機械部品の熱処理・表面処理基礎講座

機械部品にはいろいろありますが、その多くは熱処理によって機械的性質を制御されています。さらに表面処理を適用すれば、表面には新たな特性が追加されて高性能・長寿命化は当然であり、付加価値も飛躍的に高まります。
本講座(全8章50講座)では、機械部品に用いられている金属材料(主に鉄鋼材料)の種類と、それらに適用されている熱処理(焼なまし、焼入れなど)および表面処理(浸炭・窒化処理、めっき、PVD・CVDなど)について、概略と特徴を紹介します。
第5章 非鉄金属とその熱処理

5-3 チタン合金とその熱処理

チタンは、密度が鉄の約1/4ですから軽量金属材料として分類されており、しかも比強度が高く、耐食性も優れています。そのため、機械工業や輸送用機器など軽量高強度を要求される構造部品、化学工業や船舶など耐食性を重視する機器などに利用されています。

チタンの耐食性は、とくに塩素(Cl)イオンを含む海水のような環境や硝酸のような酸化性酸の雰囲気では優れています。しかし、硫酸や塩酸のような非酸化性酸の環境ではあまりよくありません。この耐食性の優れている理由は、表面の安定な酸化物皮膜(TiOやTiO2)の形成によるもので、これはチタンが酸素との親和力が極めて大きいことを示しています。

JISではJIS H 4650に、4種類の純Ti(1~4種)、耐食合金として13種類のTi-Pd合金やTi-Ru合金(11~23種)、1種類のTi-Al合金(50種)、5種類のTi-Al-V合金(60種、61種、80種)を規定しています。純Tiは耐海水性が優れ、Ti-Pd合金およびTi-Ru合金は耐すきま腐食性が良好であり、Ti-Al-V合金は高強度で耐食性が優れています。

表1に、主なチタンおよびチタン合金の種類を示すように、合金成分によって金属組織が異なります。純チタンの金属組織はα相(稠密六方晶)ですが、合金成分の種類や量によって、β相(体心立方晶)やα相とβ相の混相を呈します。例えば、合金元素としてのアルミニウム(Al)の添加はα相領域を拡げ、固溶強化に有効です。また、バナジウム(V)やモリブデン(Mo)の添加はβ相領域を拡げ、析出強化に有効です。

表1 チタンおよびチタン合金棒の種類と特徴・用途

種類 合金の組成 組織 特徴 用途
1種 工業用純チタン α相   耐食性に優れる、とくに耐海水性に優れる。 化学装置、石油精製装置等
50種  Ti-1.5Al  耐食性に優れる、とくに耐海水性がよい。 二輪車マフラー等 
耐水素吸収性、耐熱性がよい。
60種 Ti-6Al-4V α-β相    高強度で耐食性がよい。 化学工業、輸送機器等の構造材
60E種 Ti-6Al-4V ELl ※1 高強度で耐食性がよい。極低温までじん性を保つ。 有人深海調査船の船殻、クライオスタット容器、医療材料等
61種 Ti-3Al-2.5V 中強度で耐食性、溶接性及び成形性がよく、冷間加工性に優れる。  医療材料、レジャー用品等
61F種 Ti-3Al-2.5V ※2 中強度で耐食性及び熱間加工性がよく、切削性に優れる。 自動車用エンジンコンロッド、シフトノブ、ナット等
80種 Ti-4Al-22V Β相 高強度で耐食性に優れ、常温でのプレス加工性がよい。 自動車用エンジンリテーナー、ゴルフクラブのヘッド、ボルト等

(1) α相の合金:熱処理では強度を高めることはできませんが、圧延加工など塑性加工によって著しく高強度化します。耐食性が優れており、とくに耐海水性が優れています。

(2) α相とβ相の混相合金:熱処理(固溶化熱処理→時効処理)によって強度をコントールすることができます。高耐食・高強度を要する製品や部品によく利用されています。

(3) β相の合金:チタン合金の中では、熱処理によって最も高い強度を得ることができます。α相やα相とβ相の混相合金は常温での塑性加工が困難ですが、β相の合金は固溶化熱処理後の塑性加工が容易です。

チタン合金の中でも最もよく利用されている合金は、α相とβ相の混相合金であるTi-Al-V合金です。表1に示すように、その種類にはTi-6Al-4V合金(60種)、Ti-3Al-2.5V合金(61種)およびTi-4Al-22V合金(80種)があり、焼なましまたは固溶化熱処理後の強度も高いことを特徴としています。これらの合金は、固溶化熱処理後の時効処理によってさらに強度を高めることができ、その程度は熱処理条件によって大きく異なります。

表2に、Ti-6Al-4V合金の熱処理後の機械的性質の一例を示します。明らかに熱処理によって強度は高くなっており、しかも熱処理条件の影響が大きいことが分かります。なお、チタンは400℃以上の温度で加熱すると、雰囲気中の酸素や窒素と容易に反応して表面に酸化物や窒化物を生じます。そのため、チタン合金を熱処理する際は、温度条件だけでなく加熱雰囲気にも十分に留意する必要があります。例えば、真空熱処理炉を用いて光輝熱処理する際は、たとえ加熱時の圧力が高真空であっても、炉内に酸素や窒素が残留している場合には表面反応して変色します。すなわち、チタン合金を真空熱処理する際には、アルゴンガスやヘリウムガスなど不活性ガスを用いて、炉内を置換しなければなりません。

表2 Ti-6Al-4V合金の熱処理と機械的性質の一例

熱処理 引張強さ MPa 耐力(MPa) 伸び(%)
焼なまし 930 862 13
760℃、30分水冷→593℃、8時間空冷 1117 1049 9
926℃、30分水冷→482℃、2時間空冷 1362 1235 20
843℃、1時間水冷→538℃、24時間空冷 1019 1000 16
954℃、1時間→538℃、24時間空冷 1156 1078 9
執筆:仁平技術士事務所 所長 仁平宣弘

『機械部品の熱処理・表面処理基礎講座』の目次

第1章 機械部品に用いられる材料

第2章 鉄鋼製品に実施されている熱処理の種類とその役割

第3章 機械構造用鋼の焼入れ・焼戻し

第4章 ステンレス鋼とその熱処理

第5章 非鉄金属材料とその熱処理

第6章 機械部品に対する表面処理の役割

第7章 機械部品を対象とした主な表面処理

第8章 機械部品の損傷と調査法

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