遠心ポンプの実践講座

本連載では、基礎講座に続き遠心ポンプにスポットをあて、ポンプを構成する部品の役割からポンプの点検の仕方、トラブルとその対策まで、 より実践的な知識をご紹介していきます。遠心ポンプの基礎講座はこちら>>
第3章 ポンプの据付けと試運転

3-4 ポンプの始動

ポンプの据付けが完了しても、ポンプは始動できるわけではありません。始動する前に、横軸ポンプはポンプ内及び吸込配管内にある空気をすべて抜く必要があります。空気を抜かないでポンプを運転すると、ポンプ内部に「かじり」を起こしたり主軸を折損したりして、ポンプは分解不可能な致命的な損傷を受けます。

立形ポンプで液中に下方部だけ浸かっているポンプは、軸封は必ず液面より上にあるので、ポンプの始動後数秒間、液のないドライ運転になります。また、主軸の間に数個ある液中軸受のうち何個かは液面より上にある場合、同様にポンプの始動後数秒間、ドライ運転になります。このようなドライ運転は避ける必要があるのですが、避ける方法としては外部から液を注入する外部フラッシングという方法になります。 そのためには、注入用のポンプとフラッシング液が流れていないことを検知する検知器が必要になるので大変です。そこで、数秒間ドライ運転を許容する軸封材料や軸受材料があるので、個別にポンプメーカに確認することになります。

空気を抜くための方法はいろいろとありますが、ポンプの形式によって異なります。

横軸ポンプでは、吸込側がどうなっているかによって、2つに分かれます。1つは吸込側の液面がポンプより高い「押込み」の場合、もう1つは吸込側の液面がポンプより低い「吸上げ」の場合です。「押込み」の場合、ポンプがセルフベントかセルフベントでないかで方法が異なります。 セルフベントとは、図3-4-1に示すように、空気抜きのとき液がポンプに入ってきて液面がどんどん上昇していくと、自動的にポンプ内の空気が抜ける構造のことをいいます。 参考として、セルフベントでないポンプを図3-4-2に示します。液中に下方部だけ浸かっている立形ポンプでは、空気を抜くことは不可能なので、軸封及び液中軸受の材料に工夫をしたり、始動時に外部フラッシングしたりすることで対策しています。

ここでは、まず空気抜きの方法を紹介し、次にポンプの形式を分類し、そしてポンプの形式ごとに適用する空気抜きの方法を紹介します。

図3-4-1 セルフベントの構造

図3-4-1 セルフベントの構造

図3-4-2 セルフベントでない構造

図3-4-2 セルフベントでない構造

3-4-1 タイプ-A 「押込み」でセルフベント

図3-4-3に示すように、吐出し弁を全閉、吸込弁及び空気抜き弁を全開にして、ポンプ内にポンプ液を流し込みます。空気抜き弁から液が漏れてきたことによって、ポンプ内の空気が抜けたことが分かります。

図3-4-3 タイプ-A 「押込み」でセルフベント

図3-4-3 タイプ-A 「押込み」でセルフベント

3-4-2 タイプ-B 「押込み」でセルフベントでない

図3-4-4に示すように、ポンプ内の空気が溜まる最上部にさらにもう1つの空気抜き弁が必要になります。この空気抜き弁も全開にしておき、空気抜きの方法は、前述と同様に、吐出し弁を全閉、吸込弁及び2つの空気抜き弁を全開にしてポンプ内にポンプ液を流し込みます。 両方の空気抜き弁から液が漏れてきたことによって、ポンプ内の空気が抜けたことが分かります。

図3-4-4 タイプ-B 「押込み」でセルフベントでない

図3-4-4 タイプ-B 「押込み」でセルフベントでない

3-4-3 タイプ-C 「吸上げ」で真空ポンプ

図3-4-5に示すように、ポンプの吐出し管から枝管を出し、その枝管の先に、ポンプよりも高い位置に満液検知器を接続し、満液検知器に真空ポンプを接続します。吐出し弁は全閉、バイパス弁は全開にします。 そして、真空ポンプを運転してポンプ内を真空にしながらポンプ液を吸込タンクから吸い上げます。ポンプ内が満液になったことを満液検知器で検知します。セルフベントのときは、図の破線の配管は不要です。

念のためですが、「真空」は圧力が大気圧力より低い圧力のことで、絶対真空のことではありません。

図3-4-5 タイプ-C 「吸上げ」で真空ポンプ

図3-4-5 タイプ-C 「吸上げ」で真空ポンプ

3-4-4 タイプ-D 「吸上げ」でフート弁

図3-4-6に示すように、ポンプの吐出し管から枝管を出し、その枝管の先に、ポンプよりも高い位置に呼水漏斗を接続します。そして、吸込配管の最下端にフート弁を設けます。吐出し弁は全閉、バイパス弁は全開にします。 また、ポンプ内の空気を抜くために空気抜き弁を設け全開にします。そして、呼水漏斗からポンプ液を注ぎ込みます。空気抜き弁から液が漏れてきたことによって、ポンプ内の空気が抜けたことがわかります。

図3-4-6 タイプ-D 「吸上げ」でフート弁

図3-4-6 タイプ-D 「吸上げ」でフート弁

3-4-5 タイプ-E 「液中」

図3-4-7に示す液中に下方部だけ浸かっている立形ポンプでは、空気を抜くことは不可能なので、軸封及び液中軸受の材料に工夫をしたり、始動時に外部フラッシングしたりすることで対策します。

図3-4-6 タイプ-E 「液中」

図3-4-6 タイプ-E 「液中」

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの実践講座』の目次

第1章 ポンプの仕様

第2章 ポンプの構成部品と役割

第3章 ポンプの据付けと試運転

第4章 ポンプの運転

第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー

第6章 ポンプのトラブルと対策

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