電気のおはなし
1-6 直列回路とは
スマホ、ノートパソコンなどの携帯電子機器ケースの内部には充電できる二次電池のホルダーが収納されています。 充電できない乾電池のような一次電池は、二次電池に比べて安価なのでモータで動く玩具とか懐中電灯などに幅広く使われています。 これら電池の基本となるセルの電圧は低いものが多いので高い電圧で動作する負荷にはセルを直列に接続して電源として使います。 一方、発光ダイオードLEDのように低電圧で動作する負荷素子を高圧電圧の電源で動作させるときには、素子を何個か直列に接続して使います。 これから電源や負荷に使われている直列回路の実例を見ていきましょう。
○乾電池の電源
乾電池一個の電圧は低いので3Vの電源電圧が必要な時には2本、6Vの電源電圧が必要な時には4本など何個かの電池をホルダーにいれて直列に接続して使っています(図1)。 最近は低電圧でも動作する集積回路やモータが増えてきたので直列に接続する電池の本数も減少傾向になっています。
- 図1:3V用電池ホルダーの例
- 図1:6V用電池ホルダーの例
図2:6V用電池ホルダーの直列接続と回路記号
○LEDイルミネーション
木々に巻き付けてクリスマスツリーを演出するイルミネーションには豆球に代わって発光色が豊富で発熱も少ないLEDが使われることが多くなってきました。 このような用途で商用電源100Vを整流した直流電源を使うときには数十個のLEDを直列に接続して点灯させます(図3)。 LEDの寿命を延ばすには直流電源に直列に電流制限抵抗などの電流制限回路を入れて定格の電流値以下で動作させます。
図3:直列接続されたテープLEDとその直列回路図
○電気自動車(EV)の電池電源
電気自動車の電源は外部の充電スタンドから充電できる大容量で高圧の充電池です。充電池の基本となるセルは、3.7V前後の低電圧です。
日産自動車のリーフではセルの電圧は3.75Vです。このセルを4個2並列2直列に接続しケースに収納し、15Vを出力するのがモジュールです。 モジュールを48個直列に接続し、DC360Vの高圧を供給するのがパックです(図4、5、6)。
- 図4-1:セル 3.75V
- 図4-2:モジュール 7.5V(2並列2直列)
- 図4-3:パック 360V(7.5V×48)
図4 日産自動車「リーフ」充電池の構成 ※24kWhモデルの場合 (出典:オートモーティブエナジーサプライ株式会社HP)
- 図5:日産自動車「リーフ」のカットモデル
- 図6:充電池パック内部の写真
○自然界の直列回路
落雷は、雷雲中の摩擦で発生し、蓄えられた高圧のマイナス電荷が一気に地上のプラス電荷へ向けて放電される現象です。 このとき雷雲と大地の間には一瞬、直列回路が形成されます。落雷には、次の図に示す直撃雷、誘導雷、逆流雷の三種類があります(図7)。
- 直撃雷
- 雷雲から高い木、建造物、アンテナ等を直撃して、落雷大電流が建造物を伝って大地へと流れる雷。
- 対策
- 高所に設置した避雷針で直撃雷を受け止め、落雷大電流を接地極から大地へと拡散して流します。
- 誘導雷
- 落雷大電流や雷雲間の放電などからの誘導作用により通信線や電力線にサージ電圧やサージ電流を発生させる雷。
- 対策
- 誘導雷による被害発生率は高いので避雷器を電気機器、電子機器、通信機器等に挿入して機器を守ります。
- 逆流雷
- 落雷電流が大地から接地線を通って機器へと逆流を起こす雷。侵入雷、接地雷サージともよばれています。
- 対策
- 避雷針の接地極と電気機器、電子機器、通信機器等の接地極の間に逆流が起こらないように施工します。
図7:落雷の種類
○自然界の直列回路
直撃雷に対しては避雷針を設置して先端のとがった突針からプラス電荷のお迎え放電を発生して雷雲から降下してくるマイナス電荷との間に落雷を誘導します。 落雷した雷電流は、避雷針から接地線を通して大地へと導いて拡散されます(図8)。
図8:落雷抑制避雷針と今までの避雷針
避雷針から大電流を接地線へ流すと近隣の電源線や通信線にサージ電流が発生して情報機器に被害を及ぼすことがあります。 この被害を避けたい場合には、保護対象範囲への落雷を抑える落雷抑制避雷針を設置します。 誘導雷や逆流雷に対してはSPDとかアレスターよばれている避雷器を電源線、通信線に設置して、雷電流を接地線から対地へ流すと同時に電子機器や電気機器に高圧が印加されるのを抑え、機器を保護します(図9)。
図9:様々な避雷器製品
○直列回路のまとめ
直列に接続された電源と直列にされた負荷の電圧と電流がどうなるかを表にまとめてみました。
直列回路のまとめ
直列回路 | ||
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電源 | 負荷 | |
電圧値 | 各電源電圧を加算 | 負荷値に応じて分圧 |
電流地 | 負荷電流と同じ | 電源電流と同じ |
『電気のおはなし』の目次
第1章 電気回路
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1-1回路とは漢字が示す通り、回って戻って来る路が回路です。回路を循環しているものが電気なら電気回路、電子なら電子回路になります。
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1-2回路の種類電気回路には大電流、大電力の発電系、送電系からの大工場、大型ショッピングモールなどの受電系、一般家庭の受電系、パソコン、スマホなどのプリント基板のパターンを流れる小電流回路、ICやLSI内部の微小電流まで扱う電流の大小により多くの種類があります。
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1-3交流回路とは交流波形をした電圧や電流が電源から負荷に流れているのが交流回路です。
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1-4直流回路とは直流電源を使用している回路や部品、機器、設備の内部には直流回路が形成されています。直流電源には直流発電機、電池、交流から直流に変換する電源アダプターなど多くの種類があります。
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1-5並列回路とは工場の電動機や照明等の負荷への配線、オフィスの複写機、パソコン等の負荷への配線、住宅内のエアコン、家電品等の負荷への配線など電力会社から受電した電気を負荷へ供給している配線回路のほとんどが並列回路を形成しています。
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1-6直列回路とはスマホ、ノートパソコンなどの携帯電子機器ケースの内部には充電できる二次電池のホルダーが収納されています。 中
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1-7分岐回路とは退避線のある駅に各駅停車の電車が近づくと本線から分岐された線路を通って目的のプラットホームへと向かい停車します。
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1-8遮断回路とは地震や火災、風水害が発生した時や保守点検、工事安全確保が必要な場合や目的に達した時に電路と切り離し動作を行う回路に遮断回路があります。
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1-9プリント配線板とは電子回路や電気回路の配線の一部を印刷して展開した板をプリント配線板とよんでいます。
第2章 電気の測定
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2-1電気回路測定の心得電気回路の測定に入る前に測定する周囲の電場環境や磁場環境など周囲環境が電気回路や電子回路にどのような影響を与えているのかを調べておきたいと思います。
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2-2電圧の測定電圧の測定器はメーターの針で測定値を示す指針型のアナログ計器とLEDや液晶の表示器に測定値を数字で示すデジタル計器とにわけられます。
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2-3電流の測定電圧の測定で紹介した回路計(マルチメータ)の電流測定機能と測定範囲は機種によって異なっています。
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2-4抵抗の測定抵抗測定というと、Ωレンジへ切り替えて測定するテスタ、マルチメータをイメージしてしまいがちです。
第3章 回路計
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3-1テスター(回路計)とはテスターは、機種により装備している機能が異なりますが電気回路、電子回路の電圧や電流、電子部品の抵抗、容量などが手軽に測定できる便利な測定器です。
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3-2アナログテスターの使い方アナログテスターの電圧や電流の測定では測定部位にテストリードのテストピンをあてがいます。テストピンで取り出された電圧や電流は、切り替えつまみ
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3-3デジタルテスターの使い方デジタルテスターでも電圧や電流の測定ではアナログテスターと同じく測定部位にテストリードのテストピンをあてがいます。テストピンで取り出された電圧や電流は、切り替えつまみで切り替えられたスイッチ回路を通してAD変換器を中心とするLSIと周辺回路へ送られます。
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3-4自動車用テスターとスキャンツール現在の自動車は電気回路や電子回路やマイコン、センサーにより電子制御されています。今後、自動運転化が進むにつれてこの電子制御化傾向はさらに加速していくものと思われます。
第4章 電気用品
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4-1電気回路と関係のある法律とマーク電気回路と関係がある国内と海外の安全に関する法律や安全マークに数回にわたって解説していきます。
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4-2JIS日本工業規格とは今回は、電気回路に関係している電気設備、電気用品、電気部品、電気材料や機械部品などの標準化を定めている日本工業規格(JIS:Japan Industrial Standards)(以下JIS)について調べていきましょう。
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4-3電波法と技適マークについて電波を公平かつ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進することを目的として定められたのが電波法です。多くの政令や省令に詳細が定められています。
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4-4人工知能(AI)とは準備中
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4-5CEマーク準備中
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4-6ULマーク準備中
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4-7CSAマーク準備中
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4-8FCCマーク準備中
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4-9VCCIマーク準備中
第5章 発電
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5-1発電の種類準備中
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5-2水力発電準備中
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5-3風力発電準備中
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5-4火力発電準備中
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5-5地熱発電準備中
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5-6バイオマス発電準備中
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5-7原子力発電準備中
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5-8内燃機関発電準備中