工具の通販モノタロウ 遠心ポンプの実践講座 ポンプに使うメカニカルシール

遠心ポンプの実践講座

本連載では、基礎講座に続き遠心ポンプにスポットをあて、ポンプを構成する部品の役割からポンプの点検の仕方、トラブルとその対策まで、 より実践的な知識をご紹介していきます。遠心ポンプの基礎講座はこちら>>
第2章 ポンプの構成部品と役割

2-9 ポンプに使うメカニカルシール

メカニカルシールもグランドパッキンと同様に、摺動部の冷却及び潤滑のために、フラッシング液が必要になります。そして、メカニカルシールが格納されているスタフィングボックス内の圧力は、大気圧力及び液の飽和蒸気圧力よりも高い状態を保持します。

メカニカルシールの許容漏れ量は、メカニカルシールの国際的設計規格ISO 21049及びAPI 682に、5.6 g/hと規定されています。漏れ量が0だとすれば、回転環と固定環の摺動面が潤滑媒体のない固体潤滑して、摺動面が激しく摩耗するので、機械部品として使用できません。 2年とか3年の寿命を与えるために、摺動面は液による流体潤滑になるように設計されています。また、メカニカルシールは摺動面に液が存在していても、軸方向のすき間を数μmに保って許容量以下の漏れ量になるように設計されています。 つまり、メカニカルシールは漏れるのですが、グランドパッキンとは違い、漏れ量は極少量になります。

メカニカルシールは近年、組立が容易な「カートリッジ式」のものが使用されています。どのようなものかという前に、「カートリッジ式」でない従来のメカニカルシールの取付け方法について説明する必要があります。図2-9-1に従来のメカニカルシールが取り付けられた状態を示します。 メカニカルシールを取り付ける方法は、同図において、次のようになります。

  • 1:ケーシングなどを除きポンプを仮組立します。このときメカニカルシールは取り付けません。
  • 2:回転環の取付け寸法LMSを測るために、まずケーシングカバーとメカニカルシールカバーの合せ面(図でいうとLMSの左端)の位置で、軸スリーブの表面に印を付けます。LMSはメカニカルシールメーカから指定された寸法です。
  • 3:ケーシングカバーなどを取り外し、回転環の取付け寸法LMSになるように、回転環を軸スリーブに固定します。
  • 4:固定環をメカニカルシールカバーに組み込んで、最終的な組立を行います。

この方法で実際に組み立てるのは、煩雑で手間がかかります。これを解決するために「カートリッジ式」のメカニカルシールが出現したのです。

図2-9-1 メカニカルシール

図2-9-1 メカニカルシール

「カートリッジ式」のメカニカルシールは、仮組立することなく直接取り付けることができます。図2-9-2に示すように、軸スリーブは主軸上を軸方向に動くことができます。そこで最初に、回転環を軸スリーブにLMS’の寸法で固定します。 そして、同図左端にあるロック板を軸スリーブの溝にはめ込み、回り止めビスを取り付けることによって、軸方向の位置を決めるのです。ポンプを始動する前に、ロック板は軸スリーブの溝から外します。この方式のメカニカルシールは組立時間の短縮につながります。

図2-9-2 「カートリッジ式」メカニカルシール

図2-9-2 「カートリッジ式」メカニカルシール

ところで、図2-9-1及び図2-9-2において、軸スリーブが大気側に露出していますが、これには理由があります。メカニカルシールの漏れる可能性のある個所は2か所です。1つは回転環と固定環の摺動面、もう1つは主軸と軸スリーブに挟まれたガスケットからです。 図2-9-3に示すように、軸スリーブが大気側に露出していないと、回転環と固定環の摺動面からの漏れもガスケットからの漏れも、メカニカルシールカバーの内周から出てきます。 結局、漏れている個所が両者のどちらからかは外からでは分かりません。図2-9-1及び図2-9-2に示すように、軸スリーブが大気側に露出していると、回転環と固定環の摺動面からの漏れは、軸スリーブの外周から出て、ガスケットからの漏れは、軸スリーブの内周から出てくるので、両者のうちどちらから漏れているか、外から判別することができます。

図2-9-3 軸スリーブが露出していないメカニカルシール

図2-9-3 軸スリーブが露出していないメカニカルシール

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの実践講座』の目次

第1章 ポンプの仕様

第2章 ポンプの構成部品と役割

第3章 ポンプの据付けと試運転

第4章 ポンプの運転

第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー

第6章 ポンプのトラブルと対策

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