遠心ポンプの基礎講座
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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5-2 ポンプの国際的な設計規格
ポンプに関する国際的な設計規格として、下記に示す「API 610」、「ANSI B 73.1」及び「ISO規格」があります。
- 規格番号
- API 610
- 規格名称
- Centrifugal pumps for petroleum, petrochemical and natural gas industries
- 適用
- ポンプの型式…片持6種類/両持5種類/立型7種類
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概要
経験上、次のいずれか一つでも超える場合に適用すると、コストに見合う効果が期待できる。
(1) 吐出し圧力19 bar
(2) 吸込圧力5 bar
(3) 取扱液温150 ℃
(4) 回転速度3600 min-1
(5) 全揚程120 m
(6) 羽根車直径(片持ポンプに限り)330 mm
- 規格番号
- ISO 13709
- 規格名称
- API 610と同一 しかし、2012年APIはISOから分かれた
- 規格番号
- ANSI B 73.1
- 規格名称
- Centrifugal pumps for petroleum, petrochemical and natural gas industries
- 適用
- ポンプの型式…横軸単段-エンド・トップ
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概要
ポンプの寸法、吐出し量と全揚程の標準要目が規定されている。
- 規格番号
- ISO 2858
- 規格名称
- End-suction centrifugal pumps (rating 16 bar) - Designation, nominal duty point and dimensions
- 適用
- ポンプの型式…横軸単段-エンド・トップ
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概要
最高使用圧力は16bar。ポンプの寸法、吐出し量と全揚程の公称要目が規定されている。
- 規格番号
- ISO 9905 (JIS B 8307)
- 規格名称
- 遠心ポンプの技術仕様-クラスⅠ
- 適用
- ポンプの型式…単段・多段、横軸、立型、直動
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概要
遠心ポンプに対するクラスⅠ(最も厳しい)の要求事項について標準化を行い、生産及び使用の合理化、品質の向上を図るために制定した。発電用ポンプに適用されると考えられる。
- 規格番号
- ISO 5199 (JIS B 8308)
- 規格名称
- 遠心ポンプの技術仕様-クラスⅡ
- 適用
- ポンプの型式…単段・多段、横軸、立型、直動
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概要
一般用途の単段、横軸又は立軸で、あらゆる駆動及び据え付け方式の遠心ポンプに対するクラスⅡの要求事項について標準化を行い、生産及び使用の合理化、品質の向上を図るために制定した。化学用ポンプに適用されると考えられる。
- 規格番号
- ISO 9908 (JIS B 8309)
- 規格名称
- 遠心ポンプの技術仕様-クラスⅢ
- 適用
- ポンプの型式…単段・多段、横軸、立型、直動
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概要
一般用途の単段、多段、横軸又は立軸構造(直結式又は直動式)で、あらゆる駆動及び据付方式の遠心ポンプに対するクラスⅢの要求事項について標準化を行い、生産及び使用の合理化、品質の向上を図るために制定した。汎用ポンプに適用されると考えられる。
「API 610」は、石油精製用ポンプのために制定された米国石油協会(American Petroleum Institute、「米国石油学会」と訳すこともあります)が発行している規格です。 しかし、実際には日本を含め世界中で、石油精製用だけでなく原子力発電用ボイラ給水ポンプや火力発電用ボイラ給水ポンプなどにも適用されている、世界で最も厳しい設計規格です。 ISOでは「API 610」と同じ規格として、後追いで「ISO 13709」を発行しています。この詳しい経緯は、「日刊工業出版、 「ターボ機械」2007年8月号石油・石油化学及び天然ガス工業用ポンプ規格ISO 13709/API 610の最新動向と展望」を参照してください。
現在「API 610 第11版(2010年9月発行)」と同じ規格として「ISO 13709 第2版(2009年12月15日発行)」があります。 両者の規格は、APIの作業部会とISOの作業部会が合同で規格を審議してきた経緯があって、両者は表紙だけ違っているだけで、その他は全て同一です。 しかし、2012年にAPIはISOから脱退したのです。現在API 610は、ISO 13709とは無関係に第12版の発行に向けて最終の作業を行っています。 1年後には、両者は異なった内容の規格になるのは必須と考えられます。
「ANSI B 73.1」は、規格の名称どおり化学工業ポンプ用として使用されています。この規格では、ポンプの寸法、吐出し量及び全揚程の標準要目を規定しているので、ポンプメーカによらず全て取付け寸法が同一で互換性があります。
「ISO 2858」は、1975年に制定された設計規格です。「ANSI B 73.1」と同様に、ポンプの寸法、吐出し量及び全揚程の標準要目が規定されています。 ポンプのJIS規格のいくつかは、この規格を参考にして改定されています。「ISO 5199」は、極まれに使用されることがありますが、「ISO 9905」と「ISO 9908」は、ほとんど使われることがありません。
まとめると、国際的な設計規格は、現在「API 610」と「ANSI B 73.1」の2つの規格がよく使用されています。 「API 610」は厳しい用途においても高い信頼性が必要になるポンプ用として使われ、「ANSI B 73.1」はさほど厳しくはない用途に使われています。
設計規格の厳しさとポンプの価格には相関関係があります。つまり、厳しい設計規格を適用したポンプは価格が高くなります。何も適用規格がないポンプは、低価格で製造できます。参考として、これらを設計仕様の厳しさとポンプの価格を関係付けて表5-2-2に示します。
表5-2-2 設計規格の比較

『遠心ポンプの基礎講座』の目次
第1章 ポンプの基礎
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1-1ポンプの概況1国内では毎年400万台のポンプを生産していますが、現在国内で運転されているポンプは何台になるのでしょうか。
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1-2ポンプの概況2専用に使用されるポンプには、雨水ポンプ、汚水ポンプ、汚泥ポンプ、グラインダーポンプ、消火ポンプ、石炭輸送ポンプ、LNGポンプ、熱媒ポンプ、人工心臓血液ポンプなどいろいろとあります。
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1-3ポンプの概況3単段ポンプでは圧力が足りない場合、羽根車数を多くした多段ポンプを使用します。ここでは、輪切り多段ポンプ、水平割り多段ポンプ及び二重胴多段ポンプの3種類に分けて紹介します。
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1-4ポンプの種類ポンプの種類は作動原理からみると、ターボ形、容積形などに分類でき、また構造上からは、横軸、立軸、単段、多段などに分類できます。
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1-5ポンプの特徴「1-4 ポンプの種類」において、API 610という規格にしたがったポンプの記号を説明しました。ここでは、各記号のポンプそれぞれの特徴を掘り下げて説明します。
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1-6ポンプの用途ポンプは、電力、自動車、建設機械、船舶、鉄鋼、石油精製、石油化学、化学、食品、パルプ、医療など、国内外のほとんどの産業分野において、送液、循環、加圧用などとして使用されています。
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1-7国内のポンプ生産ポンプがどのぐらい生産されているのかを見てみましょう。経済産業省はホームページに、国内におけるポンプ形式別の生産台数及び生産金額の統計を公表しています。
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1-8世界のポンプ生産それでは世界のポンプ生産はどうでしょうか。少し古いのですが、「the McIlvaine Company」の統計によると、世界におけるポンプの生産金額は、図1-8-1に示すように、2000年には米ドルで200億ドルとなっています。
第2章 ポンプの豆知識
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2-1ポンプで使用する記号ポンプの特性や仕様を指定するときに、一般に使用されている用語の代りに、よく記号を使っています。
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2-2ポンプで使用する単位と換算方法ポンプで使用する記号は、世界的な規格がないためにさまざまあります。また、ポンプで使用する単位は「SI単位」が世界的な標準なのですが、 実際には「CGS系単位」や「工学系単位」もまだ多く使われています。
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2-3ポンプの圧力と圧力計の読み方ポンプを設置して試運転のとき、ポンプが正規の圧力を出しているかどうか確認する必要があったり、使い始めて数年経過してポンプの圧力がどの程度低下しているかを確認したりすることがあります。
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2-4ポンプの特性を表す比速度遠心ポンプにおいて、特性を表わすための値として、吐出し量、全揚程、効率、回転速度、NPSH3などがあります。
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2-5ポンプの吸込性能を表す吸込比速度ポンプの特性や形状を表す特性数に比速度Nsがあります。似たような特性数として、吸込比速度Sというものがあります。
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2-6ポンプの吸込揚程と求め方「このポンプは何m吸い上げられるか」ということが、話題になることがあります。図2-6-1に示すhaが吸い上げることができる高さ、すなわち吸込揚程になります。
第3章 ポンプの性能
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3-1ポンプの性能曲線の見方ポンプの性能は、吐出し量を基に、それぞれの吐出し量に対する全揚程、効率、軸動力、NPSH3、電流などの能力のことをいいます。
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3-2ポンプの効率遠心ポンプの効率について規定している規格として、国内では次のJIS規格があります。
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3-3ポンプの回転速度の変化吐出し量を少なくしたい、吐出し圧力を下げたいなど何らかの事情によって、ポンプの性能を下げる必要があることがあります。
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3-4ポンプの吸込口と吐出し口の口径ポンプには吸込口と吐出し口があります。そして、ポンプを運転するためには、一部の水中ポンプを除き、吸込配管及び吐出し配管が必須であり、弁、ストレーナなどを含めてポンプに付設されます。
第4章 ポンプの選定
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4-1ポンプの選定ポイント基本的には、購入者が横軸、立形などポンプの形式を指定します。そして、ポンプメーカは指定された形式で仕様が満足できるかどうかを確認して、最適なポンプを選定します。
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4-2ポンプの選定ポンプが必要なとき、どのようにポンプを選定するのがよいのでしょうか。用途や使用年数などによって、当然選定するポンプは変わります。
第5章 知っておきたいポンプの技術
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5-1ポンプの国内の設計規格ポンプは、目指す市場に適当と考えられる設計規格に適合または準じて設計されています。
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5-2ポンプの国際的な設計規格ポンプに関する国際的な設計規格として、表5-2-1に示す「API 610」、「ANSI B 73.1」及び「ISO規格」があります。
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5-3ポンプのシールの漏れ量ここで取り上げたいシールは、軸封に使用するメカニカルシール及びグランドパッキン、軸受ハウジング内の潤滑油を外部に漏れないようにシールするデフレクタ及びオイルシールの4つの部品です。
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5-4ポンプで使うシールの選定遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及びシールです。
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5-5ポンプのNPSHAとNPSH3前節「2-6 ポンプの吸込揚程と求め方」において、NPSHAとNPSH3の意味及び両者の関係を説明しています。要約すると、次のようになります。
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5-6ポンプの吸込ストレーナ吸込ストレーナのメッシュは、想定される異物が通過できない大きさにする必要があります。または、ある大きさ以下の異物がポンプに混入しても問題なければ、その大きさにします。
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5-7ポンプの吸込口、吸込タンク及び吸込配管ポンプは吸込口から空気を吸い込むことを避ける必要があります。
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5-8横軸ポンプ始動前の空気抜きポンプは流体機械の1つと定義されています。流体機械は、液を扱うポンプと気体を扱う送風機及び圧縮機があるので、正確に言うと、真空ポンプを除き、ポンプは液体機械なのです。
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5-9ポンプの締切運転ポンプの締切運転、すなわち吐出し量が零(0)のときでも、図5-9-1に示すように、ポンプには軸動力S (kW)が負荷されています。
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5-10ポンプの全揚程と吐出し圧力の関係ポンプの吐出し圧力は、ポンプの性能曲線に示される全揚程を圧力に換算した値と同じではありません。吸込圧力を考慮する必要があります。
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5-11ポンプの性能曲線と運転点の関係ポンプは独自に自由に運転点を決めることはありません。ポンプには吸込配管及び吐出し配管が必要です。
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5-12ポンプの保護装置ポンプの保護装置には、異常を引き起こさないためにあらかじめ設けるミニマムフローラインがあり、また、機能の異常を検知してポンプを停止するために、振動計、温度計、漏洩検知器などの機器があります。
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5-13ポンプの管理基準管理標準とは、ここではポンプに関することに限定し、トラブルを最小限に抑えて必要経費を縮減するために、点検項目を決めて管理するための基準とします。
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5-14ポンプの標準化「標準化」とは、広辞苑によると、「工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること。これによって互換性を高める。」とあります。