遠心ポンプの基礎講座
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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4-2 ポンプの選定
ポンプが必要なとき、どのようにポンプを選定するのがよいのでしょうか。用途や使用年数などによって、当然選定するポンプは変わります。 たとえば、水が出れば何でもいい場合は価格を優先して安いポンプ、故障すると生産に支障が出る場合は信頼性の高いポンプになると思います。 ポンプを選定する際に、考慮する必要があると思われる項目を図4-2-1に参考として示します。それぞれの目的に合わせて選定するのが最善です。

図4-2-1 ポンプの選定
ポンプの適用する設計規格は、信頼性及び価格に直接影響するので重要です。参考ですが、API 610の規格の中に、次のいずれか一つでも超える場合にAPI 610を適用すると、コストに見合う効果が期待できるとあります。
-1 | -2 | -3 | -4 | -5 | -6 |
---|---|---|---|---|---|
吐出し圧力 | 吸込圧力 | 取扱液温 | 回転速度 | 全揚程 | 羽根車直径(片持ポンプに限り) |
19 bar | 5bar | 150℃ | 3600min-1 | 120m | 330mm |
ホームセンターなどで売っている低価格のポンプの場合、購入者が用途に合いそうなポンプを探して、性能や材料などについては自分の責任において購入すると思います。 ここでは、そのようなポンプではなく、仕様が多岐に亘るポンプについて、ポンプの引合いから発注までの流れを見ていきます。
(1)引合い
エンジニアリング会社などの発注者は、プラント建設のために必要になるポンプについて、ポンプ仕様書を付けて、ポンプメーカ数社へ見積りを依頼します。 ポンプにはそれぞれ「ITEM No.」という固有の番号が付いていて、人でいうと名前に該当します。仕様書にあるポンプの台数は、少ないときは数台、多いときは100台を超えることがあります。
ポンプ仕様書は、ポンプメーカが適切なポンプを選定するために必須です。仕様が明確でないと、後日トラブルの元になります。ポンプ仕様書の一例を表4-2-1に示します。
表4-2-1 選定及び設計のための仕様
No. | 項目 | 個別 | |
---|---|---|---|
1 | 適用仕様書 | 適宜 | |
2 | 発注時期 | 適宜 | |
3 | 納期 | 適宜 | |
4 | 取扱液の特性 | 液名 | 腐食性の有無 |
飽和蒸気圧力 | スラリー混入または析出の有無 | ||
密度 | 有る場合、スラリーサイズ | ||
比熱 | 有る場合、スラリー濃度 | ||
粘度 | 硫化水素混入の有無 | ||
5 | 運転条件 | 液温 | 吸込圧力 |
規定吐出し量 | 全揚程 | ||
最大吐出し量 | NPSHA | ||
最小吐出し量 | 間欠運転の有無 | ||
吐出し圧力 | |||
6 | 設置場所、ユーティリティ | 熱帯地方設置か | 冷却水圧力 |
防爆クラス | 冷却水温度 | ||
設置高度 | 冷却水塩素濃度 | ||
周囲温度 | 計器用空気圧力 | ||
相対湿度 | 計器用空気温度 | ||
電圧 | 蒸気圧力 | ||
相数 | 蒸気温度 | ||
周波数Hz | |||
7 | 性能 | 騒音 | NPSH余裕 |
最大吸込比速度S | 回転方向 | ||
8 | 駆動機 | 適宜 | |
9 | 構造 | 吸込・吐出しノズル面 | 軸受潤滑方式 |
吸込・吐出しノズルレーティング | ケーシング支持 | ||
吸込・吐出しノズル方向 | 許容最高圧力 | ||
ケーシング接続口 | 危険速度 | ||
ドレン構成 | カップリング形式 | ||
ベント構成 | 共通ベース | ||
材料 | 軸封形式 | ||
軸受形式 | 計装品 | ||
10 | 下地処理、塗装 | 適宜 | |
11 | 検査、試験 | 適宜 | |
12 | 溶接、補修 | 適宜 | |
13 | 予備品 | 適宜 | |
14 | 特別な仕様 | 適宜 |
(2)見積り
ポンプメーカはポンプ仕様書を満足できて、かつ、できるだけ低価格になるポンプを選定し、1週間ほどで見積り書を提出します。見積り書には、ポンプの性能曲線、外形図、断面図、 デビエーションリスト、納入実績表、価格、納期などを含みます。デビエーションリストは、ポンプ仕様書に対してすべて適用することができれば提出しません。納入実績表も発注者から要求がなければ提出しません。
(3)価格交渉(ネゴシエーション)
見積り書を入手した発注者は、価格、納期、効率、信頼性、メンテナンス性、互換性、使用者の意向などを考慮して、3社ほどのポンプメーカを暫定的に決めて価格交渉をします。
(4)発注
厳しい価格交渉の結果、一般には、ポンプの価格が低いメーカが受注します。そして、正式に発注になります。
『遠心ポンプの基礎講座』の目次
第1章 ポンプの基礎
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1-1ポンプの概況1国内では毎年400万台のポンプを生産していますが、現在国内で運転されているポンプは何台になるのでしょうか。
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1-2ポンプの概況2専用に使用されるポンプには、雨水ポンプ、汚水ポンプ、汚泥ポンプ、グラインダーポンプ、消火ポンプ、石炭輸送ポンプ、LNGポンプ、熱媒ポンプ、人工心臓血液ポンプなどいろいろとあります。
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1-3ポンプの概況3単段ポンプでは圧力が足りない場合、羽根車数を多くした多段ポンプを使用します。ここでは、輪切り多段ポンプ、水平割り多段ポンプ及び二重胴多段ポンプの3種類に分けて紹介します。
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1-4ポンプの種類ポンプの種類は作動原理からみると、ターボ形、容積形などに分類でき、また構造上からは、横軸、立軸、単段、多段などに分類できます。
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1-5ポンプの特徴「1-4 ポンプの種類」において、API 610という規格にしたがったポンプの記号を説明しました。ここでは、各記号のポンプそれぞれの特徴を掘り下げて説明します。
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1-6ポンプの用途ポンプは、電力、自動車、建設機械、船舶、鉄鋼、石油精製、石油化学、化学、食品、パルプ、医療など、国内外のほとんどの産業分野において、送液、循環、加圧用などとして使用されています。
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1-7国内のポンプ生産ポンプがどのぐらい生産されているのかを見てみましょう。経済産業省はホームページに、国内におけるポンプ形式別の生産台数及び生産金額の統計を公表しています。
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1-8世界のポンプ生産それでは世界のポンプ生産はどうでしょうか。少し古いのですが、「the McIlvaine Company」の統計によると、世界におけるポンプの生産金額は、図1-8-1に示すように、2000年には米ドルで200億ドルとなっています。
第2章 ポンプの豆知識
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2-1ポンプで使用する記号ポンプの特性や仕様を指定するときに、一般に使用されている用語の代りに、よく記号を使っています。
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2-2ポンプで使用する単位と換算方法ポンプで使用する記号は、世界的な規格がないためにさまざまあります。また、ポンプで使用する単位は「SI単位」が世界的な標準なのですが、 実際には「CGS系単位」や「工学系単位」もまだ多く使われています。
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2-3ポンプの圧力と圧力計の読み方ポンプを設置して試運転のとき、ポンプが正規の圧力を出しているかどうか確認する必要があったり、使い始めて数年経過してポンプの圧力がどの程度低下しているかを確認したりすることがあります。
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2-4ポンプの特性を表す比速度遠心ポンプにおいて、特性を表わすための値として、吐出し量、全揚程、効率、回転速度、NPSH3などがあります。
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2-5ポンプの吸込性能を表す吸込比速度ポンプの特性や形状を表す特性数に比速度Nsがあります。似たような特性数として、吸込比速度Sというものがあります。
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2-6ポンプの吸込揚程と求め方「このポンプは何m吸い上げられるか」ということが、話題になることがあります。図2-6-1に示すhaが吸い上げることができる高さ、すなわち吸込揚程になります。
第3章 ポンプの性能
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3-1ポンプの性能曲線の見方ポンプの性能は、吐出し量を基に、それぞれの吐出し量に対する全揚程、効率、軸動力、NPSH3、電流などの能力のことをいいます。
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3-2ポンプの効率遠心ポンプの効率について規定している規格として、国内では次のJIS規格があります。
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3-3ポンプの回転速度の変化吐出し量を少なくしたい、吐出し圧力を下げたいなど何らかの事情によって、ポンプの性能を下げる必要があることがあります。
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3-4ポンプの吸込口と吐出し口の口径ポンプには吸込口と吐出し口があります。そして、ポンプを運転するためには、一部の水中ポンプを除き、吸込配管及び吐出し配管が必須であり、弁、ストレーナなどを含めてポンプに付設されます。
第4章 ポンプの選定
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4-1ポンプの選定ポイント基本的には、購入者が横軸、立形などポンプの形式を指定します。そして、ポンプメーカは指定された形式で仕様が満足できるかどうかを確認して、最適なポンプを選定します。
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4-2ポンプの選定ポンプが必要なとき、どのようにポンプを選定するのがよいのでしょうか。用途や使用年数などによって、当然選定するポンプは変わります。
第5章 知っておきたいポンプの技術
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5-1ポンプの国内の設計規格ポンプは、目指す市場に適当と考えられる設計規格に適合または準じて設計されています。
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5-2ポンプの国際的な設計規格ポンプに関する国際的な設計規格として、表5-2-1に示す「API 610」、「ANSI B 73.1」及び「ISO規格」があります。
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5-3ポンプのシールの漏れ量ここで取り上げたいシールは、軸封に使用するメカニカルシール及びグランドパッキン、軸受ハウジング内の潤滑油を外部に漏れないようにシールするデフレクタ及びオイルシールの4つの部品です。
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5-4ポンプで使うシールの選定遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及びシールです。
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5-5ポンプのNPSHAとNPSH3前節「2-6 ポンプの吸込揚程と求め方」において、NPSHAとNPSH3の意味及び両者の関係を説明しています。要約すると、次のようになります。
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5-6ポンプの吸込ストレーナ吸込ストレーナのメッシュは、想定される異物が通過できない大きさにする必要があります。または、ある大きさ以下の異物がポンプに混入しても問題なければ、その大きさにします。
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5-7ポンプの吸込口、吸込タンク及び吸込配管ポンプは吸込口から空気を吸い込むことを避ける必要があります。
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5-8横軸ポンプ始動前の空気抜きポンプは流体機械の1つと定義されています。流体機械は、液を扱うポンプと気体を扱う送風機及び圧縮機があるので、正確に言うと、真空ポンプを除き、ポンプは液体機械なのです。
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5-9ポンプの締切運転ポンプの締切運転、すなわち吐出し量が零(0)のときでも、図5-9-1に示すように、ポンプには軸動力S (kW)が負荷されています。
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5-10ポンプの全揚程と吐出し圧力の関係ポンプの吐出し圧力は、ポンプの性能曲線に示される全揚程を圧力に換算した値と同じではありません。吸込圧力を考慮する必要があります。
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5-11ポンプの性能曲線と運転点の関係ポンプは独自に自由に運転点を決めることはありません。ポンプには吸込配管及び吐出し配管が必要です。
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5-12ポンプの保護装置ポンプの保護装置には、異常を引き起こさないためにあらかじめ設けるミニマムフローラインがあり、また、機能の異常を検知してポンプを停止するために、振動計、温度計、漏洩検知器などの機器があります。
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5-13ポンプの管理基準管理標準とは、ここではポンプに関することに限定し、トラブルを最小限に抑えて必要経費を縮減するために、点検項目を決めて管理するための基準とします。
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5-14ポンプの標準化「標準化」とは、広辞苑によると、「工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること。これによって互換性を高める。」とあります。