遠心ポンプの基礎講座
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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5-14 ポンプの標準化
「標準化」とは、広辞苑によると、「工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること。これによって互換性を高める。」とあります。 これを「ポンプの標準化」にあてはめると、「ポンプの標準化」とは、「ポンプの品質・形状・寸法を標準に従って統一し、これによって互換性を高める」ことになります。
ポンプには、横軸単段、立軸単段、横軸多段、立軸多段など各種の形式があり、またそれぞれの形式において、小さいポンプから大きいポンプまで大きさも様々あります。一般には、生産台数が多い形式のポンプを標準化すると利点が大きくなります。
これに加え、トラブルを起こした経験を洗い出して、標準化の中に今後起こらないような工夫をして、トラブルの低減を目指します。
「ポンプの標準化」には、キーワードが6つあります。品質、形状、寸法、標準、統一、互換性の6つです。それぞれ具体的にはどのようなことなのでしょうか。
- a.品質
- ポンプの性能を安定させます。結果として、同じ性能が得られます。
- ボックスリスト内容
- b.形状
- ポンプ及び構成する部品の形状を統一します。
- ポンプの外観を統一します。したがって、どこのポンプメーカのポンプであるか見ただけで分かります。
- c.寸法
- ポンプを設計するときに、標準に従って設計するために、寸法を決めるときに迷うことがありません。
- 使用する部品も、標準にある部品の中から最適な部品を選定できます。
- d.標準
- 使用する部品を小さいものから大きいものまで、寸法と適用基準を決めます。
- 設計手法を決めます。
- この「標準」は、ポンプメーカでは「設計基準」として社内規格になっています。
- e.統一
- だれが設計しても、同じポンプになります。
- f.互換性
- 特定の形式のポンプにおいて、大きさが異なるポンプでも使用している部品が同じ場合があります。
- 異なる形式のポンプ間でも、使用している部品が同じ場合があります。
- 部品の調達や予備品の在庫において、種類を減らすことができるので、管理が容易になります。
設計者としては、吐出し量、圧力など購入者の要項に合わせてその都度新規に設計するのは時間的に大変です。標準化するには時間がかかりますが、一度標準化してしまえば、あとはそれを利用するだけです。 製造面を考えると、ケーシング、カバー、羽根車などの部品は、木型や金型を作って鋳造して製造します。 もし、その都度異なる寸法で製造するとすれば、その都度木型や金型を作る必要が出てきます。したがって、標準化には、設計の省力化、製造の省力化などのメリットがあります。
一方で、設計が定型化されるので、新規設計する力が身に付かないなどのデメリットもあります。それでは、メリットとデメリットをまとめてみましょう。
- メリット
- ア.設計及び製造が省力化できます
- イ.設計コスト及び製造コストを縮減できます
- ウ.設計方法を数値化すれば、コンピュータを活用できます
- エ.他の形式のポンプにも適用できます
- オ.新規設計するときに、「標準」を利用できます
- デメリット
- ア.設計が定型化されるので、新規設計する力が身に付きません
- イ.標準を改定したとき、周知徹底する基準が必要になります
- ウ.外部に漏れるのを防止する手段が必要になります
a.ポンプの標準化フローの必要性
それでは、どのように「ポンプの標準化」を行うのか、具体的にフローを使って説明します。
b.ポンプの標準化フローの項目
ポンプの標準化フローは、項目を挙げると、表5-18-1に示すように、Aから始まってGで完了します。 作業は、Aから始めるのですが、B、C、・・・と順番に進めて行って、強度不足などの支障があれば、また前に戻って修正します。 つまり、「A→B→C→D→B→C→D→C→D→E・・・・・」のように、前に戻ることが頻繁にあります。
表5-14-1 標準化のフロー
A | ニーズを把握します |
---|---|
B | 設計仕様を決めます |
C | ハイドロを決めます |
D | 詳細を設計します |
E | 技術資料を作ります |
F | 製作図、手配資料などを作ります |
G | 販売技術資料を作ります |
それでは、項目ごとに詳細を見ていきましょう。
A.ニーズを把握します
- ア.市場調査をします
- イ.競合他社のポンプを調査します
- ウ.見積り部門及び営業部門の意見を聞きます
- エ.ポンプのグレードを決めます
- オ.モデルチェンジの場合には、過去の問題点やトラブルを整理します
- カ.価格をチェックします
B.設計仕様を決めます
- ア.適用規格
- イ.標準とオプション
- ウ.取扱温度と取扱液
- エ.口径と回転速度
- オ.構成部品の材料
- カ.最高吸込圧力と最高使用圧力
- キ.設計条件
設計温度、設計圧力、密度、主軸K値、ケーシング・ボルト・羽根車・キー・カップリングの各許容応力 - ク.構造
ケーシングの分割、ケーシングの構造、羽根車、軸封、スラスト支持、軸受、カップリング、フラッシング、カバー - ケ.ノズルのレイティングと方向
- コ.回転方向
- サ.クリアランス
- シ.軸系列と軸端形状
- ス.ケーシングのボスの数
C.ハイドロを決めます
ハイドロとは、羽根車及びケーシングの通液路の形状及び寸法のことを言います。
- ア.選定表を作ります
- イ.予想代表曲線を作ります
D.詳細を設計します
- ア.コスト計算
- イ.スラスト計算
- ウ.他機種との部品の共用
- エ.軸系列
- オ.軸封―メカニカルシール、グランドパッキン
- カ.カップリング
- キ.危険速度とたわみ
- ク.カバーフランジ
- ケ.主軸強度
- コ.軸受寿命
- サ.ケーシングの肉厚
- シ.計画図を作ります
E.技術資料を作ります
- ア.カタログ
- イ.代表曲線
- ウ.デビエーションリスト
- エ.外形図、単体図
- オ.断面図
- カ.配管図
- キ.軸受詳細図
- ク.互換性リスト、予備品リスト、工具リスト
- ケ.スタフィングボックス詳細図
- コ.軸封の選定基準
- サ.騒音データ
- シ.テクニカルデータ
ボリュートタイプ、羽根車最大径・最小径、クリアランス表、重量表、ケーシング内容積、水冷基準、ケーシング最大径・肉厚、メカニカルシール適用表、水切り径、危険速度とたわみ、材料組合せ表、許容配管荷重及びモーメント、潤滑油リスト、スペーサ長さ
F.製作図、手配資料を作ります
G.販売技術資料を作ります
『遠心ポンプの基礎講座』の目次
第1章 ポンプの基礎
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1-1ポンプの概況1国内では毎年400万台のポンプを生産していますが、現在国内で運転されているポンプは何台になるのでしょうか。
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1-2ポンプの概況2専用に使用されるポンプには、雨水ポンプ、汚水ポンプ、汚泥ポンプ、グラインダーポンプ、消火ポンプ、石炭輸送ポンプ、LNGポンプ、熱媒ポンプ、人工心臓血液ポンプなどいろいろとあります。
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1-3ポンプの概況3単段ポンプでは圧力が足りない場合、羽根車数を多くした多段ポンプを使用します。ここでは、輪切り多段ポンプ、水平割り多段ポンプ及び二重胴多段ポンプの3種類に分けて紹介します。
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1-4ポンプの種類ポンプの種類は作動原理からみると、ターボ形、容積形などに分類でき、また構造上からは、横軸、立軸、単段、多段などに分類できます。
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1-5ポンプの特徴「1-4 ポンプの種類」において、API 610という規格にしたがったポンプの記号を説明しました。ここでは、各記号のポンプそれぞれの特徴を掘り下げて説明します。
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1-6ポンプの用途ポンプは、電力、自動車、建設機械、船舶、鉄鋼、石油精製、石油化学、化学、食品、パルプ、医療など、国内外のほとんどの産業分野において、送液、循環、加圧用などとして使用されています。
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1-7国内のポンプ生産ポンプがどのぐらい生産されているのかを見てみましょう。経済産業省はホームページに、国内におけるポンプ形式別の生産台数及び生産金額の統計を公表しています。
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1-8世界のポンプ生産それでは世界のポンプ生産はどうでしょうか。少し古いのですが、「the McIlvaine Company」の統計によると、世界におけるポンプの生産金額は、図1-8-1に示すように、2000年には米ドルで200億ドルとなっています。
第2章 ポンプの豆知識
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2-1ポンプで使用する記号ポンプの特性や仕様を指定するときに、一般に使用されている用語の代りに、よく記号を使っています。
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2-2ポンプで使用する単位と換算方法ポンプで使用する記号は、世界的な規格がないためにさまざまあります。また、ポンプで使用する単位は「SI単位」が世界的な標準なのですが、 実際には「CGS系単位」や「工学系単位」もまだ多く使われています。
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2-3ポンプの圧力と圧力計の読み方ポンプを設置して試運転のとき、ポンプが正規の圧力を出しているかどうか確認する必要があったり、使い始めて数年経過してポンプの圧力がどの程度低下しているかを確認したりすることがあります。
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2-4ポンプの特性を表す比速度遠心ポンプにおいて、特性を表わすための値として、吐出し量、全揚程、効率、回転速度、NPSH3などがあります。
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2-5ポンプの吸込性能を表す吸込比速度ポンプの特性や形状を表す特性数に比速度Nsがあります。似たような特性数として、吸込比速度Sというものがあります。
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2-6ポンプの吸込揚程と求め方「このポンプは何m吸い上げられるか」ということが、話題になることがあります。図2-6-1に示すhaが吸い上げることができる高さ、すなわち吸込揚程になります。
第3章 ポンプの性能
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3-1ポンプの性能曲線の見方ポンプの性能は、吐出し量を基に、それぞれの吐出し量に対する全揚程、効率、軸動力、NPSH3、電流などの能力のことをいいます。
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3-2ポンプの効率遠心ポンプの効率について規定している規格として、国内では次のJIS規格があります。
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3-3ポンプの回転速度の変化吐出し量を少なくしたい、吐出し圧力を下げたいなど何らかの事情によって、ポンプの性能を下げる必要があることがあります。
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3-4ポンプの吸込口と吐出し口の口径ポンプには吸込口と吐出し口があります。そして、ポンプを運転するためには、一部の水中ポンプを除き、吸込配管及び吐出し配管が必須であり、弁、ストレーナなどを含めてポンプに付設されます。
第4章 ポンプの選定
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4-1ポンプの選定ポイント基本的には、購入者が横軸、立形などポンプの形式を指定します。そして、ポンプメーカは指定された形式で仕様が満足できるかどうかを確認して、最適なポンプを選定します。
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4-2ポンプの選定ポンプが必要なとき、どのようにポンプを選定するのがよいのでしょうか。用途や使用年数などによって、当然選定するポンプは変わります。
第5章 知っておきたいポンプの技術
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5-1ポンプの国内の設計規格ポンプは、目指す市場に適当と考えられる設計規格に適合または準じて設計されています。
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5-2ポンプの国際的な設計規格ポンプに関する国際的な設計規格として、表5-2-1に示す「API 610」、「ANSI B 73.1」及び「ISO規格」があります。
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5-3ポンプのシールの漏れ量ここで取り上げたいシールは、軸封に使用するメカニカルシール及びグランドパッキン、軸受ハウジング内の潤滑油を外部に漏れないようにシールするデフレクタ及びオイルシールの4つの部品です。
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5-4ポンプで使うシールの選定遠心ポンプの主要な構成部品は、ケーシング、羽根車、主軸、軸受及びシールです。
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5-5ポンプのNPSHAとNPSH3前節「2-6 ポンプの吸込揚程と求め方」において、NPSHAとNPSH3の意味及び両者の関係を説明しています。要約すると、次のようになります。
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5-6ポンプの吸込ストレーナ吸込ストレーナのメッシュは、想定される異物が通過できない大きさにする必要があります。または、ある大きさ以下の異物がポンプに混入しても問題なければ、その大きさにします。
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5-7ポンプの吸込口、吸込タンク及び吸込配管ポンプは吸込口から空気を吸い込むことを避ける必要があります。
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5-8横軸ポンプ始動前の空気抜きポンプは流体機械の1つと定義されています。流体機械は、液を扱うポンプと気体を扱う送風機及び圧縮機があるので、正確に言うと、真空ポンプを除き、ポンプは液体機械なのです。
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5-9ポンプの締切運転ポンプの締切運転、すなわち吐出し量が零(0)のときでも、図5-9-1に示すように、ポンプには軸動力S (kW)が負荷されています。
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5-10ポンプの全揚程と吐出し圧力の関係ポンプの吐出し圧力は、ポンプの性能曲線に示される全揚程を圧力に換算した値と同じではありません。吸込圧力を考慮する必要があります。
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5-11ポンプの性能曲線と運転点の関係ポンプは独自に自由に運転点を決めることはありません。ポンプには吸込配管及び吐出し配管が必要です。
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5-12ポンプの保護装置ポンプの保護装置には、異常を引き起こさないためにあらかじめ設けるミニマムフローラインがあり、また、機能の異常を検知してポンプを停止するために、振動計、温度計、漏洩検知器などの機器があります。
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5-13ポンプの管理基準管理標準とは、ここではポンプに関することに限定し、トラブルを最小限に抑えて必要経費を縮減するために、点検項目を決めて管理するための基準とします。
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5-14ポンプの標準化「標準化」とは、広辞苑によると、「工業製品などの品質・形状・寸法を標準に従って統一すること。これによって互換性を高める。」とあります。