フルハーネス等の基礎講座

高所や急傾斜など墜落のおそれがある場所で作業を行う時、危険を防止するために装備する「墜落制止用器具」。本連載では、墜落制止用器具の種類や使い方から、墜落制止用器具に関する法規まで、墜落制止用器具利用への意識を高めてもらうための基礎知識を紹介していきます。
第1章 墜落制止用器具の法改正

1-2 墜落制止用器具の目的

第2. 墜落制止用器具の目的
1. 墜落制止用器具の使用条件

高さが2m以上の高所作業で、手すり等の墜落防止措置が困難な場合に限り墜落制止用器具の使用義務が発生する。

 

2.墜落制止用器具の目的は宙づり(図1、図2)

墜落制止用器具着用者(以下、着用者という。)が墜落し、宙づりとなった場合でも、衝撃荷重によりあるいは掛けたフックの位置により、着用者が振り子状に振れて構造物に激突して負傷する可能性がある。

したがって、墜落させないことが大切で、手すり等の物理的墜落防止措置が第一優先となる。

図1
図1

図2
図2

 

3.より安全に宙づりにするために

墜落した着用者の衝撃荷重は、「フルハーネス(胴ベルト)のD環→ランヤード・ショックアブソーバ⇒フック⇒アンカー点」と伝達する。この設備の一部でも墜落時の衝撃で破損すると、着用者は宙づりにならず地面に激突する。

したがって、墜落制止用器具とその関連設備を次のように一体的に検証する必要がある。

  1. フック等の取付設備であるアンカー点の確保
    〇取付設備としてのアンカー点の高さ及び強度はよいか
  2. ベルトやハーネス自体の適正化
    〇ベルト・ハーネス、ランヤードのロープ等に損傷はないか
  3. 接続金具等であるコネクタの適正化
    〇フック、カラビナ、コネクタ等に損傷はないか
  4. 宙づりになった後の自力脱出できない被災者の救助計画
    〇救助計画及び自己救助等の訓練が実施されているか

 

4.墜落安全距離の確保

着用者が墜落した場合に、地面等に激突しないためには一定の安全な距離が必要である。

フルハーネスだと、アンカー点に掛けたフックの位置から足元まで4.5m落下するとのデータがあり、安全距離1mを加えた5.5m以上(欧米では5.6~6m)が墜落安全距離となる(図3 第4章第8で詳解)。

墜落安全距離が確保できない低層作業でフルハーネスを使用せざるを得ない場合には、事業者(安全責任者)はフックの取付設備の状況を事前に確認しなければならない。加えて墜落安全距離を確保する他の選択としてロック付き巻取り器や安全ブロックの使用、フックを掛ける位置等の指示をしなければならない(規則521条参照)。ガイドラインは、作業の高さによって「適切な墜落制止用器具の選択」を示している。これは作業環境と作業指示が複雑化することを意味するので、指示の徹底と責任の明確化(証拠化)を図るために、安全担当者は安全日誌等に記録することが必要となる。

図3
図3

 

執筆: みなとみらい労働法務事務所 所長 菊 一 功

『フルハーネス等の基礎講座』の目次

第1章 墜落制止用器具の法改正

第2章 墜落制止用器具等の基礎知識

第3章 ハーネスの特徴

第4章 フルハーネスの使い方、使用する際の注意点

第5章 点検・保守・保管

第6章 墜落災害発生時の救助体制と延命措置

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