遠心ポンプの基礎講座

電力、自動車、建設機械、鉄鋼、化学、食品など、多くの産業分野において使用されている「ポンプ」。
本連載では遠心ポンプにスポットをあてて、ポンプの種類、またポンプで使われる記号や圧力計の読み方などの豆知識まで、さまざまな事項をご紹介していきます。
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第5章 知っておきたいポンプの技術

5-3 ポンプのシールの漏れ量

ここで取り上げたいシールは、軸封に使用するメカニカルシール及びグランドパッキン、軸受ハウジング内の潤滑油を外部に漏れないようにシールするデフレクタ及びオイルシールの4つの部品です。 ポンプメーカの方々は経験があると思いますが、筆者も使用者に漏れについて説明しても、なかなか納得していただけなかった経験があります。 つまり、ここで取り上げるシールは漏れ量に違いはあっても、必ず漏れるものなのです。それでは、整理して説明します。

メカニカルシールは、メカニカルシールの国際的設計規格ISO 21049及びAPI 682に、許容漏れ量は5.6 g/hと規定しています。漏れ量が零(0)だとすれば、回転環と固定環の摺動面が潤滑媒体のない固体潤滑して、摺動面が激しく摩耗するので、機械部品として使用できません。 2年とか3年の寿命を与えるために、摺動面は液による流体潤滑になるように設計しています。また、メカニカルシールは摺動面に液が存在していても、 軸方向すき間を数μmに保って許容量以下の漏れ量になるように設計されています。つまり、メカニカルシールは漏れるのですが、漏れ量を極少量に保っているのです。

グランドパッキンは、グランドパッキンと軸スリーブ(または主軸)の冷却及び潤滑のために、メカニカルシールよりはるかに多量の液を漏らしながら使用されています。

デフレクタは、オイルシールと同じ役割をしますが、デフレクタは非接触のラビリンスによって、軸受ハウジング内の潤滑油が大気に漏れるのをシールし、かつ、外部から異物が侵入するのを防止します。 例えば、ポンプの運転中にデフレクタの外側に白い紙を当てておくと、1分間当たり5から6滴の油が紙に付着します。 この油滴は紙上で1から2 mmほどの大きさなので、飛び散る油は目には見えません。デフレクタは非接触で1 mmほどすき間があるので潤滑油は必ず漏れるのです。 このことは私の知る限りでは、公的な規格の中に漏れ量の許容値はないので、使用者の判断に任せるしかありません。

オイルシールは、メカニカルシールと同様の説明になります。つまり、オイルシールのリップと回転側の摺動面が潤滑媒体のない固体潤滑だとすれば、摺動面が激しく摩耗するので、機械部品として使用できません。 半年とか1年の寿命を与えるために、摺動面は液による流体潤滑にしています。ただし、デフレクタと同様に、私の知る限りでは、公的な規格の中に漏れ量の許容値はないので、これも使用者の判断に任せるしかありません。

参考ですが、API 610では、軸受の潤滑がオイルバスになっているときに、潤滑油が漏れたとしても、軸受ハウジングに漏れた量と同量の潤滑油を自動的に供給するために、 「コンスタントレベルオイラー」と言う部品を付けるように規定しています。この規定は、油が漏れることを想定した規定であると考えられています。

執筆:外山技術士事務所 所長 外山幸雄

『遠心ポンプの基礎講座』の目次

第1章 ポンプの基礎

第2章 ポンプの豆知識

第3章 ポンプの性能

第4章 ポンプの選定

第5章 知っておきたいポンプの技術

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