フルハーネス等の基礎講座

高所や急傾斜など墜落のおそれがある場所で作業を行う時、危険を防止するために装備する「墜落制止用器具」。本連載では、墜落制止用器具の種類や使い方から、墜落制止用器具に関する法規まで、墜落制止用器具利用への意識を高めてもらうための基礎知識を紹介していきます。
第1章 墜落制止用器具の法改正

1-5 その他の用語

第5 その他の用語

(1)自由落下距離

《ガイドライン》用語

「作業者がフルハーネス又は胴ベルトを着用する場合における当該フルハーネス又は胴ベルトにランヤードを接続する部分の高さからフック又はカラビナ(以下「フック等」という。)の取付設備等の高さを減じたものにランヤードの長さを加えたものをいう。」

 

(2)落下距離

《ガイドライン》用語

「作業者の墜落を制止するときに生ずるランヤード 及びフルハーネス若しくは胴ベルトの伸び等に自由落下距離を加えたものをいう。」(図1は、落下距離)

写真1は、ランヤードに落下距離が4.4mと表記されているが、始点は作業床からである。

図1
図1

写真1
写真1

 

(3)墜落激突距離

図1のとおり落下距離と同じで、クリアランス(隙間)がなければ墜落した着用者の脚が地面に接触する距離である。

墜落激突距離に1mのクリアランス(隙間)を加えたものが、墜落安全距離である。

日本のメーカーの仕様書には地面に激突した図を示し、作業床からの距離で4.4m以上確保するよう注意しているが、これは墜落激突距離で表したものである(図2)。

図2
図2

 

(4)墜落安全距離

落下距離・墜落激突距離に安全なクリアランスとして1mを加算した距離である。

クリアランスとは、作業者が墜落して宙づりとなっても、接地しないための十分な間隔で、1m以上の確保が必要となる。

落下距離の始点は、日本では作業床からであるが、海外ではアンカー点にフックを掛けた箇所からである(写真2)。

写真2
写真2

 

(5)落下係数(墜落係数)

落下係数は、ダイナミックロープ(ザイル)で接続された登山者が墜落し宙づりとなった場合に、墜落時に受ける衝撃の激しさを数値化したもので、「落下距離÷繰り出したロープの長さ」で計算される。最小値が0で最大値が2(0≦落下係数≦2)となる。

ハーネス等のフックを掛ける位置を決める際に参考となる。

 

(6)サスペンション・トラウマストラップ

フルハーネスで宙づりになった場合、20分以内に自力脱出か救助しないと腿ベルトで大腿静脈が圧迫され、心臓及び脳に重大な損傷を及ぼす可能性がある。被救助者が救助される間に行う自己救助のひとつがストラップを足に掛けてうっ血対策を行うもので、このストラップをトラウマストラップ(サスペンション・トラウマストラップ)という。

写真3は、3M社のDBI-サラ 墜落防止時うっ血対策ストラップ

写真3
写真3

 

執筆: みなとみらい労働法務事務所 所長 菊 一 功

『フルハーネス等の基礎講座』の目次

第1章 墜落制止用器具の法改正

第2章 墜落制止用器具等の基礎知識

第3章 ハーネスの特徴

第4章 フルハーネスの使い方、使用する際の注意点

第5章 点検・保守・保管

第6章 墜落災害発生時の救助体制と延命措置

目次をもっと見る