遠心ポンプの基礎講座

電力、自動車、建設機械、鉄鋼、化学、食品など、多くの産業分野において使用されている「ポンプ」。
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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第5章 知っておきたいポンプの技術

5-9 ポンプの締切運転

5-9-1 締切運転のときのポンプの状態

ポンプの締切運転、すなわち吐出し量が零(0)のときでも、図5-9-1に示すように、ポンプには軸動力S (kW)が負荷されています。 しかし、締切運転のときは吐出し側から液は全く出て行かないので、ポンプは有効な仕事はしていません。つまり、ポンプは有効な仕事をしていないにもかかわらず、 駆動機からは一定のトルクがポンプに入力され続けているのです。

図5-9-1 性能曲線

図5-9-1 性能曲線

それでは、軸動力S は何に消費されているのでしょうか。締切運転のとき、軸動力S は次のことに消費されています。

  • a.ポンプ内や吸込及び吐出し配管内にある液の温度上昇
  • b.ポンプの振動、騒音
  • c.ポンプのケーシングなど構成部品の温度上昇
  • d.ポンプ外表面からの熱放射
  • e.軸封へのフラッシング
  • f.ウェアリング部などの内部環流

これらの消費について、吸込配管及び吐出し配管の取付け状態、ポンプの設置場所、ポンプ周囲温度及び風速など特定できないことがあるので、 それぞれどのぐらいの比率かは一概には言えません。 また、ケーシングなどの温度上昇やポンプ外表面からの熱放射の時間よりも、ポンプ内の液温上昇のほうが速いので、 一般は、ポンプの締切運転を論ずるときは、安全を見て、軸動力S がポンプ内の液の温度上昇だけに消費されるとしています。

5-9-2 どのぐらいポンプ内の液は温度上昇するのか

計算式は次のとおりです。

熱の釣合式 1 kW=0.2389 kcal/s なので、

0.2389 x S x T = Cw x Ww xΔt

よって、Δtは、

Δt = (0.2389 x S x T )/(Cw x Ww )

ここに、

  • S:締切の軸動力(kW)
  • Cw:液の比熱(kcal/(kg・℃))
  • Ww:ポンプ内の液の質量(kg)
  • Δt:ポンプ内の液の温度上昇値(K(℃))
  • T:締切運転時間(s)

になります。

この計算式は、いろいろな専門書に載っていますが、軸動力がポンプ内の液の温度上昇だけに消費されるとしている点が重要です。

単位は「SI系」でなく、「CGS系」になっているので、「SI系」の単位のときは、

1 J = 2.389 x 10-4 kcal

を使って換算してください。

5-9-3 締切運転の危険性

前述の計算式から、ポンプ内の液の温度上昇値Δtは

a.締切運転時間T及び締切の軸動力Sに比例します。

b.液の比熱Cw に反比例します。

ポンプメーカでは出荷前の性能試験において、締切全揚程及び締切軸動力の計測のために、高圧ポンプように軸動力の大きいポンプを除き、数秒から10数秒間ポンプの締切運転を行います。 しかし、現地で実際に運転するときは、締切運転は避ける必要があります。

特に軸動力の大きいポンプは液温が短時間のうちに急上昇するし、液化ガスを扱うポンプなどは、飽和蒸気圧力が短時間のうちに急上昇します。 そうなれば、ポンプ内部に「かじり」を起こしたり、ポンプケーシングなどが割れて取扱液が大気に流れ出したりという大事故につながります。

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの基礎講座』の目次

第1章 ポンプの基礎

第2章 ポンプの豆知識

第3章 ポンプの性能

第4章 ポンプの選定

第5章 知っておきたいポンプの技術

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