遠心ポンプの実践講座

本連載では、基礎講座に続き遠心ポンプにスポットをあて、ポンプを構成する部品の役割からポンプの点検の仕方、トラブルとその対策まで、 より実践的な知識をご紹介していきます。遠心ポンプの基礎講座はこちら>>
第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー

5-3 ポンプの省エネルギーの着眼点

ポンプに限りませんが、省エネルギーと言うとインバータと言われるほどインバータが普及しています。 インバータは高価格である一方、取扱いが容易であり効果も高いのですが、それ自体が動力を消費するし、電気的ノイズを発生して周辺機器に誤作動を与えることがあります。ポンプの吐出し量や吐出し圧力が日々変化するとすれば、インバータ制御は簡単で便利です。 しかし、吐出し量や吐出し圧力が一定の場合、インバータ制御でない方法が適していることがあります。

まず、ポンプの省エネルギーを広い範囲で捉え、「1.新規購入・改造・取替え」、「2.運用」及び「3.性能調整」の3つに分類して、それぞれの着眼点を表5-3-1にまとめて示します。

表5-3-1 省エネルギーの着眼点

分類1に示すように、新規にポンプを購入する場合、当初から高効率のポンプ及びモータにしておけば、ある程度省エネルギーになるし、接液面を塗装することでも、同様の目的が達成できます。また、ポンプや配管を改造して、圧力損失の低減や保守時間を短縮することも、広い意味では省エネルギーになります。

分類2に示すように、点検間隔を長くすることや予備機を設置しないことも同様に、広い意味での省エネルギーです。

分類3に示す「性能調整」については、少し詳しく説明する必要があります。新規で購入するポンプは、吐出し量に余裕をつけて大き目のポンプを選定するのが一般的です。 省エネルギーを考えるとき、実はこれが最大の問題になります。余裕があるからこそ、ポンプの運転開始後、性能の調整が必要になるのです。だからと言って、吐出し量が不足するかもしれないぎりぎりの選定はできないのも確かです。

そこで、ポンプの運転開始後に性能調整が必要になった場合、何らかの方法で調整して、省エネルギーを達成したいのです。話を単純にするために、ここではポンプ1台を単独で運転すると仮定して、吐出し量を基準にした性能調整の着眼点を図5-3-1に示します。

表5-3-1 省エネルギーの着眼点

分類 着眼点 補足
1:新規購入・改造・取替え 高効率ポンプ ポンプメーカーのポンプ効率を比較する
高効率モータ JIS C 4212を適用したモータを採用する
表面塗装 ポンプ内部の接液部に塗装する
クリアランス制限 ポンプ内部の環流量を減らす
配管抵抗を低減 配管径を大きくする、配管材料を替えるなど
保守容易な構造 保守時間を短縮する、労力を軽減する
改良 最新技術を採用する
省エネルギーベルト 伝達効率の高いベルトを採用する
2:運用 定期点検を1年から2年以上 点検間隔を長くする
予備機を設置しない 初期投資を抑える
3:性能調整 インバータ制御 ポンプ回転速度を低く調整する
インペラカット 羽根車直径を小さくする
段抜き 多段ポンプの場合に適用する
弁調整 ポンプの吐出し弁の開度を調整する

吐出し量を時々変える必要がある場合には、インバータによる調整を検討します。吐出し量は一定ですが、使用しているポンプの最高効率点における吐出し量の半分以下で運転する場合、別の小さいポンプに置き換えることを検討した方がよいのです。 インバータによって調整はできますが、モータの回転速度を半分以下に下げると、モータの発生するトルクが不安定になり、異常な振動を起こすことがあるからです。

また、インバータの調整によってポンプの吐出し圧力が低下しますが、このとき同時に、メカニカルシールへのフラッシング圧力及び流量も低下します。 そして、取扱液の飽和蒸気圧力以下になってしまうと、スタフィングボックス内で液が気化し、メカニカルシールの焼付きと言う重大な事故を引き起こします。こうなれば、省エネルギーになったと喜んではいられません。

吐出し量が一定であり、その吐出し量が最高効率点の吐出し量の半分以上のときは、単段ポンプでは「インペラカット」、多段ポンプでは「段抜き」または「インペラカット」によって省エネルギーを達成できます。もちろん、インバータは使いません。 「インペラカット」も「段抜き」も、ポンプの使用者においては馴染みのない用語かもしれませんが、「インペラカット」は性能を定格点に合わせるために、「段抜き」は多段ポンプの性能試験時に、ポンプメーカでは頻繁に実施しています。

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの実践講座』の目次

第1章 ポンプの仕様

第2章 ポンプの構成部品と役割

第3章 ポンプの据付けと試運転

第4章 ポンプの運転

第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー

第6章 ポンプのトラブルと対策

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