遠心ポンプの基礎講座

電力、自動車、建設機械、鉄鋼、化学、食品など、多くの産業分野において使用されている「ポンプ」。
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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第1章 ポンプの基礎

1-2 ポンプの概況2

引き続き、遠心ポンプについて、主なものを取りあげて概況を説明します。

1-2-1 専用ポンプ

専用に使用されるポンプには、雨水ポンプ、汚水ポンプ、汚泥ポンプ、グラインダーポンプ、消火ポンプ、石炭輸送ポンプ、LNGポンプ、熱媒ポンプ、人工心臓血液ポンプなどいろいろとあります。ここでは、パルプポンプとスラリーポンプを紹介します。 パルプポンプは紙の製造に使用されているのですが、段ボールのような古紙の再生にも使用されています。 古紙の再生のとき、段ボールに止め金具として使われている銅片も一緒に混入するので、ケーシング自体が摩耗することを避けるために、羽根車の両側にサイドカバーという別部品をケーシング面に設けています。

スラリーポンプはトンネル工事などで土砂が混じった排水などに使用されています。そのため、ポンプは激しく摩耗するので、できるだけ寿命を長くするために、材料を高クロム含有の硬いものにして、 接液部には突起などを設けず、できるだけ簡素な設計にしています。 また、材料が硬いので、できるだけ加工を少なくするために、吸込ノズル及び吐出しノズルのボルト穴は、加工ではなく鋳抜きにしています。 「スラリー」という用語はなじみがないかもしれませんが、ポンプを摩耗させる成分が混入した液のことをスラリーといいます。

1-2-2 シールレスポンプ

ポンプにはグランドパッキンやメカニカルシールなどの軸封という部品が必要になります。軸封はシールとも呼ばれています。シールレスポンプは、「軸封のない」ポンプをいいます。 軸封がないことによって完全に無漏洩を達成したポンプです。シールレスポンプは、キャンドモータポンプとマグネットポンプの2種類に分かれます。

キャンドモータポンプは、ポンプとモータが一つの圧力容器の中に格納されています。モータも液中に漬かるために、モータの回転子及び固定子はキャンという薄肉円筒で覆われて、 キャン両端は液が浸入しないように溶接されています。キャンドモータポンプは製造がかなり難しくなりますが、完全に無漏洩のポンプなので、液体アンモニア、液化ガスなどの危険な液や可燃性の液のときに特に効果を発揮します。

マグネットポンプは、羽根車にトルクを伝達する被動軸と駆動機からトルクを伝達する駆動軸の2本の主軸のものと、被動軸1本のものと2種類あります。モータ軸に取り付けられたホルダーの内周に外輪と称する永久磁石を配列します。 そして、被動軸に取り付けられたホルダーの外周には、内輪と称する永久磁石を配列し、その外周をキャンで覆います。モータが回転すると、それに追随して被動軸が回転します。 お互いの永久磁石は、同極同士が反発し合い、異極同士が引き合うことによってトルクを伝達するのです マグネットポンプに使うモータはキャンドモータとは異なり、一般的なものになります。 キャンドモータポンプと同様に、完全に無漏洩のポンプなので、漏れては問題になる取扱液のときに特に効果を発揮します。 しかし、このポンプは永久磁石が相互に引き合うまたは反発する瞬間に主軸が急に動くので、分解及び組立のときに治具などを使用し、怪我をしないように注意する必要があります。

キャンドモータポンプとマグネットポンプを比較すると、製造上難しいのはキャンドモータポンプで、製造上多くのノウハウが必要になります。 マグネットポンプは永久磁石を入手できさえすれば、一般的なポンプと製造上は変わりません。 したがって、マグネットポンプの製造メーカ数は世界で約50社ですが、キャンドモータポンプの製造メーカ数は世界でも十数社しかありません

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの基礎講座』の目次

第1章 ポンプの基礎

第2章 ポンプの豆知識

第3章 ポンプの性能

第4章 ポンプの選定

第5章 知っておきたいポンプの技術

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