遠心ポンプの実践講座

本連載では、基礎講座に続き遠心ポンプにスポットをあて、ポンプを構成する部品の役割からポンプの点検の仕方、トラブルとその対策まで、 より実践的な知識をご紹介していきます。遠心ポンプの基礎講座はこちら>>
第1章 ポンプの仕様

1-2 ポンプ液の基本特性

ここでは、ポンプ液の基本特性の主なものを取り上げて説明します。

1-2-1 飽和蒸気圧力

液化ガスのように、液温が少し変わるだけでも飽和蒸気圧力の変化が大きい液があります。液化ガスを扱うポンプでは、液温が高くなると液の飽和蒸気圧力が高くなり、スタフィングボックス内で気化する恐れがあります。 そのため、スタフィングボックス内の圧力を高める工夫をしたり、メカニカルシールのフラッシング液を冷却する必要があるかどうかなどを検討したりします。 またNPSHAが小さくなるので、ポンプの吸込部の液温上昇を確認して、キャビテーションが発生しないように配慮します。

1-2-2 密度

密度ρ(g/cm3)≦0.7のときは、図1-2-1に示す「軸水平割り」ケーシングのポンプは避けた方がよく、同図の「軸垂直割り」ケーシングのポンプが適しています。密度が小さいと液が漏れやすいからです。

また、密度ρはポンプの軸動力に関係します。そして、ポンプの軸動力S (kW)は次の式で計算できます。

S =0.1634 x ρQH/η
Q:吐出し量 (m3/min)
H:全揚程 (m)
η:効率 (=%/100)

ρ>1の場合、ポンプメーカでは、主軸や羽根車の動力伝達部の強度を確認する必要があります。確認した結果、強度不足であれば材料を変更したり、軸径を大きくしたりすることがあります。

  • (a) 「軸垂直割り」ケーシングのポンプ
  • (a) 「軸垂直割り」ケーシングのポンプ
  • (b) 「軸水平割り」ケーシングのポンプ
  • (b) 「軸水平割り」ケーシングのポンプ

図1-2-1 ポンプのケーシング

1-2-3 比熱

ポンプの入口温度と出口温度は異なります。入口から入ってきた液は、ポンプの損失によって温度上昇して吐出し口から出ていきます。 吐出し温度が上昇するとシステムに影響を及ぼすのであれば、吐出し温度の規定を仕様書の中に含めます。ポンプメーカは比熱が分かれば、表1-2-1に示す計算式を使って温度上昇を推定できます。

ポンプの運転流量を小さくしていくと、図1-2-2に示すように、ポンプ取扱液の温度上昇が高くなります。比熱が小さいほど、ポンプ取扱液の温度上昇が高くなります。 比熱が小さいときは、ミニマムフローを大き目にして温度上昇を抑えることがあります。

表1-2-1 ポンプの温度上昇

表1-2-1 ポンプの温度上昇 表1-2-1 ポンプの温度上昇

図1-2-2 ポンプの温度上昇

1-2-3 比熱

遠心ポンプの性能試験は、多くの場合ISO 9906に従って実施されます。この規格に相当するJIS規格はJIS B 8301です。この規格では、性能試験の液は常温の清水を使うように規定しています。そのため、ポンプメーカではポンプの性能試験は常温の清水を使って行います。

しかし納入先の現地では、ポンプは水だけでなく、多様な液を扱います。動粘度が水よりも大きいとき、水で試験した性能とは異なります。 どの程度変わるのか、ν=1、100および350 cSt 3種類の動粘度について、性能変化の傾向を図1-2-3および図1-2-4に示します。両図において、ν=1 cStは水の場合に相当します。

図1-2-3は全揚程および効率の変化を示しています。全揚程は締切点では動粘度にかかわらず同じになり、吐出し量が増えるにつれて動粘度が大きいほど全揚程が低下します。 効率も同じように低下します。しかし、動粘度が変わっても比速度Nsは同じになるという事実があります。図1-2-4は軸動力の変化を示しています。軸動力は動粘度が大きくなると必ず大きくなります。

図1-2-3および図1-2-4は性能変化の傾向を示していますが、実際には計算で求めることができます。ISO/TR 17766というテクニカルレポートに、比速度Nsに基づいた計算式が載っています。 ポンプメーカで実施した水での性能試験の結果を規定の動粘度に計算で換算して、性能を確定します。そして、その性能が購入者の指定した定格点を満足しているかどうか判定します。

図1-2-3 粘性によるポンプの性能変化ー全揚程、効率

図1-2-3 粘性によるポンプの性能変化ー全揚程、効率

図1-2-4 粘性によるポンプの性能変化-軸動力

図1-2-4 粘性によるポンプの性能変化-軸動力

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの実践講座』の目次

第1章 ポンプの仕様

第2章 ポンプの構成部品と役割

第3章 ポンプの据付けと試運転

第4章 ポンプの運転

第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー

第6章 ポンプのトラブルと対策

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