遠心ポンプの実践講座
6-2 ポンプトラブルの技術的原因
ポンプを設計して製造するためには、設計技術、製造技術、購入技術、検査技術は必要ですが、顧客との窓口になる営業技術も大切です。表6-2-1にポンプトラブルの主な技術的原因を挙げ、内容を説明します。
表6-2-1 技術的原因
(1)新規設計 | (2)新用途 | (3)知識不足及び経験不足 |
(4)人材不足 | (5)顧客から仕様がない | (6)顧客からの間違った仕様 |
(7)顧客の知識不足 | (8)予期しない運転 | (9)メンテナンス不足 |
ポンプメーカで過去に設計したことがない大形のポンプ、小形のポンプ、高揚程のポンプなど、現在持っていないポンプを受注したときに、新規に設計する必要があります。そのため、事前に十分な検討はするのですが、想定を超えたことが起こる可能性があります。
例えば、家庭用燃料電池用の超小形ポンプ、二酸化炭素の分離・回収・貯留用ポンプなど、社会の動向によって新たな用途のポンプが要求されます。しかし、そこにどのような未知の現象があるのか、設計段階では想定して対応するしかありません。
設計、製造、検査、購入、営業などの各担当者において、顧客の仕様が意味すること、そのことがポンプにどのような影響を与えるのかについて理解が不足していることがあります。
基礎的な工学の知識はあったとしても、ポンプにどのように反映させるのかという応用工学が必要になります。
ポンプメーカに限ったことではありませんが、会社の仕事量には波があります。ポンプの仕事も経験がなくてはできません。人材が豊富であれば問題は少ないのですが、人事異動、退職者などで環境は変わります。新しい技術への対応も必要になります。
会社に余裕があれば、ゆっくりと時間をかけて人材を育成できるのですが、そのような会社は20年ほど前から急激に少なくなってきています。そして、やっとこの弊害に気付き、人材の育成に力を注ぐ会社が出てきています。
例えば、取扱液に腐食性があるとの仕様がなければ、ポンプメーカは腐食性を考慮しません。世界的なエンジニアリング会社は、言語を始め文化や習慣の異なるポンプメーカや顧客を相手にするので、A4サイズの両面コピイで厚さが20 cmほどの仕様書を発行しています。 したがって、こんなことまで書かなくても常識と思うような仕様まで書いています。ポンプメーカにとっては読むことは大変ですが、不明確なことはなくなるし、何と言っても納入後に何か問題になっても仕様書が最優先されるので、責任所在が明確になります。現在は、このような分厚い仕様書に代わり、電子データで仕様書が送られてきます。
顧客から間違った仕様が出されれば、ポンプの運転後に問題が発生します。特に問題なのは、ポンプメーカが間違った仕様にポンプ製造前に気付いたとき、その間違いを顧客に指摘しても「仕様書どおり進めるように」と返答がある場合です。
エンジニアリング会社の回転機の技術者は、ポンプだけ担当しているわけではないので、ポンプだけに時間をかけることはできないことは理解します。しかし、後々に起こるトラブルを考慮すると、未然に回避しておくことが重要なのです。
ポンプの並列運転、始動前の空気抜き、保護装置の管理など、顧客がポンプを使用するときに知っておく必要があるポンプの技術があります。知らないでポンプを運転すると、重大なトラブルを引き起こすことがあります。
ポンプメーカが常識と考えていても、使用者は常識と思っていないときに、トラブルが起こることがあります。
ポンプの取扱説明書には、メンテナンスの項目と期間を推奨しています。使用者が自らの経験に基づいてメンテナンスを実施していれば、問題はないと思います。問題は、自らの基準がなく、また、ポンプの取扱説明書に基づいたメンテナンスもしていないときに発生します。
『遠心ポンプの実践講座』の目次
第1章 ポンプの仕様
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1-1ポンプを発注するときに必要になる仕様ポンプを発注するに当たり、どのような仕様が必要になるのでしょうか。
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1-2ポンプ液の基本特性ここでは、ポンプ液の基本特性の主なものを取り上げて説明します。
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1-3スラリーが混入するポンプ液ここでいうスラリーとは、摩耗させる成分のことをいいます。スラリーが混入する液の場合、摩耗に対して強い構造のポンプを選定します。
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1-4高温のポンプ液ポンプの液が低温であれば、液が気化しないように注意します。
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1-5ポンプの材料ポンプは圧力容器の一つなので、圧力に耐える材料にする必要があります。
第2章 ポンプの構成部品と役割
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2-1ポンプを構成する部品遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及び軸封です。
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2-2ポンプのケーシングボリュート形状ケーシングには吸込口及び吐出し口があり、吸込口から液を取り込み、吐出し口から液を送り出す役割があります。
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2-3ポンプのケーシングによるラジアルスラストケーシングのボリュート形状によって、羽根車に作用するラジアルスラストが変わるのですが、それでは、どのようにしてラジアルスラストが分かるので
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2-4ポンプのケーシングガスケットポンプは言うまでもありませんが、圧力容器の1つです。
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2-5ポンプの羽根車形式羽根車は主軸に固定された回転体の1つで、主軸と一体で回転します。そして、その回転によってポンプの液にエネルギーを与えます。
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2-6ポンプの羽根車によるアキシャルスラストポンプの運転中には、羽根車に半径方向に作用するラジアルスラストの他に、軸方向にアキシャルスラストが作用します。
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2-7ポンプのライナリングとインペラリングライナリングはケーシングに取り付けられているリングで、インペラリングは羽根車に取り付けられているリングです。
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2-8ポンプに使うグランドパッキングランドパッキンは、グランドパッキンと主軸の冷却及び潤滑のために、図2-8-1に示すように、フラッシング液を漏らしながら使用されます。
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2-9ポンプに使うメカニカルシールメカニカルシールもグランドパッキンと同様に、摺動部の冷却及び潤滑のために、フラッシング液が必要になります。
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2-10ポンプの軸受ハウジングと付属部品軸受ハウジングは、羽根車などの回転体の静的荷重と振動による動的荷重、羽根車に作用するラジアルスラストとアキシャルスラストなどを間接的に支え
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2-11ポンプのラジアル軸受とアキシャル軸受軸受はポンプが発生する荷重を支えるために必要になり、主軸及び軸受ハウジングに取り付けられます。
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2-12ポンプの軸受潤滑方式軸受の潤滑方式には、表2-12-1に示すように、グリス密封、グリス、オイルバス、オイルミスト、強制給油があります。
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2-13ポンプのオリフィスポンプそのものに付く部品ではないのですが、流量を調整するためにオリフィスという部品があります。
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2-14ポンプに使うサイクロンセパレータ研磨後の廃液に溜まった研磨粉の回収、食品の製造過程における原材料の分級、微粒子の分級及び分離、排ガスから発生した汚染物質の除去などに使用さ
第3章 ポンプの据付けと試運転
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3-1ポンプによる基礎の荷重ポンプから基礎にどのぐらいの荷重がかかるのでしょうか。その前にまず、どのような荷重があるのか考えてみます。
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3-2ポンプに作用する配管荷重による基礎の荷重次は、「3-1 ポンプによる基礎の荷重、表3-1-1 ポンプの基礎荷重」にある配管荷重及び配管モーメントについて説明します。
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3-3ポンプの据付け超大形のポンプやモータでない限り、ポンプとモータは図3-3-1に示すように、共通ベースに取り付けられた状態で現地に到着します。
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3-4ポンプの始動ポンプの据付けが完了しても、ポンプは始動できるわけではありません。始動する前に、横軸ポンプはポンプ内及び吸込配管内にある空気をすべて抜く必要
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3-5ポンプの回転方向の確認ポンプ内及び吸込配管内の空気抜きが終わり、ポンプの運転に必要になる冷却水などのユーティリティの供給を開始すれば、ポンプは始動できる状態にあります
第4章 ポンプの運転
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4-1ポンプの減速運転省エネルギーのために、ポンプはインバータやベルトを使って減速運転されることがあります。
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4-2ポンプの増速運転ポンプの駆動機が三相交流モータの場合、モータのスリップがないときのモータの同期速度Ncyは、電源の周波数をf、モータの極数をPとすると、Ncy=120
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4-3密閉管路内のポンプ運転ポンプが密閉管路の装置内で運転されている場合、液の温度上昇はどうなるのでしょうか。
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4-4ポンプへの空気の侵入防止ポンプや配管の内圧が大気圧力より低い場合、ポンプや配管内に空気が外部から侵入することがあります。
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4-5空気を含んだポンプの運転ポンプや配管内に空気が外部から侵入しないとしても、パルプ液や復水などのように、液そのものに空気が混入している場合はどうしたらよいでしょう
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4-6ポンプ吸込側のレジューサポンプや配管内に空気が外部から侵入しない対策、及び液そのものに空気が混入している場合の対策は必要なのですが、これらに加え、吸込配管内の上部
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4-7ポンプ吸込渦と初生キャビテーションポンプと配管の設置スペースの関係で、ポンプの吸込口に曲管が付いていることがあります。ポンプの吸込口直前に曲管が付いていると、図4-7-1に示すよ
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4-8ポンプの並列運転ポンプを2台以上使って、並列に設置して同時に運転する場合を並列運転と呼びます。ここでは、同じ性能のポンプを2台使った並列運転について説明します
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4-9ポンプの直列運転ポンプを2台以上使って、並列に設置して同時に運転する場合を並列運転と呼びます。ここでは、同じ性能のポンプを2台使った並列運転について説明し
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4-10ポンプのウォーミングと冷却水少しの時間も送液を止められない重要なポンプでは、予備機を設けると安心です。2台のポンプを並列で設置して、どちらか一方のポンプを運転します。
第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー
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5-1ポンプの点検日常、ポンプの状態を点検することは重要なのですが、ポンプの台数が多いと大変です。
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5-2ポンプの修理、改造および取替え安価な汎用ポンプでない限り、ポンプは何度も修理して使用し続けます。
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5-3ポンプの省エネルギーの着眼点ポンプに限りませんが、省エネルギーと言うとインバータと言われるほどインバータが普及しています。
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5-4ポンプの省エネルギーの具体策「インペラカット」は、図5-4-1に示すように、羽根車の外周を旋盤で加工して、羽根車直径をD1からD2のように小さくすることを言います。
第6章 ポンプのトラブルと対策
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6-1ポンプトラブルの分類と原因分析ポンプでは予期しなくとも残念ながらトラブルが発生します。
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6-2ポンプトラブルの技術的原因ポンプを設計して製造するためには、設計技術、製造技術、購入技術、検査技術は必要ですが、顧客との窓口になる営業技術も大切です。
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6-3ポンプトラブルの人的原因技術的原因では、技術者が関与した技術を主体として原因を挙げています。
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6-4ポンプトラブルの経済的原因国内では昔、ポンプの売上げは経済成長率並みで、伸びは緩やかだが落ち込みはないと言われていました。
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6-5ポンプトラブルを減らすためのアプローチ家庭電化製品などでは、機器にトラブルが起こると、どのように対応したらよいか取扱説明書などに記載されています。
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6-6ポンプトラブルを減らすための日常の対応ポンプメーカの技術者は、日常煩雑な業務に当たっていると思います。そして、トラブルはある日突然に予告なく襲ってきます。