遠心ポンプの実践講座

本連載では、基礎講座に続き遠心ポンプにスポットをあて、ポンプを構成する部品の役割からポンプの点検の仕方、トラブルとその対策まで、 より実践的な知識をご紹介していきます。遠心ポンプの基礎講座はこちら>>
第4章 ポンプの運転

4-1 ポンプの減速運転

省エネルギーのために、ポンプはインバータやベルトを使って減速運転されることがあります。100 %速度で運転しているポンプを、インバータを使って80%速度に減速したときの性能変化を参考として図4-1-1に示します。 定速のまま吐出し弁で絞って吐出し量を少なくするよりは、軸動力が低下する割合が大きくなるので、省エネルギー効果は高まります。

図4-1-1 インバータによる性能変化

図4-1-1 インバータによる性能変化

ここで、注意する必要があるのが、軸封へ供給するフラッシングの圧力と流量です。軸封の主なものにグランドパッキングとメカニカルシールがありますが、いずれにも、摺動部の冷却及び潤滑のために、適正な圧力と流量によるフラッシング液が必要になります。 そして、軸封が格納されているスタフィングボックス内の圧力は、大気圧力を超え、かつ液の飽和蒸気圧力よりも高い状態を保持することによって、空気の吸入及び液の気化を防止します。 ところが、ポンプの減速運転によって全揚程も低下するので、フラッシングの方式によっては適正な圧力と流量のフラッシング液が確保されないということが懸念されます。

それでは、まずどのようなフラッシング方式があるか、API 682を参考に主なものを見てみましょう。図4-1-2から図4-1-10に、主に使用されているフラッシングの方式を、フラッシングプランの呼称ごとに示します。 これらの図はメカニカルシールになっていますが、グランドパッキンの場合にも適用できます。外部フラッシングを除き、いずれの方式でも、ポンプの差圧、すなわち吐出し圧力と吸込圧力の差を利用してフラッシングしています。

図4-1-2 フラッシングプラン-01

図4-1-2 フラッシングプラン-01


図4-1-3 フラッシングプラン-02

図4-1-3 フラッシングプラン-02


図4-1-4 フラッシングプラン-11

図4-1-4 フラッシングプラン-11


図4-1-5 フラッシングプラン-12

図4-1-5 フラッシングプラン-12


図4-1-6 フラッシングプラン-13

図4-1-6 フラッシングプラン-13


図4-1-7 フラッシングプラン-14

図4-1-7 フラッシングプラン-14


図4-1-8 フラッシングプラン-23

図4-1-8 フラッシングプラン-23


図4-1-9 フラッシングプラン-31

図4-1-9 フラッシングプラン-31


図4-1-10 フラッシングプラン-32

図4-1-10 フラッシングプラン-32

どのようなフラッシングの方式を採用するかについて、まず購入者が軸封をメカニカルシールかグランドパキンかを指定し、フラッシングプランも併せて指定します。そして、ポンプメーカは指定された軸封及びフラッシングプランで適切かどうかを検討し、適切でなければ購入者へその旨を申し出て、両者で検討し結論を出します。 メカニカルシールの場合、ポンプメーカはメカニカルシールメーカへ、形式、回転速度、スタフィングボックス圧力、軸径などを連絡し、フラッシング量などを入手して設計します。ただし、汎用ポンプなどでき上がっていて市販されているポンプについては、購入者独自で判断する必要があります。

フラッシングプランごとに、実際に適用されるかどうか、及び減速運転したときに軸封に問題ないかどうかを、流れの系統を含め表4-1-1に示します。減速運転のとき、同表の○印は問題ありませんが、△印は問題が起こる可能性があります。×印は問題を起こします。 問題を起こす可能性がある場合または問題を起こす場合、購入者は見積り時点で減速運転することをポンプメーカへ連絡すれば、例えば100 %速度では過剰であっても、最低速度では適正量の液が流れるように、また適正な圧力が保持できるような手段を事前に講じます。

表4-1-1 フラッシング方式

プラン -1 -2 -11 -12 -13 -14 -23 -31 -32
流れの系統 羽根車側板側

スタフィング
ボックス
プラグ止め
||
流れなし 吐出し側
吐出し側

オリフィス

タフィング
ボックス
吐出し側

ストレーナ

オリフィス

スタフィング
ボックス
スタフィング
ボックス

オリフィス

吸込側
吐出し側

オリフィス

スタフィング
ボックス、
スタフィング
ボックス

オリフィス

吸込側
スタフィング
ボックス

ポンピング
リング

クーラー

スタフィング
ボックス
吐出し側

サイクロン
セパレータ

スタフィング
ボックス、
吐出し側

サイクロン
セパレータ

吸込側
外部
フラッシング

ストレーナ

流量調整弁

圧力計

スタフィング
ボックス
グランドパッキン 適用 ×
減速 適用されない
メカニカルシール 適用
減速 ×

「適用」欄 ○:適用される、×:適用されない

「減速運転」欄 ○:問題ない、△:問題の可能性ある、×:問題ある

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの実践講座』の目次

第1章 ポンプの仕様

第2章 ポンプの構成部品と役割

第3章 ポンプの据付けと試運転

第4章 ポンプの運転

第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー

第6章 ポンプのトラブルと対策

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