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遠心ポンプの基礎講座

電力、自動車、建設機械、鉄鋼、化学、食品など、多くの産業分野において使用されている「ポンプ」。
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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第3章 ポンプの性能

3-2 ポンプの効率

3-2-1 ポンプの効率

遠心ポンプの効率について規定している規格として、国内では次のJIS規格があります。

  • JIS B 8313 小形渦巻ポンプ
  • JIS B 8319 小形多段遠心ポンプ
  • JIS B 8322 両吸込渦巻ポンプ

JIS B 8313およびJIS B 8319の効率を図3-2-1に、JIS B 8322の効率を図3-2-2にそれぞれ示します。両図において、A効率は最高効率点の効率をいい、B効率は規定吐出し量の効率をいいます。 つまり、規格を適用したポンプの場合、最高効率点の吐出し量において、ポンプの効率はA効率以上にする必要があります。 また、購入者と契約した吐出し量は、ポンプの最高効率点の吐出し量に一致することはまれで、一致していてもいなくても、購入者と契約した吐出し量における効率はB効率以上にする必要があるのです。

図3-2-1:ポンプ効率-JIS B 8313およびJIS B 8319

図3-2-1:ポンプ効率-JIS B 8313およびJIS B 8319

図3-2-2:ポンプ効率-JIS B 8322

図3-2-2:ポンプ効率-JIS B 8322

一方世界に目を向けると、「Energy Research & Consultants Corporation」が、使用されている世界中のポンプの効率を調査して発表しています。 同社によると、ポンプの見積り時にどのぐらいの効率になるかをあらかじめ推定する必要があったために、調査してポンプの形式別に発表したのです。 そして、さまざまある形式のうちAPI610で規定しているクリアランスにしたポンプの効率として、筆者は図3-2-3に示す効率の図が適当であると考えています。 そして、実際に開発や見積りなどに利用しています。図3-2-3では、横軸に最高効率点の比速度Ns、立軸に予想効率を示しています。そして、最高効率点の吐出し量ごとに予想効率を求めることができるようになっています。

図3-2-3:ポンプの予想効率-「Energy Research & Consultants Corporation」

図3-2-3:ポンプの予想効率-「Energy Research & Consultants Corporation」

JIS規格の効率と「Energy Research & Consultants Corporation」の効率を比較すると、前者では比速度Nsに無関係であるのに対し、後者は比速度Nsによって変わるとしています。

JIS B 8313の効率と「Energy Research & Consultants Corporation」の効率を、吐出し量1.9 m3/minの点で比較してみると、表3-2-1のようになります。 表3-2-1によると、比速度Nsが小さいほうではJIS B 8313の効率が高く、比速度Nsが大きい範囲では「Energy Research & Consultants Corporation」の効率がかなり高くなっていることが分かります。

筆者の経験から、比速度Nsによって効率が変わるという「Energy Research & Consultants Corporation」の効率の方が現実に合っているのですが、だからといってJISの効率が間違っていると言うわけではありません。 JIS規格に適合したポンプでは、比速度Nsが小さいほうでは場合によって、ポンプメーカは購入者へデビエーションを提出する必要があるかもしれません。

購入者や使用者には、同じ吐出し量でも、ポンプの効率は比速度Nsによって異なるということを記憶していただきたいと思います。

表組

  比速度Ns
  100 200 300 400
JIS B 8313の効率(%) 71 71 71 71
Enagy Reseach & Consultants Corporationの効率 (%) 66 76 77.5 77
3-2-2 効率を決める要因

ポンプの効率は、「駆動機から得た入力」から「損失」を差し引いたものになります。つまり、次のように表現できます。

「効率」=「駆動機から得た入力」-「損失」

便宜上、全ての損失を次のように分類します。

  • (1)水力損失(表面摩擦損失/衝突損失/拡大流損失)
  • (2)漏れ損失
  • (3)円板摩擦損失
  • (4)機械損失

ポンプの効率は結局のところ、損失が少ないほど高くなるのです。しかし、損失が多い少ないは実は比速度Nsの影響を強く受けます。 上記4つの損失割合を図3-2-4に示します。図3-2-4は横軸に比速度Ns、立軸に各損失の入力に対する割合を示しています。 比速度Nsによって顕著に異なるのは、漏れ損失と円板摩擦損失です。他の二つの損失は比速度Nsによらず一定です。 つまり、吐出し量が小さく高揚程である低比速度ポンプほど効率が低くなります。 したがって、ポンプの効率を評価するとき、単に効率の値だけをみるのではなく、比速度Nsと吐出し量を考慮する必要があるのです。

図3-2-4:諸損失の割合

図3-2-4:諸損失の割合

3-2-3 ポンプの効率とモータ入力との関係

駆動機がモータとして、ポンプの効率とモータ入力の関係を図3-2-5に示します。

モータへ入力された電力M (kW)を100 %とし、モータの損失がM の10 % であるとすれば、残り90 % (=100-10)の電力Pi がポンプに入力されます。

この電力Piを使って、ポンプがM の60 % の仕事PPをしたとすれば、残りはポンプの無効な仕事、すなわち損失となり、その損失はM の30% (=100-10-60) になります。

このときのポンプ効率ηPは、ηP = PP/Pi x 100 (%) になります。

上記を具体的な数値で示すと、次のようになります。

  • (1)モータに100 kW の入力があって、モータの効率が90 % であるとすれば、ポンプへの入力Pi =90 kW になります。
  • (2)ポンプの仕事PP = 60 kW が使用されるとすれば、ポンプの損失は30 kW になります。
  • (3)ポンプ効率はηP = 60 / 90 x 100 = 66.7 (%) になります。
図3-2-5:ポンプの効率とモータ入力との関係

図3-2-5:ポンプの効率とモータ入力との関係

3-2-4 ポンプの効率向上のための技術

ポンプメーカや学界のポンプ研究者は、高効率化のための技術を開発してきています。 しかし、直径が大きく出口幅が小さい羽根車にせざるを得ない、いわゆる低比速度ポンプにおいては、高効率を達成できたとはいえない状況にあります。 その理由として、低比速度ポンプでは、漏れ損失が大きい、円板摩擦損失が大きい、及び羽根車の一体鋳造が難しいという問題が挙げられます。これらの問題を解決できる手法の1つとして、溶接形の羽根車があります。

溶接形の羽根車は、低比速度ポンプでクローズド形羽根車の場合に適用されることがあり、翼間の通液路をミーリング加工し、別部品で製造した側板を羽根車の翼に溶接してクローズド形羽根車を一体に完成させます。 このように製造することによって、寸法精度の向上、面粗さ悪化の解消及び鋳造性の問題を解消できるのです。

ステンレス鋼板をプレスして溶接したプレス製羽根車も同様の効果はあるのですが、プレスの製造設備の投資額が少なくとも数十億円になり、また大量に売れなければ投資回収もできないので、実際にはプレス製羽根車での対応は難しいのです。

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの基礎講座』の目次

第1章 ポンプの基礎

第2章 ポンプの豆知識

第3章 ポンプの性能

第4章 ポンプの選定

第5章 知っておきたいポンプの技術

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