フルハーネス等の基礎講座

高所や急傾斜など墜落のおそれがある場所で作業を行う時、危険を防止するために装備する「墜落制止用器具」。本連載では、墜落制止用器具の種類や使い方から、墜落制止用器具に関する法規まで、墜落制止用器具利用への意識を高めてもらうための基礎知識を紹介していきます。
第2章 墜落制止用器具等の基礎知識

2-4 ハーネスの種類

1.広義のハーネス

広い意味でハーネスは、墜落制止用器具のフルハーネス、ワークポジショニング用器具のシットハーネス、シットハーネスの補助具のチェストハーネスに分かれる(図1)。

図1
図1

 

2. フルハーネス
(1)フルハーネス(一般型)

ガイドラインでフルハーネス型墜落制止用器具とは、「墜落を制止する際に身体の荷重を肩、腰部及び腿等複数箇所において支持する構造の部品で構成される墜落制止用器具をいう。」と定義している。

イ.

図2のフルハーネスは、D環が背面に1箇所あるシンプルで軽量なデザインで、広く現場で使用されている墜落対応(一本つり用)である。

このフルハーネスにはU字つりの機能はない。

図2
図2

ロ.

一本つり用でもU字つりの機能をもつため、腰ベルト(写真2)や胸ベルト(写真3)にD環を装備したものもある。

写真2
写真2

写真3
写真3

 

(2)ワークポジショニング(U字つり)兼用の多機能型

イ.

D環が

  1. 墜落対応として背面と胸に2箇所
  2. 作業姿勢保持として両腰に2箇所、腹部に1箇所

の5箇所設置されたフルハーネスも使用されている(写真4)。このフルハーネスは急傾斜地での作業等のロープアクセス(ロープ高所作業)、レスキュー現場で使用されている。

写真4
写真4

ロ.

胸部D環は、墜落対応可能でレスキュー用に使用されるが、一部には昇降時使用に限定しているので注意を要する(写真5 第3章第3 参照)。

写真5
写真5

 

3.シットハーネス(写真6)

シットハーネスは、墜落制止用器具には該当するが、構造規格上墜落制止用器具ではないので、墜落対応としての使用はできない。

両腰と腹部にD環が設置されており、作業姿勢保持 、レスキュー用である。

写真6
写真6

 

4.チェストハーネス(図3)

構造規格上墜落制止用器具ではないので、墜落対応としての使用はできない。

胸部と背面にD環が設置されているが、単独での使用ではなく、カラビナ等でシットハーネスと接続し、フルハーネスとしてレスキューや造園業で使用されている。

普段は、レスキュー作業等でシットハーネス単独で使用し、墜落の危険性がある場合は墜落対応としてチェストと接続し、墜落制止用器具として使用する。

チェストハーネスのD環に墜落対応のランヤードを接続して墜落した場合、衝撃荷重などが胸部に集中し、胸を圧迫して死亡する可能性が極めて高いので、単独での使用は絶対禁止である。

図3
図3

 

執筆: みなとみらい労働法務事務所 所長 菊 一 功

『フルハーネス等の基礎講座』の目次

第1章 墜落制止用器具の法改正

第2章 墜落制止用器具等の基礎知識

第3章 ハーネスの特徴

第4章 フルハーネスの使い方、使用する際の注意点

第5章 点検・保守・保管

第6章 墜落災害発生時の救助体制と延命措置

目次をもっと見る