工具の通販モノタロウ フルハーネス等の基礎講座 胴ベルト型使用中の死亡災害(宙づり)

フルハーネス等の基礎講座

高所や急傾斜など墜落のおそれがある場所で作業を行う時、危険を防止するために装備する「墜落制止用器具」。本連載では、墜落制止用器具の種類や使い方から、墜落制止用器具に関する法規まで、墜落制止用器具利用への意識を高めてもらうための基礎知識を紹介していきます。
第2章 墜落制止用器具等の基礎知識

2-3 胴ベルト型使用中の死亡災害(宙づり)

1.胴ベルト型災害の特徴

近年、墜落し宙づりとなり胴ベルトで腹部が圧迫されたため呼吸ができず、低酸素脳症等での死亡例が多く報告されている。

消防レスキューが現場に到着するのが事故発生後20~30分、救出にはその後30分は要するとされている。

しかし、現実には「墜落10分で意識不明となり30分後には死亡が確認」という災害も報告されており、レスキュー到着前に作業員が死亡している例がある。

墜落者に意識があるうちに、自ら自己救助・延命措置を行う必要がある(第6章で解説)。

 

2.災害事例(宙づり)
(1)災害事例1 災害の概要(平成23年)

建物の外壁補修工事を請負っていた元請の現場所長が、3階吸気口周囲の雨漏れ箇所を補修するため、1人で屋上から親綱とロリップと胴ベルトを使用し下降しようとしたところ、屋上から約1m下がった箇所で動けなくなり宙づり状となった。被災者は携帯電話で施主に救助を求めたが、駆け付けた2人では引きあげることはできず、消防署のレスキユー隊に救出要請した。事故の約30分後に引き上げられたが、被災者は翌日低酸素脳症で死亡した(図1)。

図1

図1

 

(2)災害事例2 災害の概要(平成25年)

電力会社の訓練施設で鉄塔間の電線を跨いで姿勢を保持する訓練を行っていた訓練生が、高さ約10mの電線から墜落した。当初は両手で電線をつかんだ状態であったが、力尽き両手を離し宙づりとなった。安全帯で胸部を圧迫し、約10分後には意識不明状態となった。約30分後に救助されたが死亡が確認された(図2)。

図2

図2

 

(3)災害事例3 (平成26年)

被災者は、ビル窓ガラス清掃をブランコ作業で行っていたところ、メインロープが吊り元から外れブランコ台から墜落した。ライフラインにより地面への墜落は避けられたものの、安全帯で宙づり状態となった。被災者の救出には約1時間を要し、搬送先の病院で内蔵圧迫等により死亡が確認された(図3)。

図3

図3

 

3.その他の災害事例
(1)

高所作業において、両手を使うためにフックを工具掛け用のカラビナに掛け(図4)、ロープに体重をかけた途端にカラビナからフックが外れたため(図5)墜落死したもの。(写真1は、カラビナが破損した被災者の胴ベルト型)

図4

図4

図5

図5

写真1

写真1

 

 

(2)

規格外の穴あきベルト(写真2)を装備して柱上作業中(写真3)に、ベルトのバックルが破損して墜落死した。

写真2

写真2

写真3

写真3

 

執筆: みなとみらい労働法務事務所 所長 菊 一 功

『フルハーネス等の基礎講座』の目次

第1章 墜落制止用器具の法改正

第2章 墜落制止用器具等の基礎知識

第3章 ハーネスの特徴

第4章 フルハーネスの使い方、使用する際の注意点

第5章 点検・保守・保管

第6章 墜落災害発生時の救助体制と延命措置

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