遠心ポンプの実践講座
6-3 ポンプトラブルの人的原因
技術的原因では、技術者が関与した技術を主体として原因を挙げています。人的原因は技術者が関与しているという点では同じですが、主に人に強く関わる原因を表6-3-1に挙げ、内容を説明します。
表6-3-1 人的原因
(1)制作指示不明瞭 | (2)製作図は同じなのに (図面に現れない技術) |
(3)情報伝達不足 |
(4)人員不足 | (5)時間不足 | (6)購入品の信頼性 |
(7)間違った材料の入庫 | (8)出荷前検査不備 | (9)運転ミス |
製作図に示しきれない製造上の注意点を、関係者へどう伝達するのかが問題になります。製作図には、寸法、同心度などの精度、熱処理などの指示をします。 しかし、ケーシングなどのように、一部分を加工後、ドレン配管を溶接してから再度加工する場合、別紙を作って作業を指示することがあります。このときに問題が発生します。製作図と一緒にホチキス(商品名)で止めたはずの別紙が、製作図から外れてなくなってしまうのです。このようなことが起こっても、確実に指示できる手段が必要になります。
製作図に垂直度や同心度などの精度がなくても、問題なく製造されているという事実があります。ところが、加工業者が知らないうちに変わっていると問題になることがあります。 原因の1つには、ポンプメーカは製作図のほかに「加工標準」なるものを持っていて、それが加工業者に渡っているので問題にはならないのですが、初めての業者へ「加工標準」を渡し忘れると問題が起こってしまいます。
全ての製作図に莫大な「加工標準」を書き込むと、問題は解決されると考えるかもしれません。しかし、そのような製作図は煩雑で見難いので、逆に見誤ってしまいます。
製造に関わる情報はもちろんそうですが、納期に関わる情報も重要です。情報は人から人へ伝える必要がありますが、伝達方法に一定の規則がなければ、確実に伝わらないことがあります。
必ずしもポンプの専門技術や専門知識を必要としないと思われている業務、例えば、購買や検査など人員が少なくても処理できると考えて人員を減らすと、十分な検討ができなかったり、検査を省略したりするなど、重要なことを見過ごしてしまう危険があります。
仕事には必ず期限があります。仕事量が多いときは、仕事ができる技術者に負担がかかります。負担がかかり過ぎると、技術的な検討を見落としてしまうことがあります。結果として、トラブルにつながります。
ポンプに必要になる部品全てを、ポンプメーカが独自に社内で製造することはありません。多かれ少なかれ、外部からの購入部品があります。購入した部品が、材料、熱処理、寸法公差、機能など、指定どおりになっているかどうか、本来であれば全数確認する必要があると言えます。 しかし、それだけの作業を全て実施することは実際には困難です。リスクを考えた最良の検査基準が必要になってきます。
購入品の中でも、部品メーカが在庫を持っている部品の場合、出庫ミスをすることがあります。ポンプメーカは、そのような部品はまとめて購入します。そして、知らないうちに間違った部品が出荷されてしまった場合にトラブルが起きます。 トラブルの原因を推定するときは、まさか間違った材料とは思いませんから、原因をなかなか特定できません。
ポンプメーカが自発的に実施する検査もありますが、顧客が指定する検査もあります。顧客が指定した検査は、その都度検査する部署に指示する必要があります。指示し忘れた、指示が伝わっていない、指示書がなくなったなどのために問題が起こることがあります。
ポンプの取扱説明書には、どのような運転はしないようにとの記述があります。ポンプの使用者は理解していても、プラントなど広大な工場になれば複数人でプラント全体を運転します。また、プラントは複雑でポンプの前流側や後流側の影響を受けて、ポンプは運転してはいけない状態になることがあります。
『遠心ポンプの実践講座』の目次
第1章 ポンプの仕様
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1-1ポンプを発注するときに必要になる仕様ポンプを発注するに当たり、どのような仕様が必要になるのでしょうか。
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1-2ポンプ液の基本特性ここでは、ポンプ液の基本特性の主なものを取り上げて説明します。
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1-3スラリーが混入するポンプ液ここでいうスラリーとは、摩耗させる成分のことをいいます。スラリーが混入する液の場合、摩耗に対して強い構造のポンプを選定します。
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1-4高温のポンプ液ポンプの液が低温であれば、液が気化しないように注意します。
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1-5ポンプの材料ポンプは圧力容器の一つなので、圧力に耐える材料にする必要があります。
第2章 ポンプの構成部品と役割
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2-1ポンプを構成する部品遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及び軸封です。
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2-2ポンプのケーシングボリュート形状ケーシングには吸込口及び吐出し口があり、吸込口から液を取り込み、吐出し口から液を送り出す役割があります。
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2-3ポンプのケーシングによるラジアルスラストケーシングのボリュート形状によって、羽根車に作用するラジアルスラストが変わるのですが、それでは、どのようにしてラジアルスラストが分かるので
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2-4ポンプのケーシングガスケットポンプは言うまでもありませんが、圧力容器の1つです。
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2-5ポンプの羽根車形式羽根車は主軸に固定された回転体の1つで、主軸と一体で回転します。そして、その回転によってポンプの液にエネルギーを与えます。
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2-6ポンプの羽根車によるアキシャルスラストポンプの運転中には、羽根車に半径方向に作用するラジアルスラストの他に、軸方向にアキシャルスラストが作用します。
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2-7ポンプのライナリングとインペラリングライナリングはケーシングに取り付けられているリングで、インペラリングは羽根車に取り付けられているリングです。
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2-8ポンプに使うグランドパッキングランドパッキンは、グランドパッキンと主軸の冷却及び潤滑のために、図2-8-1に示すように、フラッシング液を漏らしながら使用されます。
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2-9ポンプに使うメカニカルシールメカニカルシールもグランドパッキンと同様に、摺動部の冷却及び潤滑のために、フラッシング液が必要になります。
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2-10ポンプの軸受ハウジングと付属部品軸受ハウジングは、羽根車などの回転体の静的荷重と振動による動的荷重、羽根車に作用するラジアルスラストとアキシャルスラストなどを間接的に支え
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2-11ポンプのラジアル軸受とアキシャル軸受軸受はポンプが発生する荷重を支えるために必要になり、主軸及び軸受ハウジングに取り付けられます。
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2-12ポンプの軸受潤滑方式軸受の潤滑方式には、表2-12-1に示すように、グリス密封、グリス、オイルバス、オイルミスト、強制給油があります。
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2-13ポンプのオリフィスポンプそのものに付く部品ではないのですが、流量を調整するためにオリフィスという部品があります。
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2-14ポンプに使うサイクロンセパレータ研磨後の廃液に溜まった研磨粉の回収、食品の製造過程における原材料の分級、微粒子の分級及び分離、排ガスから発生した汚染物質の除去などに使用さ
第3章 ポンプの据付けと試運転
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3-1ポンプによる基礎の荷重ポンプから基礎にどのぐらいの荷重がかかるのでしょうか。その前にまず、どのような荷重があるのか考えてみます。
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3-2ポンプに作用する配管荷重による基礎の荷重次は、「3-1 ポンプによる基礎の荷重、表3-1-1 ポンプの基礎荷重」にある配管荷重及び配管モーメントについて説明します。
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3-3ポンプの据付け超大形のポンプやモータでない限り、ポンプとモータは図3-3-1に示すように、共通ベースに取り付けられた状態で現地に到着します。
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3-4ポンプの始動ポンプの据付けが完了しても、ポンプは始動できるわけではありません。始動する前に、横軸ポンプはポンプ内及び吸込配管内にある空気をすべて抜く必要
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3-5ポンプの回転方向の確認ポンプ内及び吸込配管内の空気抜きが終わり、ポンプの運転に必要になる冷却水などのユーティリティの供給を開始すれば、ポンプは始動できる状態にあります
第4章 ポンプの運転
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4-1ポンプの減速運転省エネルギーのために、ポンプはインバータやベルトを使って減速運転されることがあります。
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4-2ポンプの増速運転ポンプの駆動機が三相交流モータの場合、モータのスリップがないときのモータの同期速度Ncyは、電源の周波数をf、モータの極数をPとすると、Ncy=120
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4-3密閉管路内のポンプ運転ポンプが密閉管路の装置内で運転されている場合、液の温度上昇はどうなるのでしょうか。
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4-4ポンプへの空気の侵入防止ポンプや配管の内圧が大気圧力より低い場合、ポンプや配管内に空気が外部から侵入することがあります。
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4-5空気を含んだポンプの運転ポンプや配管内に空気が外部から侵入しないとしても、パルプ液や復水などのように、液そのものに空気が混入している場合はどうしたらよいでしょう
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4-6ポンプ吸込側のレジューサポンプや配管内に空気が外部から侵入しない対策、及び液そのものに空気が混入している場合の対策は必要なのですが、これらに加え、吸込配管内の上部
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4-7ポンプ吸込渦と初生キャビテーションポンプと配管の設置スペースの関係で、ポンプの吸込口に曲管が付いていることがあります。ポンプの吸込口直前に曲管が付いていると、図4-7-1に示すよ
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4-8ポンプの並列運転ポンプを2台以上使って、並列に設置して同時に運転する場合を並列運転と呼びます。ここでは、同じ性能のポンプを2台使った並列運転について説明します
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4-9ポンプの直列運転ポンプを2台以上使って、並列に設置して同時に運転する場合を並列運転と呼びます。ここでは、同じ性能のポンプを2台使った並列運転について説明し
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4-10ポンプのウォーミングと冷却水少しの時間も送液を止められない重要なポンプでは、予備機を設けると安心です。2台のポンプを並列で設置して、どちらか一方のポンプを運転します。
第5章 ポンプの保守点検と省エネルギー
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5-1ポンプの点検日常、ポンプの状態を点検することは重要なのですが、ポンプの台数が多いと大変です。
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5-2ポンプの修理、改造および取替え安価な汎用ポンプでない限り、ポンプは何度も修理して使用し続けます。
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5-3ポンプの省エネルギーの着眼点ポンプに限りませんが、省エネルギーと言うとインバータと言われるほどインバータが普及しています。
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5-4ポンプの省エネルギーの具体策「インペラカット」は、図5-4-1に示すように、羽根車の外周を旋盤で加工して、羽根車直径をD1からD2のように小さくすることを言います。
第6章 ポンプのトラブルと対策
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6-1ポンプトラブルの分類と原因分析ポンプでは予期しなくとも残念ながらトラブルが発生します。
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6-2ポンプトラブルの技術的原因ポンプを設計して製造するためには、設計技術、製造技術、購入技術、検査技術は必要ですが、顧客との窓口になる営業技術も大切です。
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6-3ポンプトラブルの人的原因技術的原因では、技術者が関与した技術を主体として原因を挙げています。
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6-4ポンプトラブルの経済的原因国内では昔、ポンプの売上げは経済成長率並みで、伸びは緩やかだが落ち込みはないと言われていました。
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6-5ポンプトラブルを減らすためのアプローチ家庭電化製品などでは、機器にトラブルが起こると、どのように対応したらよいか取扱説明書などに記載されています。
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6-6ポンプトラブルを減らすための日常の対応ポンプメーカの技術者は、日常煩雑な業務に当たっていると思います。そして、トラブルはある日突然に予告なく襲ってきます。