測定工具があります。この章ではそうした測定工具を紹介します。
第4章 定盤
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4-1定盤とは寸法を直接測れるノギスやマイクロメータに対し、曲がりや偏心などを細かく読み取ることができる測定器があると便利です。
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4-2定盤の材質による違いここからは定盤についてもう少し踏み込んだ解説です。定盤は、設備投資としてはそれほど大きな存在ではありませんが、ものつくりの基礎技術・技能の最も大切な「基準面」であることから、その手入れには神経を使います。
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4-3定盤のメンテナンス鋳鉄製定盤は基準平面を錆びさせないように時々油を塗ります。写真1のようにスプレー式の潤滑油でもOKです。特に梅雨は要注意、台風が来た後もよく錆びるので台風が来る前に多めの油を塗っておきます。
第5章 ブロックゲージ
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5-1ブロックゲージとはブロックゲージとは、写真1にあるように、縦横が同じで厚さの異なる小さなブロックを順に100個程度セットにしたものです。
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5-2リンギング(密着)を覚えようブロックゲージの小片どうしを密着させて一本の棒のように扱う手法を「リンギング」と言います。
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5-3ブロックゲージのメンテナンスセラミックス製のブロックゲージは錆びる心配がないため取り扱いがとても簡単になりましたが、油断は禁物。
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5-4ブロックゲージアクセサリを併用した高さ基準として使うブロックゲージを購入するとき、予算が許せばぜひともブロックゲージアクセサリを購入されることをお勧めします。
第6章 水準器
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6-1水準器の特徴と使い方写真1は色々な水準器です。左から、機械据え付け用の精密水準器、建築現場用水準器、カメラ用水準器です。
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6-2精密水準器の校正精密水準器はちょっとした振動や温度変化によって気泡管を支える部分がわずかにずれることから、どうしても誤差が出ます。従って、使う直前に水平を正しく表示するように調整する必要があります。これを「校正」と言います。
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6-3さまざまな水準器写真1のように、一方にマイクロメータが付いているものを傾斜水準器といいます。傾斜水準器は便利ですが支持端のヒンジやマイクロメータの取り付け部分、マイクロメータで押している部分などの可動部(写真2)があるため普通の水準器に比べて誤差が生じやすいので、丁寧に取り扱う必要があります。
第7章 基準器
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7-1直角の基準<イケール、マス、Vブロック、スコヤ>定盤は水平面の基準であることを第4章で紹介しましたので、ここではその他の基準器を紹介します。
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7-2直線の基準<ストレートエッジ>直線の基準は、その測定方法によって基準の形状も違ってきます。
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7-3直角の基準<ハイトゲージ>定盤の上で行う作業で最も利用頻度が高いのは高さ基準となるハイトゲージです。ハイトゲージの高さを表示する機構はノギスと同じです。写真1のように、高さ寸法の表示方法で、バーニア式、ダイヤル式、デジタル式がありますが、基本的な形状は同じです。